■170 疫嬢蜘蛛②
やっぱり炎は最強!
レッドは最強!
暗闇の中から姿を現した疫嬢蜘蛛の姿はおぞましい姿をしていた。
蜘蛛の身体に女の人の顔。気持ち悪いにも程がある。
「アイツ口から消化液吐いてきたぞ!」
「ゾンビゲーなら定番の仕様だ」
「でもあんなのがかかったら絶対やだよ」
そんなの誰だってそうだ。だって私だって嫌だし、もし本当に掛かっちゃったら、テンションかなり下がっちゃうもんね。
「それにあの液に触れたら多分まずいよ」
「うん。身体が溶けちゃうかも」
「それもそうだけど、アレには強い毒性があるんだろ。じゃあ私達が触れたらさ」
その瞬間全身を駆け巡った悪寒に身体が震えた。確実に死亡ログが出るに違いない。それはすなわちクエストの失敗と、他の人に負担が掛かることになる。そんなことになったら依頼を破棄する他ない。でもそうしたらあの村の人達が・・・そう考えただけで頭が痛くなる。
「だがこのまま放置にもできないだろう。既に奴の逃げ道は断ってある。ならやることは決まっているだろう」
スノーにそう促された。確かにスノーは貴重な矢の何本かと丈夫な糸を使ってまで、長期戦に備えてくれていた。
だったらそれを使わない手はない。
「よーし、じゃあいつも通りやろっか。その方が変に動きを合わせなくてもいいもんね」
「ああ。だが私はもう弓は使えないぞ」
確かにこんな狭いとこで乱戦にでもなったら、スノーの弓はあまりに危険すぎる。ここはしぶしぶ大鎌で頑張ってもらう。
後はちなっちとタイガーが前衛。私とKatanaが遊撃部隊として機能できるかにかかっていた。だけど今回は当たれば一巻の終わりだと言うことを忘れちゃいけないので、肝に銘じておく。
「じゃあいくよ」
「ちょっと待て。いいか、万が一の時はマナの後ろに隠れろ」
「なんで?」
「いいからやれ」
スノーはそう忠告した。でもなんで私の後ろに隠れる必要があるんだろ。不思議だ。
私は疑問に思いつつも、待ってくれない疫嬢蜘蛛を相手にすることとなった。
「まだいるね」
「当然だ」
疫嬢蜘蛛は未だにそこにいた。
炎を嫌うかのようにその場で一切動く気配を見せない。集中的に狙うには十分だった。
「じゃあ手はず通り」
「OK」
ちなっちとタイガーがまずは攻め込む。お互い圧倒的なスピードと反射神経の高さを利用して疫嬢蜘蛛の遠距離攻撃、消化液をギリギリで回避する。
「うわぁ危ねぇ!」
「なんのなんの!」
ちなっちに明るさが戻ってきた。調子が出てきた証だろう。
それもそのはずでさっきからバンバン躱してはスピードが上がる。あまりの速さに私の目は追いつかない。
「せいやっ!」
「食いやがれ」
ちなっちの双剣が疫嬢蜘蛛の背中を斬り、タイガーの拳が顔面を殴りつけた。
だがその拍子に反撃をくらい長い蜘蛛の脚が襲い掛かる。
「危ねっ!」
バックステップで後ろに飛ぶと、タイガーは一度体勢を立て直すためkatanaと交代する。
「龍蒼寺流漆ノ型“粉雪”!」
Katanaの〈夜桜蒼月〉が疫嬢蜘蛛の腹を引き裂く。
痛々しい。だけどその間にも私とスノーが気づかれないように近づいていた。
「せーのっ!」
「ふん」
私とスノーの見事な連携でさらにHPは削れた。
ここまでの叩き込むような連続攻撃の嵐に巻き込まれた疫嬢蜘蛛は一気にHPをすり減らす。
見ればもう黄色のラインを下回っていた。
「もう少しだね」
「そうだね。ちなっち!」
「ヤバっぁ!?」
追い討ちを食らわそうとするちなっちだったが、その瞬間疫嬢蜘蛛は口のから液を吐きかけた。
しかしちなっちはそれをギリッギリのところで避けると、私の背後に隠れる。
「えっ、ちょっとなにしてるの!?」
「これでいい」
「言い訳ないよ」
標的を見失い、一番近くにいた私に液をぶっかける。
気持ち悪い。ドロドロで汚いし、変な臭いもする。汚い、臭い。でもあれ?私毒エフェクトが出てないよ。
あっそっか。すっかり忘れてた。
「私、状態異常攻撃効かないんだった!」
「大事なことだから忘れるなよ。それがなかったらこんな策は取れなかった」
なるほど、スノーはそのことを覚えていて私を盾にしても大丈夫だって知ってたから皆んなに私を盾にさせていたのね。納得、いやいやできないできない。なんかこれって私だけが貧乏くじ引かされてるよね。
「そんなことをいちいち構うな」
「構うよ!」
「そんなこと言っている暇があるなら奴を倒すことだけ注力しろ。来るぞ」
確かにそれも一理ある。
如何やら疫嬢蜘蛛の動きが明らかに変わったのが目に見えて理解出来た。急に全身を利用して炎に一切怯むことなく向かって来た。
「全員避けろ!」
スノーの指示のもと私達はそれぞれ横に回避する。
だけど疫嬢蜘蛛の動きはしつこくて、長い脚を利用して私達を狙ってくる。それらを軽くいなしながらバラバラに武器を構えて次の動きに真剣に取り組む。
「次の終わりだ。準備はいいな」
スノーはそう指示を出す。
私達は軽く頷くと、疫嬢蜘蛛に向かって突撃した。
まずは背後のちなっちとタイガーが攻撃を仕掛ける。
次にKatanaが、横から刀で斬り裂く。最後に私とスノーが正面から相手にする。
「全部は対処できないでしょ!」
各々が各自自由な攻撃を続け、疫嬢蜘蛛の対処が行き届かないようにした。
そうすることで疫嬢蜘蛛の動きはブレブレになって、私達の攻撃は見事にトドメとなった。
「せいやっと!」
最後に決めたのはちなっちの一撃だった。
赫い双剣に引き裂かれ、疫嬢蜘蛛は死んでしまう。最後に残ったのは巨大な蜘蛛の死骸だけ。そこにスノーは無情にも火炎石を投げ込んで、無事に疫嬢蜘蛛を討伐完了した。




