■155 第3の刀②
今日は後書きも書いてるよ。
それから、『女の子勇者を拾ったけど、お願いだから私を師匠って呼ばないで!』も更新したので、ぜひ一度。
「なあ親父、コイツは?」
「最高の玉鋼だ」
「かなりの上物みたいだけどよ、なんて名前だよ」
「霹靂石だ」
「はぁっ!?」
俺は胸の奥底から訝しむような気持ちが掻き立てられた。
それは親父の提示した霹靂石と言う玉鋼のことだ。問題はその名前だ。
「親父、今その玉鋼の名前を霹靂石とか言ったか?」
「そうだ。コイツは世界中探してもこれ以上ない程の硬度と耐久性を誇る特別な玉鋼だ」
「なんでそんなもんがあんだよ(アレはゲームの中だけの話だろ。いや待て、もし現実のものをゲームの世界に落とし込んだとするなら可能性はあるのか)」
俺は必死になって考えた。
そんな俺を親父は不思議そうに、そして真っ直ぐな目で凝視する。
「どうした」
「いやなんでもない」
奪い取るようにして親父の手から霹靂石を移すと、親父はこう言った。
「おい木乃衛門。ソイツに血を付けるなよ」
「わかってるよそんなこと。コイツはアイツにこそ相応しいからな」
そう言って俺は鍛治台に玉鋼を乗せると、死に物狂いで食らいつく。高温じゃねえとコイツは意味をなさない。それでいてとても繊細で満に一つでも狂うようならコイツはただの廃棄物だ。この感覚、あっちと同じだ。なんだよ、また俺の精神を擦り減らすのか?勘弁してくれ。だけどそんな状況を俺は心から楽しんでいた。
「思い出せ、アイツとの立ち合い。アイツから託された玉鋼の重みを」
手にじっとりと感じたあの生々しさ。それが今目の前にも否応なく広がる。無限の水源の中に一人で抗い続けているかのような孤独感と、それを堪能しようとする子供心が同時に駆け込む。そうして俺の手の中に広がるのはアイツからの要望だった。
(“花”凛とした決して折れることのない“華”)
俺が思い浮かべるのはあっちで先に打ったアイツの刀。
細くしなやかで、決して使い手を裏切らない鉄の剣。刀身にあしらった絵柄は桜の花のようで、淡く蒼色を咲かせる。
これだけ薄く細く芯のある刀を打つのは生まれて初めてだが、俺の手には自分の意識を変える速度で完成形があった。無意識状態で、まさに無心で打ち尽くした魂の結晶ーー
「完成だ」
気がつけばどれだけの時間が経ったことだろうか。こんな狭く薄暗い部屋の中には焼け落ちた火花しかない。
淡く散乱する火の粉の粒を唯一の灯りにし、俺の手の中に収まっていたもの。自然と冷やされ完成したそれはまさに向こうで俺が手を加えたものと相違ないものだった。
「できたのか」
「親父……」
すると背後には親父がいた。ずっと俺を見守っていてくれたみたいだ。気づけば額から際限なく流れていたであろう汗は乾き、一粒も出てこない。むしろ舌が乾ききって痛いぐらいだ。にも拘らず、俺はそんなことを気にしたりしなかった。残った唾液で親父に話す。
「ああコレが俺の真の刀だ」
「そうか。桜の花弁の模様か。お前にしては上手くできているな」
「当たり前だ。俺は親父と違ってセンスがある」
ちょっとたかを括ってみせた。
もう精神はすり減って限界なのにそれでもなお立ち上がって早く話したいことがある。いや、むしろ聞きたいことだ。
「なあ親父、龍蒼寺って知ってるか?」
「急にどうした」
「いや、龍蒼寺を知らなくてもいいけどよ、龍蒼寺の剣って聞いたことあるか?」
俺はそう尋ねた。すると親父は深く考え込むようで、長い沈黙の後思い出したかのように答えた。
「ああ、あるな」
「本当か!」
「ああ。龍蒼寺の剣は進化する剣。初めは同じでもそこから己がために剣が進化する。それ故に対処が難しく、真剣になれば勝ち目はないとまでされる伝説的な流派だ。幻想的なものとされ、もはや幻とされるものだな。一族の間でしか継承されない。しかもその中で剣を自分のものにできる者は少なく、逸材とされている。もっとも逸材と言われる使い手を聞いたことはないがな」
「じゃあアイツは逸材だったってのかよ……」
俺が出会った奴は本物だった。
例え折れそうになっても、仲間に奮い立たされて再び立ち上がる。そうして一度立ち上がればその実力は跳ね上がる。まさに逸材。それ以外の何者でもない天才の称号だった。
「木乃衛門。お前になにがあった」
「それは……」
俺は少し躊躇ったが向こうでのことを話した。
親父はそう言うことには疎い。だが俺の真剣さに触れたのかまじまじと聞いていた。そうして一通り話し終えると、親父は深く息を吐いた。
「なるほどな。それで刀を打つ気になったのか」
「ああ」
「まさか惚れたのか?」
「それはねぇよ」
「そうか」
これは全く違うものだ。
打たなければいけない。そんな使命感を感じて突き動かされた結果だ。
「親父は龍蒼寺の家の住所わかるか?」
「たまに注文が入るからな」
「そうか。じゃあコイツを一緒に送ってやってくれ」
俺は刀を差し出した。
今一瞬親父の視線が動いた先に刀があったのを俺は見逃さなかった。多分アレが注文の品だ。
「ついでだろ」
「……いいだろう。だがその前に一つ聞く」
「なんだよ」
「この刀の名はなんと申す」
そんな質問をされた。この刀に俺が名を付けるのは良くないはずだ。それにコイツはアイツの刀だ。確かコイツの名前は・・・
「蒼い月灯りに照らされた夜に咲く桜・・・夜桜蒼月だ」
「そうか。いい名だな」
こうして俺は完成させた。
桜の紋様のあしらわれた刀は夜のように深く、そして淡い。
感想が来ました。そこに書いてあったことの補足として以下
・主人公がゲーム用語に詳しくなりつつある理由。→ノース(スノー)にその都度、教えてもらっているから。
・物語の文章が若干異なる理由。→基本的にざっくりしたプロットとを基に、思いついた話や、章のオチから書いて後で中を埋めているから。
以下、補足終了。
今後もぜひ読んでくださいね。評価やブクマもぜひぜひ。




