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■158 新しい型

ごめんね、ストックがまだ溜まってないんだ。

「へぇー、じゃあKatana新しい型作るんだ!凄いね」

「はい。若輩者ではありますが、皆さんのお役に立てるよう精進させていただく所存です」


 その日私とKatana、それからスノーの三人はいち早く〈WOL〉にログインしていた。

 ちなっちとタイガーがいないのは理由があって、二人とも用事があるらしい。

 ちなっちは秋季大会へ向けての最終調整にテニス部の人達の助っ人に無理矢理駆り出されていて、タイガーは喫茶店でバイトだ。だから夕方のこの時間は私達しかいなかった。


「それでどんな型にするの?」

「まだなんともです。なにから手をつけたらいいのか決めかねていて。そこでお二人に御教示願えなかいと」

「御教示?よくわかんないけど、私にはわかんないよ。スノーはどう?」

「専門外だ」


 スノーはあっさりきっぱり断ってしまった。

 しかしKatanaはそんな状況でも顔色一つ変えない。

 まるで清流を静かに流れる川のように穏やかでたゆたんでいた。しかしそんな中にも迷いなのかはわかんないけど、最近見せるこ難しげな雰囲気を少しはらんでいたので私はここで一度話題を変えてみることにする。気分転換に、重たい空気を一蹴出来ないかと考えたのだ。


「そう言えば二人の学校って文化祭とか体育祭ってあるの?」

「「えっ?」」


 二人は間の抜けた表情をする。

 しかし二人は冷静に返してくれた。


「文化祭は確かあるはずだ。体育祭は知らないな」

「私の方は両方ありますよ。文化祭に関しては毎年10月の休日に開催されるはずですね」

「じゃあ今月だね。ウチも夏前に体育祭があって、秋には文化祭があるよ」

「そうなんですね」

「うん。あっそうだ!ねえ皆んなでKatanaとタイガーの学校の文化祭行ってみようよ!ちょうど休日らしいしさ!」


 私はそんな提案をした。

 唐突なことに一瞬空気がハテナに染まるが、そんなことお構いなしだ。

 やがてスノーが一言。


「わかった。私は暇だからな」

「ちなっちの方には私の方から伝えておくよ!怒られないか心配だけど」

「ちなっちのことだ。勝手に決めたからと言って怒ることはないだろうな」

「そうだといいなー」


 まあ確かに、ちなっちが怒ってるところなんてあんまり見たことない気がする。て言うか知らないなー。

 いつも楽しそうだもん。


「皆さんが来るんですか?」

「うん。ちなみに出し物ってなにかするの?」

「はい。クラス毎に一つは出し物をする決まりですから。私達のクラスは……秘密です」

「えっ!?」

「秘密です。秘密にしておいてください。恥ずかしいので」


 Katanaは顔を赤らめた。下を向き顔色を見えないようにする。そんなに恥ずかしいことなのかな?私の脳裏には色々思い浮かんだ。

 けど何より良かったことはKatanaの顔色が変わったことだ。赤らめて恥ずかしることが目的ではなく、雰囲気が変わった。タイガーみたく状況に応じて態度と雰囲気を瞬時に切り替えられるわけじゃないから、こうやれば少しは気軽になるかなと思っただけだ。


「あっ、型のことなんだけどKatanaの好きなものをイメージしたらいいんじゃない?」

「好きなものですか?」

「なるほどな。自分の興味をそそるものから着想を得るということか。要はインスピレーションを養うと言うことだ。まあマナらしい発想だな」

「そうかな?」

「普通だからな」

「ガクッ!」


 なんかもっとそれっぽいことを期待してたのに結局それなんだ。

 私は机に突っ伏した。

 それにしてもKatanaらしくないなー。


「ねえKatanaだったらどんなことのために剣を使うの?」

「はい?」

「だってほらKatanaって西洋のものの方が好きでしょ?だったらもっとフラットな喋り方でもいいと思うんだよ。服装はおしゃれなのに、喋り方は堅苦しいもん」

「だ、駄目でしょうか?」

「ううん。全然いいと思うよ。それにね、突きの方が得意なんだったらレイピアとかの細剣の方がいいんじゃないのかな?ねえ、スノー?」

「そこで私に振るのか!」


 如何やら困らせてしまったみたいだ。

 しかし仲の良い人とならすぐに対応出来るのがスノーの強みだ。


「そうだな。私もそれには一理ある」

「だって」

「そう言われましても。確かに私は“斬る”ことより“突き”の方が得意ではありますが、それでも龍蒼寺の剣は刀でなければ本領が発揮されないのです。新たな型を編み出すにも元を崩せば動きも変わってしまいますから」

「そっか……じゃあKatanaの好きなものを取り入れるのが一番良いんじゃないかな?」

「やはりそこに落ち着きますよね」


 がっかりさせてしまっただろうか?

 でも私にはこれくらいしか思いつかない。スノーに目線をやるが、困ったような表情をされてしまった。

 何かいい方法はないだろうか。


「皆さんすみません、悩ませてしまって」

「大丈夫だよKatana。だって友達でしょ?」

「暇だしな」


 私とスノーの言い分は違ったけど、互いに言いたいことは一緒だ。

 でもKatanaの好きなもの。後はそうだなー……


「あっ!Katanaって絵を描くの得意だよね!」

「はい。確かに風景画は好きですが」

「だったら絵をモチーフにするのはどう?ほら、絵描きの人をモチーフにするとか!」

「流石にイメージが湧きませんね」

「そっか……」

「落ち込まないでください、でもかなりいいと思いますよ」


 でも本人が難しいって言うんじゃ仕方ないよね。

 となると後は……


「お花」

「花ですか?」


 私はポツリと口にした。

 Katanaはその言葉に反応した。


「うん。だってKatanaの刀って名前が〈夜桜蒼月〉でしょ?なんとなく花なんてどうかなーって」

「花ですか……確かに私も花は嫌いではありません」


 ふと視線に入ったKatanaの愛刀を見て速攻で思いついただけなのだが何か掴めそうな雰囲気だった。

 そこに追い風を吹かせたのはスノーだった。


「確かに花を模すのはいいだろうな。花の色合いや変化、それらを汲み取りアレンジするのであればイメージも湧きやすいだろう」

「うんうん!それにKatanaに花って似合ってる気がする。なんだろ、凛としているって言うのかな?ブレないし、いつでも平常心なKatanaを端的に表してくれてるもん」

「私が花……凛とした花……少しイメージがついて来ました」


 Katanaは何か掴んだみたいだ。それは顔色を見ればすぐにでも伝わってくる。

 確信をついたように手応えがある。そんな感じだった。


「型の完成まではまだかかるかもしれませんが、構想はできました。皆さんありがとうございます」

「私達は別に何もしたないよ。Katanaが自分で見つけたんだよ」

「そうだ。私達はあくまでも案を出したに過ぎない」

「ですがお二人のおかげです。本当にありがとうございました」


 深々とお辞儀するKatana。

 そこも彼女らしいのだが、そんなKatanaに尋ねる。


「ちなみにどんな名前なの?」

「名前ですか?まだ考えてもいませんでした」

「名は体を表すと言うことわざがある。その型のイメージの総称だからな。最後にでも付けるべきだ」

「そうなんだ」


 スノーの言葉を受けて私は押し黙る。

 しかしKatanaは一言だけ答えた。


「刀華です」

「「ん?」」


 意味深すぎる。

 私とスノーはKatanaを見た。彼女の顔には既に迷いの色はなく、ただひたすらに凛としていた。

 そうして何かを掴んだような強い感じがしたのだ。


「自分の名前を付けるの?」

「まあそれも漫画などではよくある手法だが」


 口々にそう言い合う。しかしKatanaはそれを真っ向から否定した。厳密にはただ首を横にゆっくり振っただけなのだが、それでも何かただならぬものを感じてしまう。


「私の名前ではありません。私が示すのは刀の華です」


 まさに花。決して折れることのない、どんな流れにも負けずそこにあるような強さと言えた気がする。

 そして何よりも思えたのは私もスノーもそれがKatanaらしくて素敵だったことだった。

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