■17 フレイム・オブ・エンチャント
後編です。
次の話も前後編です。
私とちなっちは死力を尽くす。
まずは私からだ。
「行くよ〈麒麟の星雫〉!」
私は剣の柄を強く握り込み、走り出した。
ポイズンアナコンダは尻尾攻撃を繰り出そうとするが、それはさっき見た。
私は転がるようにして躱し、そこに付け込んで放たれた毒は〈麒麟の星雫〉で斬る。
多少頬に掠ったけど、【毒耐性(小)】のおかげでダメージを食らうことはなかった。
「せーのっ!」
私は更に斬り込んだ。
深い傷がポイズンアナコンダの体に入る。
それを見てか、次はちなっちが本気な目になっていた。
「よっしゃー、じゃあ私は魔法でブーストかけるよ!」
そう言って何かを唱え始めた。
そうして剣をクロスさせ叫ぶ。
「《フレイム・オブ・エンチャント》!」
そう口にした。
すると銀色の剣の刀身が赤く染まり、炎を噴き上げる。
まるで生きているかのように生き生きと燃え上がり、紅蓮の剣を生み出した。
「さあいっくよー!」
そう言いながらちなっちは急激な速さで近づいて来た。
【加速】のスキルを加えながら、猛烈な速度でポイズンアナコンダに接近し、乱れるような連撃を放つ。
繰り出させる二刀流の無数の攻撃。
細かな傷痕を幾つも作り、ポイズンアナコンダのHPを削っていく。
堪らずのたうち回るポイズンアナコンダ。見ればステータスバーには炎のエフェクトマークが浮かんでいた。
「アレなに?」
私は不思議に思った。
少しずつポイズンアナコンダのHPが減っている。毒よりかはほんの少しだけ減り遅いが、確実にダメージを与え蓄積していた。
「よし、火傷!」
「火傷?」
火傷状態になると毒状態のようにHPが少しずつ減っていく。
炎属性を含めた攻撃が当たると、低確率で発生するらしい。
ちなっちの魔法は炎属性。
それ故に低確率を引き寄せ、ポイズンアナコンダに苦しみを与えたのだ。
「ちなっち、一気に決めよう!」
「わかってるって!」
ちなっちは親指を立てた。
グーサインだ。
私は軽く頷き返し、〈麒麟の星雫〉を構える。
そうしてポイズンアナコンダに近づくと、そのまま斬り下ろした。しかしそれでは怯まず、ポイズンアナコンダは噛み殺そうと仕掛けてくるが、それをちなっちがガードした。
「ちなっち!」
「大丈夫大丈夫。心配要らな……マナ後ろ!」
「後ろ!?」
私はちなっちの言葉を受けて後ろを振り返る。
するとそこにはポイズンアナコンダの尻尾が迫って来ていた。私は避けることが出来ず、そのまま弾き飛ばされ剣を落としてしまう。
立ち上がり拾い上げようとしたが、手が痺れていた。ポイズンアナコンダの尻尾には強力な麻痺の効果があったのか、私は麻痺状態に陥っていた。
「し、痺れて動けない」
痺れているのは利き手だけ。
だから歩くことは出来た。しかし剣を拾い上げる力はない。
何とかちなっちが時間を稼いでくれてはいるが、それでは足りなかった。
何か、何かないの……そんな時だ。
またしても私の前に新しいキーワードが出てくる。
「なにコレ?」
そこにはこうあった。
【反転】
レア度:レア
習得条件:一度の戦闘中に二回以上、違う状態異常を発症する。
説明:スキルの発動条件一つを反転する。
よくわからない。
でも何でこんなスキルが今更手に入るんだろう。
訳がわからない。
しかしそんなことも言っていられない。
私は武器も何も持たず飛び出した。
「マナなにやってるの!」
「わかんない。けど、やらなくちゃ!」
私はそう言って拳を突き上げた。
ポイズンアナコンダの体に触れる。その瞬間、私の拳を光が包み込んだ。眩い閃光が輝きに変わり、直後ポイズンアナコンダの肌を貫く感触がじわじわ伝わって来た。
そうすると、いつの間にかポイズンアナコンダのHPはガッと減り、消えてしまった。
「な、なにが起きたの?」
「わからない。でもマナが倒したんだよ」
「私が、倒した?」
訳がわからなかった。
私が倒した。それは解る。でも如何やって?
困惑する私の前はまたしてもスキル獲得の証が出現した。
そこにはこうある。
【聖拳】
レア度:マスター
習得条件:武器を装備した状態で、武器以外の攻撃を繰り出す。相手のHPが自身の二倍以上の時。
説明:相手の防御力を無視してクリティカルを出す。その際のダメージ量は自身のSTR×残り体力の割合になる。
と書いてある。
如何やら私は土壇場でマスターレアのスキルをものにしたらしい。これも多分【幸運】のおかげだろう。
それにしても無事に倒せてよかった。最後は妙に呆気なかったけど、それでもしんどかったことには変わりない。
座り込む私にちなっちが手を差し伸べる。
「お疲れー」
「うん。お疲れ」
私は当たって立ち上がった。
剣を納刀し、ちなっちとハイタッチする。
「なんとか倒せたね」
「だね」
私とちなっちは洞窟の奥に行ってみることにした。
そこからは光が差し込んでいて、奥に行くと綺麗な池があった。滝のように水が上から流れ、出島のようになった草の生えた土地には赤い宝箱が一つある。
多分これが報酬だ。
「開けてみよ」
「うん」
私とちなっちは宝箱を開けた。
中にはローブが入っていた。真っ赤なローブだ。
「なにかなコレ?」
私は手に取ってみた。
すると説明が出てくる。
「えっと、〈火の粉のローブ〉だって」
「〈火の粉〉?」
「うん。炎を吸収して攻撃力と防御力を上げる効果があるみたいだよ」
私は説明欄を読んだ。
私は手にしたローブをちなっちに渡す。
「はいちなっち」
「私に?なんで。倒したのはマナだよ?」
「私はコートがあるし、それにコレって炎に惹かれるんでしょ?だったらちなっちの方がいいよ。炎っぽいし」
「それ私の魔法見て言ってるでしょ」
「うん!」
「単純だなー」
呆れるようにそう口にした。
「それにちなっちが居たから倒せたんだよ。私一人じゃ無理だった。だからコレはそのお礼」
「お礼って。そんなことし合う仲じゃないでしょ。もっとフランクな関係」
「うん。でもちなっちの防具貧弱じゃない?」
「うっ、痛いところを突かれる。はいはい。ありがたく貰っておきますよ」
「どういたしまして」
私が差し出したローブを受け取るとちなっちは纏う。
少しかっこよくなった気がする。
それにちなっちも気に入っているようで、自分の格好をニヤッとしながら見た。
「じゃあ帰ろっか」
「オッケー」
こうして私達は洞窟探索を終了したのだった。




