■154 第3の刀①
タイトル変えたよ。
それから新作も投稿したよ。今回は以前投稿していたものを再考したやつだけど、読みやすく仕上げたから、ぜひ読んでみてね。
その日俺はある場所にいた。
それは実家の鍛治工房。俺が捨てた場所だった。
地下室に広がるそんな独房のような場所は六畳程の炭焼けた畳の匂いと、古臭い鉄の匂いが混ざり合っていたのをよく覚えている。昔はこの部屋に入り浸って親父の打つ包丁やら刀やらを見ていたな。
飛び散る赤い火花がフツフツと広がり、ジュージュー唸りを上げる冷水。中学に上がると同時にそんなうざったらしくて古臭い習慣が嫌で辞めちまったな。だけど俺は今こうしてここにいるーー
「親父いるか」
ガラガラと引き戸を開け、そこに見えたのは昔とほとんど変わっていない黒ずんだ部屋だった。
蛍光灯の灯りが天井から差し込む部屋の真ん中で、鉄をいじる男が一人いた。頭にタオルを巻き、まさに職人の気配を感じさせる。俺の親父だ。
「木乃衛門か。どうした。お前がこの部屋に来るとはな」
「ちっとな。その……」
「なんだ」
「刀、打たせてくれよ。とびきりのやつをよ」
俺がそう答えると親父の気配が変わった。
今まで感じたことのない気配だ。例えるならダムの水が一気に放水されたみたいな重さを感じる。
「刀をだと。お前が?」
「ああ。悪いかよ」
「悪くはない。だがどう言う風の吹き回しだ」
「色々あったんだよ。それにな、見たことあったんだよ。あの“石”」
「!?そうか、わかった。だが心配は許されないぞ。腕の鈍っているお前にできるのか」
「やってやらぁ」
俺は息巻いた。
すると親父は別の部屋に向かい、取り残された俺は準備を始めた。
思えばあの石のことを思い出したのも、俺がアイツに負けて刀を打つ決心がついた時だ。偶然アイツらに渡された謎の石。最初はわかんなかったが、アレは間違いなく俺がこの目で見たことがあるやつだ。もちろんリアル、肉眼でだ。
◇◇◇
「俺の負けか」
「あの、ありがとうございました。おかげで私は、なにかに気付けた気がします」
「そうか。そうだね。約束だ、俺もお前の刀を打ってやるよ」
本当はそんな気なんてまるでなかった。俺が負けるはずがない、そう確信を持っていたからだ。
だが負けてしまった。いざとなったらそんな約束知らないと白を切る気でいたが、如何にもそんな気が湧いてこない。これは一体何故だろうか。コイツらを見ているの、そんなことを考えることすら愚かに思えてしまった。
「(まあいいか。適当な安物を拵えれば済む話だろ)それで、刀はなんでもいいのか?」
「その件ですが、一つお願いがあるのですが」
「なんだ?」
面倒な注文は流石にごめんだ。俺の【鍛治】スキルを使うのが惜しくなる。
しかし提案されたのは元より素材の方だった。
「コレは?」
「この石は霹靂石と言う名の玉鋼です。是非ともこちらを使って刀を打っていただきたいのですが」
「コイツを使って……」
手渡された石は確かに玉鋼だった。玉鋼と言うのは簡単に言やぁ刀を作るための基になるやつだな。
鉄とか鉛とかを混ぜて作られるそれは本来黒光色のはずなのにどうにも様子が違う。水晶のように透明度があって、その中には若干の赤みがある。
「(コイツどこかで見たことあるぞ)コイツをどこで?」
「ミヤビにある神社でです。とあるクエストの報酬?だったのでしょうか、境内に直接祀られていた品をいただきました」
「そうか……面白いな」
「えっ!?」
俺はにんまり笑った。
こんな偶然があるのか。こんな珍しいもんを見せつけられても今までは全くと言っていいほど興味も湧かなかった。ただ特技を活かして刀を打ち続けていただけ。
けど今回は違う。明らかに心臓の高鳴りを感じる。
俺の心を熱く躍らせる何かが芽生えたのだ。こんなこともあるんだな。
「いいぜ。久々にガチで打ってやる」
「本当ですか。それは感謝致します」
「本当はな、俺は打つ気がなかった。負けないと思っていたからな。だが挑発のつもりが、逆にそれをあしらわれた挙句に負けた。でいざとなったら逃げる気だったが、方針変更だ」
独り言を吐き続ける。
それを黙って聞く少女達を前にして、俺はため息を吐いた。これは自分へのため息だ。
「他に注文はあるのか」
「えっ?」
「形状、重さ、刀身の長さ、装飾。なんでもいい」
「では日本刀を。装飾は任せますが、そうですね花をあしらっていただければ幸いです」
「花か。任せとけ」
「ありがとうございます」
結構難しい注文だが何とかなるはずだ。
親父の秘伝の技術を会得した俺ならいける。そんな自信が湧いてきた。
「完成したら取りに来い。完璧に仕上げておいてやる」
「お願いします」
「おう」
今まで俺の口から出たことのないような覇気があった。
これが俺が本気になれたわけだ。そうして今、それを現実でも実践中だった。




