■162 文化祭④
今日は投稿しました。
Twitterやニコニコも始めました。(宣伝です)
目まぐるしくて忙しい刀香ちゃん達のクラス。
次から次へとお客さんが入ってくる。
「し、しんどいよー」
根を上げる大河ちゃん。
さっきからほぼ一人で厨房を切り盛りしていたからだ。だけどそんな彼女の腕はまさに職人で、本気だった。その活気ある姿に感化されてか、他のクラスメイト達も熱を燃やした。
「凄い、凄すぎるよ西さん!よーし、私達も負けてられないよー!」
「料理部の味見せてあげるんだから!」
「はいはーい注文注文!」
だけど厨房の方では明るくて活気ある声が聞こえてきた。とても頼もしい。それと同時に大河ちゃんが戻ってくる。
ふらふらって感じだ。多分料理をして疲れたとか、お客さんの多さに目眩が起きたとかじゃない。クラスメイトからの熱い羨望の眼差しを一身に受けて、鎧なんて着こなさないものを着てまだやっていたから体に堪えたに違いない。
「お疲れ様大河ちゃん」
「来てくれたんだ。ありがと、皆んな」
薄らとした笑みを浮かべる。
口角がゆっくり吊り上がるのがわかった。
「それよりもう厨房の方はいいの?」
「う、うん。休憩だって。多分終わりまでやることない、よ?」
「そうですか。ではそろそろ私も休憩に入りましょうか」
そう言うとチラッと時計を見返した刀香ちゃんは他の人にその旨を伝えると、こちらに戻ってきた。
それから一旦大河ちゃんと一緒にバックヤード代わりの空き教室に向かうと、鎧を脱いで現れた。
「お待たせしました」
「だいじょうずだよ。って、えっ?」
そこに現れたのは水色のTシャツと白いTシャツをそれぞれ着た二人だった。袖のところにはクラスの名前がプリントしてあるけど、中央には絵が描いてある。カッコいい。水墨絵のタッチで龍と虎が描いてあった。
「おぉー!カッコいいねー」
「だよね。もしかして刀香ちゃんが描いたの?」
「はい」
刀香ちゃんはっきりと頷いた。描かれた絵には命が宿っているみたいに目の奥まで鮮明で生き生きしていた。
やっぱり刀香ちゃんの描く絵は温かみもあって生き生きしている。見ている人もホワァーってなるし、絵も何だか嬉しそうに見えた。
「ダサTじゃないのは幸いだった。だがそれのらなぜ大河は項垂れているんだ」
「あっ、えっと、それはね?」
くるっと背中を見せる大河ちゃん。
それは何だろう。抽象的な謎の産物が描かれていた。これは一体何なのか?
「こちらはクラスの美術部の方が描いたものです」
「へ、へぇーそうなんだ。私にはわかんないよ」
「普通はそうですよね。こちらの絵はクラスの人を総合的に見た時に思い浮かんだ一丸になる様子を表現した素晴らしい“青春”を感じさせるものとなっています。ですがあまりクラスの人からは支持をもらえず、結果として没になりましたが、裏側に描いてあったのですね」
刀香ちゃんうっとりしていた。
対して大河ちゃんの反応は非常に微妙で、苦い顔をしている。多分だけど「抽象的って言われても私にはよくわかんよー。それにクラスの皆んなも変な顔しながら渋々着てたから嫌な予感はしてたけど、これ着て外出たら皆んなに笑われちゃう」的なことを思っているに違いない。
「大河ちゃん、それ着てるのと武田信玄のコスプレして外歩くのだったらどっちがいい?」
「えっ、その二つから選ぶの?」
「うん。私は戦国武将のコスプレの方がより目立っちゃうと思うけど?」
「そ、そうだよね」
「それに比べたら」的な顔色を浮かべる。
少しだけ自信を取り戻し、吹っ切れたみたいだ。流石にあの格好の方が気まずいもんね。いや、ファンだったらいいよ。ファンだったら。でも私達はよく知らないからーってことで。
「ねぇねぇそろそろ行こうよー!」
千夏ちゃんが退屈げに答えた。
「それもそうだな」とノースが合いの手を入れると、私達はとりあえず貰ったパンフレットを一通り見てから行き先を決めることにした。
「へぇー他にも喫茶店あるんだ」
「こっちはカフェだな」
「たこ焼き、焼きそば、ステーキハウスどんどんって。いやいや、学校でステーキって」
「そちらは先生方の開いている出し物ですね」
「出し物の域、超えてない?」
「それ言ったらお終いだよ」
「あはは。だよね」
教室の前で集団となる私達。とりあえず何処に行こうか。
私達はもう一回パンフレットを眺めながら文化祭を満喫しに行く。
私達が最初にやって来たのはとりあえず三つ離れた教室の前だった。〈恐怖の館 屍〉って書いてある。化学室とかに掛けてある黒くて分厚いカーテンと赤く濁った絵の具で血を表現していた。
「普通だな」
「ですね」
しかし御立腹な様子のノースと刀香ちゃん。
「屍にするのなら外観に髑髏の一つでも用意すればいい」
「血を表現するにしても濃度が低すぎます。それから粘りもない。これではただ色を置きましたよとしかなりませんね」
何だろ。私にはよくわかんないけどとりあえず入ってみようと言うことになり、先に私とノース、千夏ちゃんの組が入った。
「暗いね」
「当たり前だ。それにしても……」
「ここ寒くない?」
冷房がガンガンに効いているのかあまりにも寒かった。
気分を向上させる名目なのを加味しても、秋頃にこの寒さは結構堪える。
「とりあえず早く行こっか」
「そうだな。ここに長居しても次が詰まる」
暗い中、多少入り組んだ迷路になっている部屋の中を歩く。
すると私の横を何がスルッと抜けて行った。
「あれ、今のって?」
「「ん?」」
一瞬紐みたいなものが見えたような気がした。
しかもちょっぴり水飛沫があったような気がする。
「ねぇねぇ、もしかしてコレじゃなーい?」
そう言って千夏ちゃんが見せてくれてのは紐に繋がれた巾着袋だった。ずっしりと重く、中にはどうやら水みたいだ。
「こんにゃくの代わりだな。食品衛生的な観点から最近は代用されるケースがザラだ」
「へぇー。でも千夏ちゃんどうしてそれ持ってるの?」
「いやー、真横通り過ぎたから捕まえといた。
それって結構ヤバいことしてない?営業妨害だよね。
だけどそれを言う以前に千夏ちゃんはノーストお喋りしながら雰囲気を楽しんでいた。何だろ、ツッコむのも億劫になる。
「ま、まあいいよね」
「おい愛佳、早く来い」
「はーい」
私はノース達の元に駆け寄る。
すると今度は頬際を冷たいものがよぎった気がした。だけど濡れてもないし、クスッと聞こえて来たのは「嘘だろ!」と言う一声だった。
「それにしてもお化け役の人全然いないね」
「もしかしたら最後に待ち構えてるのよ」
「そうだとしてもだ」
まあ確かにさっきからぜーんぜん怖い要素はない。強いて言えば“寒い”ぐらいかも。
そうこう言っている間にもうすぐ出口みたいだった。何だか呆気なかったかも。落胆はしないけどお化け屋敷感は薄かったかなと思う最中ーー
「お前らも屍にしてやろうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
お化け役の人が飛び出して来た。
おぉちゃんとメイクしてある。
「あ、あれ?」
だけどお化け役の人は何だか浮かない顔だ。
メイクした顔が崩れ「はにゃ?」って感じになる。
「あのな、屍にしてやろうかなんて回りくどい言葉はなにも怖くないぞ」
「それにそれにぜーんぜん脅かす要素もなかったよね」
「えっ、あ、あの?ちゃんと、皆んな脅かしてました、よ?」
「「「えっ?」」」
そうなんだ。全然知らなかった。
確かに所々でちょいちょい視線は感じたけど、別に警戒するような要素はなかった。それよりも逆に何もなかった感が強かった。
変だなー。これじゃあただの荒らしだよ。って思っちゃう。
とりあえず先に出て、刀香ちゃん達を待とう。私達は教室を出て日の当たる窓際に佇むのでした。
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