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■156 第3の刀③

遂に新しい刀が登場。

他作品も、ぜひ読んで感想とかください。

 それは日曜日のことでした。

 ピンポーン。玄関先のチャイムが鳴った。


「はーい!」

「龍蒼寺大剣さんの住所でお間違いないですか?」

「はい。私のお父さんです」

「ではこちらに記名お願いします」

「はーい」


 龍蒼寺鍔音は渡されたボールペンで名前を記入し終えると、細長の重たいダンボール箱を受け取った。ズシッと来る感覚に目を見開くと、奥からやって来たのは彼女の兄、灯刃の姿だった。


「おっ来たな」

「お兄ちゃん?」


 鍔音の視線は兄に移ります。

 灯刃は鍔音の元によると、受け取った荷物を見ました。


「藍染印……コレだね(にしても箱がやけに大きいような)」


 灯刃は顔を顰めていた。対する鍔音も箱の中身が気になるようで忙しなく兄に尋ねる。


「お兄ちゃん。この箱の中になにが入ってるの?」

「コレ?コレはね……」


 しかし深みを持たせるばかりで一向に箱を開けようとしない。

 しかし満を辞してか、箱のガムテープを剥がした。中に入っていたのは厳重に敷き詰められたちり紙と、包むように覆われたプチプチだった。そのあまらの量から相当なものであると窺える。

 そんな時、ふとやって来たのは刀香だった。


「兄上、鍔音。どうかなさいましたか?」

「あっ、お姉ちゃん」


 刀香は兄、灯刃がゴソゴソと荷物を漁っている姿が目に飛び込んできた。何が届いたのだろうか?一瞬だけ気になったものの、あまり気にしてはならないと思い目を背ける。

 しかし箱の中から聞こえて来たカチャと言う微かな音に刀香の耳は反応し、視線が自然と移る。


「おお。やっぱり凄いなコレは。本物だ」

「兄上ソレは?」


 子供のように純粋に目をキラつかせる灯刃。そんな彼に刀香は恐る恐る尋ねた。


「ん?刀香じゃないか」

「兄上、そちらの品は?」

「ああコレは親父に頼んで打ってもらっていた藍染工房の日本刀だよ」

「日本刀?」


 そう言えば兄上、父上に何か頼んでいましたね。しばらく前のことでしたので忘れていました。

 それにしても何でしょう。あの刀の仕上がり具合。完璧に同じではありませんが、私は知っている。〈WOL〉で私が先日受け取った夜桜蒼月の仕上がり具合と近いようです。


 

 話は少しだけ巻き戻る。

 それは先日の出来事で、ついに完成した木乃さん手製の品を受け取ったことです。


「コチラが私の刀ですか?」

「ああ。要望は全て入れた。細身の刀身には桜の紋様が描かれているだろ」

「そのようですね」


 私は鞘から抜刀した刀の具合を見て感心した。いえ、純粋にこれほどの出来の物を手にとっていいのか不安になってしまいました。

 刀身は少し細身。しかし日本刀のようにしなやかで、それでいて芯が強い。木乃さん曰く、熱にも強く衝撃にも強いので弾かれずに肉を断つとのこと。さらには刀身に彩られた淡い青の桜の花弁と五枚の花弁が特徴的な桜の鍔がまた味を出しています。最高の品。その一言に尽きます。


「素晴らしい……本当にコレを私が」

「当然だろ。お前が依頼した物だ」

「ではお代を」

「それはいい。今回はタダにしておく」

「しかし!」

「ありがたく受け取っておけ」


 私は少ないですが金銭を支払おうとしましたがそれを突っぱねられました。一度は引き下がらなかった私ですが、その気持ちに押し負けありがたく受け取ることにしました。

 新しい武器。それを手にした私は少なからず笑みが溢れます。そんな私に木乃さんは聞きました。


「ソイツに名前を与えてやれ」

「私がですか?」

「ソイツを使うのはお前だ。だったらお前がつける方が自然だ」


 そう促され私は考えます。

 桜。そして青。溶け合った一字がふと頭の中で夜と月を描きます。インスピレーションが湧いた瞬間、私の口から溢れたのは四文字熟語。


「夜桜蒼月……」

「夜に咲く桜に蒼い月か。なるほどな、いい名前だ」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね、夜桜蒼月」


 私は木乃さんに頭を下げ、そうしてギュッと夜桜蒼月の鞘を握り込みました。まるで私に返事をくれるみたいに刃が微かに音を立て、私に相槌をくれたみたいに感じました。


「なあお前……」

「はい?」


 木乃さんはそんな私に重たい口調で尋ねます。


「新しい刀が手に入ったんだ。もうお前の力を縛るものはない。あくまでも俺の客観的な意見だけどな」

「はい」

「お前にあの流派の型は窮屈だ」



 なんてことを言われてしまいました。

 それが否応なく私にのしかかります。確かに新しい武器が手に入り、私は今以上に皆さんの役に立てるでしょう。そして私自身がもっと強くなりたいと望んでいるかのような高揚感。しかしその一方で何処か押し黙っていた感覚が迷いを生み出します。


(どうすればよいのでしょうか……)


 言葉には出来ません。ですが自分の中で留められた感情が感覚となって指先に現れる始末です。

 今でもピクピクとストレスを感じて震え出します。こんな姿見せられませんよ。


「ん?」

「あれれ?」


 そんな中灯刃と鍔音は箱の中に入っていたもう一つのものに気がつきました。


「なんだコレ。刀?」

「お兄ちゃんもう一本頼んでたの?」

「いや知らないよ。手紙もある……藍染木乃衛門?知らない名前だ。宛名は……えっ!?」

「あれ?お姉ちゃん!」


 鍔音は刀香の名前を呼びます。考え事をしていた刀香でしたが、鍔音の声に反応しすぐに切り替えます。


「なんですか鍔音?」

「お姉ちゃん、コレ」


 首を傾げる刀香。そんな彼女が受け取ったのは一本の刀と手紙でした。

 ですが刀香はそれを目にした瞬間、何かに気づきます。先程までの断片的な情報が一繋ぎになったように点と点が結びつきます。


「コレは……」

「見覚えがあるのかい刀香」


 言葉になりません。そこにあったのは〈WOL〉での新しい愛刀、夜桜蒼月そのものですから。

 震える指先が刀に触れます。間違いありません。材質も重さも何もかもが同じだとすぐにわかります。これは直感です。


「どうしてコレが……」


 理解の追いつかない刀香でした。

 ですが同封されていた手紙を読めば何かわかると思いすぐさま手紙を目で追うと、そこにあったのは藍染木乃衛門(あいぜんこのえもん)と言う名前と、向こうでの私の一連の立ち合いの情景でした。


「なぜこのようなことをこの方が知って……もしや!」


 確信に至ります。この方こそが木乃さん。それは名前と手紙の内容から察しました。そしてこの手紙の内容が本当だとするならコレは私の刀になります。そしてその材質はーー


「刀香?」


 私は夜桜蒼月を抜刀します。桜の紋様があるので間違いありませんね。でしたらーー

 そう言って指先を軽く刃に沿わせます。すると指先から流れ出たのは赤い液体。私の血です。


「刀香!」

「お姉ちゃん血が出てるよ。早く手当てしないと!」


 兄上と鍔音が慌て出します。しかしそれすら耳に入らないほど私は冷静でした。痛みはあります。ですが気にならないのです。

 桜の紋様が生き生きとし、私の血を啜って刀が本物になります。そうして私が念じれば刀の刃がたちまち消え、ただの鉄の棒に成り果てました。


「やはり……」


 私はこの刀が霹靂石で出来ていると確かに感じました。

 本当にあったなんて。あれはゲームの中だけの話ではないでしょうか?そんな空想じみたまるで根拠のない疑念が幾つもポツポツ出て来ますが、今はただ私の愛刀に直に出会えたことを快く思うほかありません。そして私の指先から流れる血はいつの間にか塞がって(・・・・・・・・・・)いるのでした(・・・・・・)

 

 

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