■168 洞窟に潜む糸
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私達は近くの山にやって来た。
あの村に一番近く、そして一番毒の影響を受けていそうな山はここしかない。なんでわかったのかは簡単な話で草木が妙に萎れていたことだ。これを発見したのはスノーとタイガーの二人。
「この山の中だよね、やっぱり」
「間違い無いだろうな」
「うぇー。変な匂い」
タイガーの嗅覚を抉ったのは酷く荒れた枯れた木々の匂いだった。普段から料理に遊んでいるからこそタイガーの味覚や嗅覚は異常に鋭く、そのせいでさっきからしている異臭にも敏感になり渋い顔をしていた。
「じゃあ洞窟に入ったらもっと酷いかもね」
「うえっー」
明らかにテンションがだだ下がるタイガー。
でも洞窟内は疫嬢蜘蛛の住処。そんなところに入ったらきっと今以上に酷いことになってるかも。
「それじゃあ洞窟探そっかー」
「あったよ」
「「「えっ!?」」」
ちなっちが洞窟を探そうと提案すると同時に、私は洞窟を見つけたことを報告した。すると皆んなから「えっ!?」と驚かれる。そんなに驚かなくてもいいじゃん。
「いつ見つけたんだ」
「えっ?だって、ほら」
「ん?」
スノーは私がを指差した方を見る。
するとそこは他とは一線を隠す勢いで枯れ果てた草木が覆っていた。覆うと言うより、もはや枯れ木しかない。ってか、枯れ木以前にただの“枯れ”だよ。これじゃあもうそうだよ。
「確かにな。しかもあそこには」
「穴空いてるねー。下に向かって伸びてる?」
ちなっちが目を凝らして見てみればそこには確かに洞窟が広がっていた。しかも結構深そうだ。
「行ってみる?」
「待って」
タイガーが足を止めた。嫌な顔をしている。
多分私達が気づかない程に強烈な匂いなんだろう。もしかしたら完全に麻痺してるのかも。
「大丈夫タイガー?」
「ちょ、ちょっと待ってね。ふぅはぁふぅはぁ……うん、大丈夫だ!」
大丈夫かな?無理してるように見えるけど。
心配になったので、私はタイガーに声を掛けておく。
「タイガー、辛くなったら言ってね」
「あぁ任せとけ!」
「そう言うことじゃないけど。まあいっか」
流石にこれ以上このまま森の中にいてもしかたない。
もしかしたら洞窟内の方がマシ説もある。まだ諦めるには早い。早速私達は心配も残る中、洞窟の中に足を踏み入れた。
洞窟内はジメジメしていた。
湿気が多くて足取りも重い。身体が思った以上に堪える。
「湿度が高いな。水滴はないにしても服の中に染み込んだ汗が動きを鈍らせるのか」
「うわぁ」
「大丈夫ですかタイガー」
「う、うん。ありがと」
普段よりも暗くておまけに足場も悪い。
周りを岩肌に囲まれていた圧迫感もあった。それにしてもこの洞窟、結構広いなー。入り組んでないだけいいのかもしれないけど、少なくとも今のまま進んでたらその内バテちゃくかも。ちなっち以外はーー
「ふふーん。ふふふーん。おっ、よっと。皆んな遅いよー!」
先を歩くちなっちは依然として大差ない。
足場がいくら悪くても湿気で周りがジメっとしても変わらない呼吸のリズムと足取りで私達を誘導してくれる。
「どんな体力をしているんだアイツは」
「無尽蔵とはまさにこのことですね」
「私も体力はある方なんだけど……」
皆んな口々にちなっちの無尽蔵の体力の話をする。そう言えば昔からちなっちって体力とか運動神経はピカイチだった。
元々抜群のセンスも相まって練習を怠ったりしない。だから着実に伸びてて、中学の頃だったかな?それがずば抜ける時期があった。皆んな唖然としてちなっちの動きに目を奪われてたけど、何より凄いのはーー
「ちなっちはダウナーじゃないからね」
そう言うことだ。
話し方はあんなだけど実際ちなっちはとても熱い。燃えるような炎を内側に燃やしながら、周囲を焚きつける炎だ。
あの喋り方も余裕の現れ。あれが消えた時はホントにヤバいことを表していた。
「ちなっちー、前どうなってる」
「うーん?なんともないよー。うわぁ、んにゃ?」
どうしてんだろ。ちなっちの足が止まった。何かあったのかも。
そう思い少し足早に近寄ろうとするのだが、ちなっちはそのタイミングで叫んだ。
「駄目、来るな!」
「えっ!?」
ちなっちは叫ぶや否や〈赫灼相翼〉を取り出すと暗がりに向かって斬りつけた。何か硬いものに金属の刃が触れた音がした。
そのまま二、三度何かと交戦すると、ちなっちは私達のいるところまで一蹴りで後退した。
ジリシリジリリィッーー
荒れた岩肌を削り、ちなっちが戻って来た。
「ちなっち!」
「来たっぽいねー。こいつはヤバそうだ」
ちなっちの口調が変わった。
目の色も発せられる圧も本気の本気だ。こんなちなっち久々かも。
「そんなにヤバいの?」
「うん。コイツは本気で当たらないとヤバそうだ」
そんなにヤバいやつがこの暗闇の向こうにいる。
私達はそれぞれ武器を取り出すと、向こう側の敵に対して待ち構える。さて、何処から来るのか。見えない敵と戦う恐怖を感じながらも、私達は怖気付く気は一切ないのだった。




