■176 黒を編む
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「せーのっ!」
私は突進して来た牛型のモンスター、モウギュウバイソンを止めた。
右手につけた、〈暗縫の黒星〉によって、突進の威力を吸収されて、完全にいなすことが出来ていた。
「凄い凄い、そのままだよマナ!」
「オッケー、ってうわぁ!」
ちなっちが合図を送るが、モウギュウバイソンの圧倒的なパワーによって、消しきれなかったのか、衝撃で地面がぬるってとなって、体勢が崩れた。
(ヤバっ!)
私はやられると思い、【雷歩】を使って急いでその場から逃げる。
するとモウギュウバイソンは私の存在を見逃して、一瞬パニックになったけど、そのまま興味を失って何処かへ走っていってしまった。
「あっ、待って!」
しかし私が振り向いた時には、モウギュウバイソンはかなり遠くの方に行っていた。あれは戻ってこない。
そう確信して、私とちなっちはお手上げになって、武器をしまった。
「あーあ、もう少しだったのになー」
ちなっちはダラーンとなる。
それを見て、
「ごめんね、もう少し私が踏ん張れたらよかったんだけど」
そう答える。
しかしちなっちは「いいっていいって」と快く切り替える。
「それよりさ!その手袋凄くない?全然痛くなかったんでしょ?」
「うん。全くね、あっでも流石に衝撃は全身に来るけど」
腕は痛くない。
代わりに身体中を静電気みたいな痺れが襲っていた。それを聞くとちなっちは、
「そっかー。じなああんまり使いすぎもよくないね」
「うん。今はよくても、使いすぎたら手が痺れてまた白星みたいになっちゃうかも」
そう言えばあの時もおんなじようなことがあったっけ。
〈波状の白星〉も、最初は腕が痺れて動かなかった。今だと、そこそこ使えるようになったけど、連続で使うと体が堪える。かなり諸刃の剣感が強いけど、それでも性能はお墨付きだ。
「シズももう少し軽減してくれたらいいのにねー」
「それは……そうかも」
「だよね!」
でもでもシズさんは立派にやってくれたのは本当だ。
何様かとは思うけど、私はシズさんの作る武器をかなり気に入っている。
ちなみに今日は私とちなっちの二人だけだ。
他の皆んなはバイトだったり、レッスンで忙しいらしい。もう少ししたらログインするみたいだけど、それまでの間先にちなっちに新武器を見せておきたくて、こんなだだっ広い草原にやって来ていたのだ。
「それにしても、テーマがブラックホールって、何だか本格的に“星”の印象が強くなったね、マナ」
「うん。でも、暗闇を縫うなんて、結構それっぽくない」
「それっぽいって?」
「レゲエ感と言いますか、メタル感と言いますか?」
「わかってないじゃん」
「うん」
適当なことを言っていた。
でもでも、言われてみれば確かに私の武器は“星”の名前を冠していたりだとか、それがイメージされていたりするみたいだ。不思議なこともあるね。もしかして、そう言う仕様ですか?
「暗闇を縫う……暗闇を編んで、閉じ込めてるって感じかな?」
「あっ、それっぽい!」
私はピンと来た。
そう言うイメージなら付きやすいかも。暗闇を編んで、閉じ込めるのかー。ますます雰囲気が出るね。
「でも、こっちからの攻撃力もないんでしょ?」
「うーん、普通に殴るだけ?」
「スキルは?」
「【聖拳】のこと?でも、あのスキルって」
「違うよー、スキル全般が通るのかーって話」
あっ、なるほど。
もしそうなら、今からでも戦闘系のスキルを取りに行けばいいもんね。よーしやってみるぞ。
「【雷歩】は使えたから【コットンガード】!」
私は叫んだ。
すると羊毛が集まって、私の分身を作り出す。
「よし、じゃあ次は【跳躍】!」
今度は脚力を強化して高く跳び上がる。
じゃあ今度は【聖拳】って思ったけど、あれれ?全然、発動しないぞ。
「あー、スキルは通さないんだねー」
「う、うん」
「じゃあマナのステータス上げないとね」
「あっ、そう言うことになる?」
なんか嫌な予感がした。
しかもその予感は的中した。
「じゃあ今日から毎朝ランニングと腕立て、腹筋、スクワット100回ずつやっちゃおっか!」
「あ、あれれ?」
「さあマナ!」
「えーっと、もちろんこっちでですよね、ちなっちさん」
「なに言ってるの。さあ、戻るよ!」
「で、ですよねー」
私はちなっちに引っ張られる形でログアウトさせられた。
それから私はちなっちと一緒に、毎日筋トレさせられる羽目になるのでしたとさ。とほほほほ・・・
ちなっちと一緒だと、素直になれるマナ。
それから久々の【聖拳】はあんまり役に立たないけど、〈暗縫の黒星〉を合わせれば、最高のパワーを生み出すぞ!




