■179 改めてライバル宣言
ピアノコンクールはノースの優勝で幕を閉じた。
圧倒的な実力で、周囲を席巻し、堂々と優勝トロフィーを受け取った。その時のノースの顔は笑顔を無理矢理貼り付けたようなものだったけど、やり切った感は伝わっていた。
「凄かったねノース!」
「まさか自分の曲を弾くなんてねー。でもそれってありなんだ」
まあそれはそうだ。
ちなっちは間の抜けた感じで言うけど、それはそれでどうなんだろう。確かに大会のレギュレーション?違反にはなっていない気がするけど、いいのかなと少し疑問に思うが、ノースはそんなことどうでも良さそうだった。
「はぁー、疲れた」
「お疲れ様です、ノースさん」
「ああ」
ノースは刀香ちゃんから、労われたけど、全く反応しない。適当に軽く流す程度なのが、いつものノースっぽい。
「これも邪魔だな」
そう言ってせっかく貰ったトロフィーを適当に地面に置いておく。
それにしてもおっきなトロフィーだ。そう言えば・・・
「前にノースの家に行った時、たくさんメダルとか賞状とかトロフィーがあったけど、あれって?」
「ん?あぁ私が押し付けられたガラクタの山だな。捨てておけと言ったのに、クロノア達が何故か嬉しそうに棚に並べていたな。気持ちが悪い」
いやいやそれって、すっごく愛されてるんだよ。やっぱりクロノアさん達はノースに頼られたいんだなー、って気がガンガン伝わる。
それにしても今日は来てよかった。
色んな人たちの演奏が聴けたし、特にノースともう一人。ライムちゃん、の演奏には身体が熱くたぎった。
「でもまさかライムちゃんが、ノースと同じ選曲なんて驚いたよね」
「アイツのことだ。わざとだろうな」
「まあそうだよね」
何となく私にもそんな気がしてならなかった。
ノースを自然とライバル視しているライムちゃんだったらやりそうだと、初対面なのに察したもん。それにしても・・・
「よく、土壇場で曲を変えたね」
「う、うん。私も、気になってた」
私と大河ちゃんが尋ねた。
するとノースは少し恥ずかしそうにする。
「ふん。私はただつまらない約束を守っただけだ」
「つまらない約束?」
「あれではないですか。以前ノースさんが、「いつかな」と言っていたものです」
やっぱりそれか。
私はポンと手を叩く。すると、ノースはギリっ!と鋭い目で威圧するけど、全然怖くなかった。むしろ可愛かった。
「うぃーうぃー、やっぱりノースはいい子だねー」
「悪がらみするな」
ギロッと視線をちなっちに向ける。
しかしちなっちは一切怯まず、にこやかに笑っていた。
「はぁー、とっとと帰るぞ」
ノースがそう言って立ち去ろうとした時だった。
「高坂さん!」
そうノースを呼び止める明るい声。
振り返ってみれば、そこにいたのはライムちゃんだった。
「私の完敗ですわ。優勝おめでとうございます、高坂さん」
「ありがとうございます、レインフォードさん」
スーパー猫被りタイムに突入したみたいだ。
ノースはレインフォードさんとの会話をあんまり楽しんでいないみたいだ。多分馬が合わないからだと思う。
「まさか同じ選曲で、私の方が優れていると高坂さんに認めさせる計画でしたのに、残念でしたわ」
「そんなことで張り合っていたんですね。ごめんなさい、私は興味がないので」
「全然構いませんわ。それに、そんな姑息な手段で勝ちを誇るのも私としても気分が良くありませんもの。でも今度は私が勝たせてもらいますわね、覚悟しておいてください」
じゃあ何で同じ曲にしたのかな?なんて野暮なことはこの際言わない。それよりもライムちゃんはノースに改めてライバル宣言をしていた。カッコいい、いわゆる熱い展開だ。
だけどライムちゃんは頬に人差し指を押し当てて、考える素振りをみせた。
「それににしても先ほどの曲は一体何だったのでしょうか?私は聴いたことがありませんわね」
「あっ、それは」
私はついつい口を滑らせた。
するとライムちゃんは私の元にサッとやって来て、手を繋がれる。
「愛佳さんは知っているの!?」
「は、はい。あれはトワイライト・メトロノームって言うゲームサウンド、だよね?」
「うん」
私はちなっちに同意を求める。
するとライムちゃんは「ゲームサウンド?」と首を傾げた。多分、その手のことには疎いんだ。
「えーっと、確か『CALL MY INSIGHT』のサントラにも入ってたよね?」
「ええ、入っていたはずですよ」
「だって」
私はライムちゃんは笑顔で教える。
するとライムちゃんは目をキラキラ子供みたいに輝かせる。
まるで目の中にお星様があるみたいで、
「そうなんでね!それでは一度そのゲームをプレイしてみなくてはいけませんね!」
「あっ、いや。曲自体はサントラ集に」
「ちなみにそのゲーム、どこでいくらで買えるのですか!」
「えっ!?」
そんなのこと言われても、私達はノースに貰ったからわからないよ。
しかしノースはすぐに答える。
「1stの廉価版なら3980円ですね。通常盤になると、5980円、ダウンロード版は5480円。それから、限定盤になると8800円と少々お高いですが、特典が豪華ですよ」
へぇーそうなんだ。
関心?した私だったけど、何よりも感銘を受けたのはライムちゃんだった。
「そうなんですのね。では、今から限定版を買いに行きませんと。それでは、皆さんまたいずれ。愛佳さん、電話いつでも待っていますわ!」
そう言ってライムちゃんはさっさと行ってしまった。
何だか風のような人だ。私達はそう思いつつも、何処か慌てん坊なライムちゃんが可愛かった。
明日からはしばらく投稿はお休み。
サイバネットやゆうししょは更新しますね。




