■18 梅雨になりますね。いや梅雨ですね。
明日は後編を出します。
ブクマとかしてくれると嬉しいです。
6月1日。
今日から6月です。それから梅雨に入りました。と言うか、初夏です。
私と千夏ちゃんは今日も今日とて無難な学校生活を過ごしています。
「雨だねー」
「雨だよね」
ポタポタと雨が降り頻る。
細かい粒になって、まるで線のようだ。
「今日もやる?〈WOL〉」
「うーん。まあね」
「でもやることないよ?」
「んー。確か明後日には大型アップデートがあるっぽいから、それから楽しくなると思うよ」
「楽しくって?」
「ふふふ。なんと、ギルドシステムが実装されるのですよ!」
「千夏ちゃん、何だか目が怖いよ?」
千夏ちゃんは拳を振り上げてそう答えた。
ギルドってこの前小言で言っていたやつだ。
そういえば詳しい内容までは聞いていなかった。
「ギルドって?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「うん。聞いてないよ」
私がそう答えるとコホンと軽く咳払いをし答えた。
「ギルドって言うのはいわゆるグループのこと。最低三人からで、ギルマスとサブギルマスを誰かが担うことで初めて設立できるんだよ」
「それって大変?」
「うーんどうかな?でも、ギルドを組めばアイテムの共有が楽になったり、それこそ目玉のギルドホームが持てるようになるんだって」
「ギルドホーム?」
「作戦基地。つまり家みたいなものだよ」
へぇーそんなものまであるんだ。
面白い。
最低三人ってことは、私と千夏ちゃん。それからスノーが加われば、最低人数は揃う。
「じゃあ絶対スノーを仲間にしないとね!」
「だな」
千夏ちゃんは頷いた。
と言うことで、とりあえずの方針の目的が決まった。
そんな時だ。ふと小耳に挟んだのは、他の女子達の会話だった。
「ねえ聞いた?」
「聞いたって、もしかしてアレのこと?」
「そうそう。10月のピアノコンクール!」
そんな話をしていた。
「ピアノコンクール?」
「ああアレね」
「うちの学校から誰か出るの?」
「いいや。噂だと、同じ市内の他の学校の一年生が今年の9月にあるって言う都内のピアノコンクールに県代表に選ばれたっぽいよ」
「へぇー。凄いね、その人」
「うん」
そんなことがあるなんて知らなかった。
でも結局私には関係のないこと。だって私、ピアノなんてやったことないもん。
だからピアノを弾ける人はかっこいいと思うけど、だからと言って残念なことに私の感性では共感しづらかった。
「でもどんな子が出るんだろうね」
「気になる?」
「うーん、ちょっとだけ。だってその子って一年生なんでしょ。同い年で、しかも同じ市内で出る子がいるなんてどんな子なのかなーって、ちょっぴり思うもん」
「そんなもんかなー?」
「私はね」
何故か無性に引っかかっていた。
いつもはこんなことないはずで、他人事のように笑って聞き流していたけれど、今日はちょっと興味があった。
梅雨がそんなしんみりとした何気ないことにでも興味を抱かせるのだろうか?と勝手に妄想してみる。
(ホントどんな子なんだろ……きっと音楽が好きなんだろうなー。何て、そんなベタ展開だったりして)
私と千夏ちゃんは一緒に帰っていた。
傘を差し、降り頻る雨の中を歩いていた。
「雨降るねー」
「梅雨だからねー。仕方ないでしょ」
千夏ちゃんは素っ気なく答えた。
今までは部活をしていたけれど、もう辞めちゃったので暇なのかもしれない。
「千夏ちゃん部活したい?」
「えっ、なんで!?」
千夏ちゃんは驚いた。
「いやなんとなくね、その退屈そうだから」
そう私が答えると「うーん」と唸った。
「別にそんなことはないよ。ただ……」
「ただ?」
「雨ってやだなーって思って」
千夏ちゃんはそう答えた。
何だか嘘っぽかったけど、私はあえて何も言わないことにした。代わりに傘の広がった布をコツンと千夏ちゃんの傘にぶつけた。
するの驚いた様子だったけど、目に光が戻る。
口元を若干緩ませ、笑顔を作った。
「あっ!?」
そんな時だ。
急に雨が止んだ。
空を覆う曇天の黒雲が過ぎ去り、微かに青空を見せる。太陽が姿を見せ、キララと眩く輝いた。
「うわっ、眩しい!」
「あんまり見ない方がいいよ愛佳」
千夏ちゃんはそう言った。
私はそれを受けて顔を下げる。
傘を畳み、軽く雨粒を払う。
そうしているうちに、私達は川にかかった橋に来ていた。すると私達とは反対側、つまりは目前から人が歩いて来ている。
銀色の長い髪。
目を惹くのはそれだけではなく、その制服もそうだった。確かアレって進学校の頭のいい学校の制服だ。
(凄いなー)
何となく意味もなくそう思った。
そうして彼女の隣を通った時、私はふと引っかかった。
あの顔。チラリとほんの一瞬しか見えなかったけれど、どこかで見たことがある。
顔は髪で少し隠れていて、誰で何処で会ったのかは分からないけど何となくここで放ってはいけない気がした。
私はそんな衝動に駆られ、すかさず後ろに方向転換。
そうして彼女の手を何となく掴んでしまった。
「ねえ!」
「っん!?」
彼女は私の顔を見る。
その瞬間、私の目に飛び込んできた見慣れた顔付きに驚愕した。
逆に彼女は不思議そうな顔を見せる。
「あの、何です?警察に通報しますよ」
「捕まえた」
「はい?」
彼女はそう口にする。
千夏ちゃんも急に振り返った私に気が付き、不思議そうに声をかけた。
「おーい愛佳。なにしてんの」
しかしその言葉は私の耳には届かなかった。
私は代わりにこう口にする。
「やっと見つけた。いいや、捕まえたよ。スノー!」
私は笑顔でそう答えた。




