■171 報酬は蜘蛛の糸
ご都合主義もいいところ。
私達は無事に疫嬢蜘蛛を討伐した。
炎の中で、燃え焦げていく、疫嬢蜘蛛の死骸を見守り、私達はドロップアイテムを確認する。
「あっ、蜘蛛の糸だ」
「珍しいな。【幸運】のスキルか」
スノー曰く、蜘蛛の糸というアイテムはなかなか珍しいみたいだ。
そう言えばさっき疫嬢蜘蛛が吐き出した糸が、頭についていたっけ。私はそれを取り除くと、インベントリの中に入れた。
「蜘蛛の目……うわぁー、私のは駄目だ」
「蜘蛛の堅殻か。渋いな」
「ううっ」
ちなっち、スノー、タイガーは微妙な表情を浮かべた。
しかしKatanaだけは、首を傾げる。
「これはなんでしょうか?」
「ん?見せてみろ」
「はい。こちらですが」
Katanaがスノーに見せると、「ほぉ」と感心していた。
「どうしたの?」
「蜘蛛の棘だ。鏃に使うことで、強い毒性の矢を放つことが出来る」
スノーの話だと、この棘を加工して鏃に使えば、かなり鋭い矢が作れるそうだ。
先端に毒を塗ることで、普通の矢と比べて高い吸収性を実現出来るとのこと。よくわからないけど、凄いや。
「だが本当に良いものは、マナの入手した糸だな」
「そうなんだ。そう言えばシズさんに頼まてたっけ」
「シズに?なにをだ」
「疫嬢蜘蛛の糸が手に入ったら、譲って欲しいんだって。その代わりに、私の新しい武器を作ってくれるらしいよ」
私はこの間のリオナさんとの話を簡単に話した。
すると皆んな「ふぅーん」と、ゆったり聞いていた。そんなに興味なそうでショックだった。
「でもでも、これでこんな洞窟から出られるね」
「それもそうだな。こんなところに長居は無用だ」
「さんせーい。それじゃあ早く帰ろっか」
そう言って、ちなっちが先に洞窟を出ようとする。
その後を私達も続いた。
「待ってよ、ちなっち!」
「ふふーん。早く村の人にも、教えてあげないとねー」
そうだそうだ。村の人達に疫嬢蜘蛛を倒したこと、教えてあげないと。
私達は足を急いだ。
村に戻ってくると、そこにはさっき私達が出会った男のNPCが一人、ぽつぽつと同じところを行ったり来たりしていた。
しかし私達の無事な姿を見ると、安心したのか。ホッと胸を撫で下ろすように、声をかける。
「おっ、帰ってきた」
「ただいま戻りました」
私は代表として答える。
すると男の人は、動揺した様子で、震え出す。
「そ、それで君達がここにいるってことは!」
「はい、倒しましたよ。これが証拠です」
私はインベントリの中から、疫嬢蜘蛛の堅殻を手渡す。
すると目をカッと見開いて、驚いた様子を抱いた。
「こ、これは疫嬢蜘蛛の!」
「はい。無事に倒せたので、これで村への被害や疫病はもうなくなると思いますよ」
私は安心してもらおうとそう答える。
ここまでの話は、全部スノーが作ってくれた台本に沿ったものだけど、確かにすぐには戻らないかもしれないけど、これ以上の被害は出ないと信じたい。
「そ、そうか。ありがとう、君達のおかげだ」
「いえ、あのそれから」
「ん?」
「コレを持っていけ」
スノーが差し出したのは薬の入った小瓶だった。
それを貰った男は、首を傾げる。
「コレは何かな?」
「ソイツは飲み薬だ。常温の水に少し溶いてから、飲ませると、疫嬢蜘蛛の毒程度なら治癒することができる」
「えっ!?」
「嘘っ、そんなの持ってたの!」
流石に私も驚いた。
スノーが何かを渡す素振りを見せていたから、言っただけなのにそんなアイテムを持ってきてるとは思いもやらなかった。
「いいのかい、こんなものを貰ってしまった」
「構わない。それに、同じものなら幾らでもある」
そんなに用意していたんだ。
「当たり前だ。準備も満足にしていない状態で挑むほど、私は馬鹿じゃない」
「あっ、そ、そうですか……」
どーもすいませんね。
私はスノーの用意周到さに感心しながらも、これで村の人達も良くなって、私達のクエストも無事成功して、ひと段落ついたことに、ようやくホッと胸を撫で下ろすことが出来ました。
さあ次はいよいよ、私の新しい武器を作ってもらいましょうか。
私は次のワクワクに、胸を高鳴らせていました。




