■181 滝の裏側
今回は序盤の頃と被るお話だよ。
「はぁー!はあっ!」
私は一人で、川辺で刀を振るっていました。
その日はとても良い快晴で、先にログインしていた私はいつもの日課がてら、こちらでも刀の握りを身体に馴染ませています。
「刀華流“睡蓮”!」
私は川の表面をなぞるように、刀を水平に薙ぎ払いました。
すると軽く水飛沫が上がるだけで、音などはほとんどしません。
「ふぅ。では次は、刀華流“絢爛華”!」
太陽の光を利用して相手の視力を一時的に奪い、無数の突きを連続して放つ。
今のところ、1秒間に3〜4回が限界ですが、この子を完全に自分の身体の一部に出来る様になれば、もっと簡単に放てるはずです。
「今日も調子がいいですね、あなたもそう思いませんか、夜桜蒼月」
私は刀に話しかけました。
するとまるで「そうですね」と言いそうに、重さがジトッと変わって気がしました。
気のせいなのはわかっていますが、やはり良いものですね。
「さて、そろそろ戻りましょうか」
とりあえずの今後の方針が定まり、皆さん色々やっているようです。
スノーさんは得意のネットサーフィンで情報を集め、社交的なちなっちさんはタイガーさんを連れて、情報収集。
マナさんは足で稼いだり、時にはリオナさん達に協力を依頼して回っていますが、一向に情報が集まりません。
「私も探しては見ているのですが……なかなか。おや?」
そんな時でした。
ふと私の視線の先に映り込んだのは、青いゼリー質の生き物でした。
「アレはスライムですか?」
何故こんなところにスライムがいるのでしょうか?
ここは近くに滝がある、そこそこ危ない場所です。そんなところに安全を求めるスライムがいるものでしょうか?私は今までこの辺りでスライムを見かけていなかったので、驚きです。
「ん?」
しかもスライムは私の方をジッと見ており、まるで私を呼んでいるようでした。
「私を呼んでいる?」
私がそう口にすると、うなづくようにプルンと動きました。
まさかそんなことあるわけがない、と思う反面。私は、興味本位でスライムに近づいてみました。
するとスライムは滝の裏に回るようにして消えてしまいます。
「えっ!?」
私は声を出しました。
スライム自らが激しい水飛沫を上げる滝の中に飛び込むなんて、そんなことがあり得ますか?
私は目をパチクリと瞬きさせてしまいます。
「来い、と言うことでしょうか?」
先程の動きから、もしかしたら私を誘っているのでは、と推測します。
しかし滝の裏側となると、少し怖さが出てしまいます。
「この先に何かあるのだとしたら、行く価値は十分にありますね」
映画などでは滝の裏側に洞窟がある。そんな展開が考えられますが、それが本当かはわかりません。
しかし試してみる価値はあると思い、私は恐怖を振り払うように、思い切って滝の中に飛び込みます。
「頼みますよ!」
私は滝の中に飛び込みました。
凄まじい落下の痛みが、身体を襲いますが、それもほんの一瞬のことで、滝の裏側には空洞がありました。
「まさか、本当に洞窟があるのですね」
そこには洞窟がありました。
そこそこ幅もあり、水滴がポタポタと落ちていますが、壁も頑丈そうです。
「おや、スライムさんですね」
そこにはさっきのスライムがいました。
まるで私が来るのを待っていたかのように待機しており、私が近づくと、こう声をかけてみます。
「私に何か見せたいものがあるのですね?」
そう口にすると、予感は的中して、スライムは私を案内するように洞窟の奥に向かっていきます。
「付いてこいということですね」
私はスライムに付いていくことにしました。
湿った洞窟の中は音が反響して、遅れて私の耳に自分と足音と、スライムのポヨンと跳ねる音が聞こえてきます。可愛いですね。
「この先に何が……」
私が期待を込めてそう口にすると、洞窟の奥が光って見えました。
外に繋がっているのでしょうか?
光抜けて出口をくぐると、そこに待っていたのは、
「コレは……」
そこに広がっていたのは広い空間でした。
薄ら入り込む太陽の陽射しが空間を明るく照らし、その中心には大きな大樹が堂々と生えているのでした。




