■161 文化祭③
ちなみにこの回は、「信長の野望」のゲーム実況を観ながら、書きました。
ちなみに俺はやったことない。
ゲーム部でのノースの活躍を目の当たりにし、その余韻に浸るでもなく私達が向かっていたのは当然刀香ちゃん達のクラスだった。
話によれば飲食店らしい。でもちょっと変わってるって聞いてたけど、一体どんな感じなんだろ。楽しみ。
「えーっと、確かこの辺りのはず……ん?」
「あそこじゃなーい?」
千夏ちゃんが指を指した先にあったのは人だかりだった。
長蛇の列って程じゃないけどヤバいぐらい人がいる。入口が見えない。しかもその教室は刀香ちゃん達に教えてもらった教室だった。
「凄い人だね。どうする、並ぶ?」
「しかないだろ」
「だよね」
私達は列の最後尾についた。
一体何があるんだろ。これだけの人を集めるんだ。相当凄いに決まってる。私はわくわくと興奮が昂りつつ、列が進むのを待った。そしてーー
「やっと入れるね」
「ああ」
教室のドアが近づく。
並んでわかったのは男女問わないこと。それからとっても良い匂いがしていたことだった。何だか本格的な料理の香り。ちゃんとスパイスも使っていて、利益とかあんまり気にしてないのか?それとも計算してかは知らないけど、とにかく楽しみが湧き立つ。
「いらっしゃいませ、三名で……皆さんでしたか」
「と、刀香ちゃん?」
出迎えてくれたのは刀香ちゃんだった。
彼女は丁寧な口調と礼儀正しくお辞儀をする。しかし私達に気がつくと、ふと力が抜けたようにリラックスした。
でも私達はそんな刀香ちゃんに安堵しつつも、その格好には目を奪われてしまっていた。だって・・・ねー。
「へぇー兜と鎧じゃん!カッコいいねー」
「ありがとうございます」
「コスプレ喫茶か。刀香それは上杉謙信のものか」
「はい。前立の日輪に三日月の兜です」
そうなんだ、全然知らないや。
全くついていけない話になりそうなのでここはパスして、とりあえず空いていた席に案内してもらう。
それにしてもしっかりした作りの鎧兜だ。何でもクラスの美術部の人と制作班の人と協力して刀香ちゃんがデザインしたものらしい。所々で動きやすいようにしており、クラスの人それぞれが名前とか特徴に由来する好きなものになっているそう。
「じゃあ刀香ちゃんはなんで上杉謙信なの?」
「越後の龍と呼ばれていた方ですので、私の龍蒼寺から連想されたのでしょうね。クラス一致でした」
「そうか。ならば甲斐の虎もいるのか?」
えーっと、確か甲斐の虎って武田信玄のことだよね?それぐらいはわかるよ。でも武田信玄ってことは武田さんとか?私は気になったので聞いてみた。
「いえ武田さんと言う方はこのクラスにはいらっしゃいませんよ」
「じゃた武田信玄役は不在ってこと?」
「いえ、それでしたら奥の厨房の方に」
「「厨房?」」
そう言えばさっきから出てくる料理はやけに本格的だった。
この料理を作ってるのは一体誰なんだろ。それに大河ちゃんの姿もない。休憩中かな?そう考えるよりも、真っ先に思い浮かんだのは大河ちゃんが厨房にいることだった。って、まさか!
「はい。武田信玄役は大河さんが成していますよ」
そうなんだ。似合うか似合わないかは別として、どうして大河ちゃんが。まさかとは思うけど、タイガーと甲斐の虎を掛けてるとか安直なやつじゃないよね。
「でもなんで大河がやってるのさ」
「タイガーと虎を掛けたんだろ」
「はい。私の越後の龍に対するものらしいです」
「やっぱりそうなんだ」
意外にストレートで安心した。
でもまさかとは思うけど、コスプレしたまま調理してるとかじゃないよね。
何処となくそんな気もしてならなかったが、厨房の中の様子は私達の目線から窺えない。だから本当か如何かは定かではないにしろ、とりあえず目の前の料理は美味しそうだった。
「チャーハン?」
「サンドイッチ」
「ラーメン」
半分中華って何ってことは置いといて、私達は食べてわかった。
(コレ、大河ちゃんのやつだ)
◇◇◇
「はぁはぁはぁはぁ」
荒い吐息が止まることを知らない狭い部屋の中。
クラス毎に区切られたその空間の中で、少女達が葛藤していた。
「な、なんでこんなに注文が入るの!」
その中で伊達眼鏡を放り投げ、ダラダラと流れる汗と人一倍頑張り続ける少女がいた。彼女の名前は西大河。今彼女の周りではいつにない視線と期待が込められていた。そんな眼差しが痛いぐらい注がれる。しかしそれは訝しむ様ようなものでは全くないのも事実だった。
「す、凄い」
「早っ!っか、なになに西さんって料理めっちゃ上手かったんだね!」
「頼りになるなー。私もバイトで厨房に入ることあるけどー、こんなに動けないよー」
「そんなこといいから、手伝ってよ!」
私は皆んなに睨むような視線を向けた。皆んな同じクラスの人だ。だけど話したことは全然ない。それなのに今は急に話しかけられて私もびっくりしている。それにさることながら、さっきから予想の何倍も注文が入る。やっぱりコスプレなんてしなきゃよかったんだ。
「いやさ、それもそうなんだけどさ」
「今更私達が作ったの出していいのかなーって」
「いいに決まってるよ。だ、だって、材料も計ってあるんだよ?」
私は抗議を入れた。だけどそれを否定される。
「材料は同じでも作る人によっては味が変わっちゃうでしょ?」
確かにそれは一理ある。
全く同じ材料でも料理人によっては味も全然変わってしまう。だけど高校生が文化祭の出し物で作るやつだよ。このままの勢いが続いたら予算オーバーだもん。それにそれに私だって休みたいよー。
そう強く思うのと同時に私は一つ皆んなを奮い立たせるようと思った。愛佳ちゃんみたいに上手くいく気はしないかだ、私なりのやり方でやってみよう。
「すぅーはぁー。おい、お前らさっさと手動かせ!」
「「「えっ!?」」」
私は“大河”から“タイガー”に一瞬で切り替わった。
眼鏡を外して睨みを効かせる。パワハラみたいになっちゃいそうだけどそうならない程度に抑える。
「手が足りてねぇんだよ。なんでもいいから手伝え!」
「に、西さん?」
「なんだか雰囲気変わったねー」
「でもでもカッコいいよ。こう言うキャラアリだよね!」
「「アリ!」」
「キャラがどうとか言ってんじゃねぇ!とにかくだ。昼時を過ぎれば客足も下がるはずだ。それまで私一人じゃ流石に手が足りない。だから全員でやるぞ!」
「で、でも」
「でもじゃねぇ!はい、返事!」
「「「は、はい!」」」
私は全員を叱るように鼓舞する。
不快な印象を与えちゃったのかもしれないけど、このまま何もしないで突っ立ってるよりかはまだマシだ。
しかし私の鼓舞は割と成功したのか、全員嫌な顔一つせず黙々と作業に勤しむ。勤労が鑑みえ、次第に私はこう呼ばれていた。
「料理長!」
そんな風に呼ばれて悪い気はしなかったけど、やっぱり気恥ずかしい気になってしまった。
この日をきっかけに何故か私の料理は評判になって、割と視線を感じるようになってしまいました。




