■163 文化祭⑤
文化祭編最終話。
明日は大事な日。緊張するなー。
お化け屋敷の中を覗き、それから色々な出し物を見て回った。そうして昼下がり。文化祭も佳境に入ると、不意に聴こえてきた音が気になった。
「えっ、なに?」
その音は外から聴こえる。
ふと視線を窓の外に向ければ、人だかりが出来ていた。そう言えばさっきから廊下が空いていた。さらに目を凝らしてみれば、中庭に出来た特設ステージが気になる。
「アレなにかな?」
「スピーカーからしてこの音。ギターだな」
「ギター?」
「つまりだな……」
ノースが答える前に答えが披露された。
ノースの声を掻き消すように鳴り出したエレキギターの旋律が校舎の壁を反射させて広場の中央に注がれる。高速でピックとコード?を変えながら奏でられるそれは素人の私から見ても凄いと思った。
さらにさらにステージには他にもベースやキーボードの人がいる。コレってアレだよね。
「バンド?」
「だろうな。確かにこの時間は軽音楽部のステージがあるとパンフレットにも書いてあるな」
そう言えばそうだった。
それにしてもなんの曲かはわからないけど凄い。っかカッコいい。私はノースと違って楽器は弾けないし、音楽用語もよくわからない。だけど一つ一つの音が皆んな一体化したみたいに感じたし、それに何より突き動かすような興奮があった。
「なんの曲かわかんないけど、なんかいいね」
「そうだねー」
「ん?これはCycloneだな。コピーバンドだ」
「そう言う話じゃないんだけど」
冷めた反応をするノースに苦笑いしした。
それにしてもCycloneってタイトルカッコいいね。確か熱帯低気圧のことだったはずだけど、熱い感じがしてピッタリだった。
「アップテンポかつロック調だからな」
「ん?」
「もういい」
呆れられてしまったみたいだ。
何だか心外だけど、正直本当のことなど強く当てられない。
そんな最中、私が興味を抱いた事には何となく察したみたいで刀香ちゃんがこんな提案をしてくれた。
「いつかやってみたいですね」
「うん」
私はいつにもなく大きく頷きはっきり答えた。
正直音楽の才能なんかないんだけどね。
気づけば夕暮れ時だった。
私達三人は片付けのある刀香ちゃん達と別れ先に帰っていた。
ガタンゴトンと電車の中で揺られながら互いに隣り合って今日のことを愉快にお喋りする。
「楽しかったね」
「うん。あのホットドッグは美味しかったねー」
「うん。でも大河ちゃんの料理も美味しかったよ」
「それはそうだよー」
結局あの後はとにかく色んなお店に入ってみた。その中でも食べ物系は一層際立つ。焼きそば、たこ焼き、ホットドッグ。豚汁、お蕎麦にリンゴ飴。ひたすらに食べまくった。それで手持ちもかなりダメージを負ったけど・・・それを抜きにしても楽しったのは本当だ。
「それにしても刀香ちゃんも大河ちゃんも生き生きしてたね」
「うんうん。心配しなくてもよかったねー」
正直学校生活に関してだとなにも心配していない。ただここ最近、特に刀香ちゃんの思い詰めた感じが気がかりだったのはこの間のこともあって重かった。だけど今日の刀香ちゃんは心底楽しそうで、なにも思い詰めた感じはしなかった。それはただ装っているだけかと思って不覚探求してみても、私は何も引っ掛からなかったので多分問題ない。
「それはそうと収穫もあったな」
「収穫って?」
「クソゲーにバンド。共感したんだろ」
ノースの口からそんな言葉が出てくるなんて意外だった。
だけどそうだね。確かに悪くなかった。ゲームに関してだと私は如何こう言えないけど、あのキラッキラした感じは見ていて悪くない。活力が溢れていた。
(アレを私達でできたらなー……なんてね)
外はもう暗がりになる。
闇が光を飲み込んで沈み行く太陽が爛々としたオレンジ色をした黄昏を作り出す。
そんな光景を電車の窓からビル群と一緒に眺め、私は何処か遠くを見るように憧れるのだった。




