■153 型を破って②
ついにタイトル変えたよ!
ブクマよろしく!
Katanaは刀を振り翳し、水面を叩いた。
「壱ノ型“飛沫雨”!」
思いっきり体重を刀に乗せて水面を勢いよく叩き、その衝撃で水飛沫が舞う。まさしく“飛沫雨”だった。
「なるほどな。水飛沫で壁を作ったのか」
木乃は冷静に解釈する。
一方のマナ達もKatanaの動きを見てハッとなった。
「ホントに水を使ってるよ」
「しかも私の言っていた煙玉と同じ策できたか。だが正面だけでないのが気になるな」
背後から見守るマナ達からもKatanaの姿は見えなかった。
それはすなわちKatanaがあの一瞬で四方に対して水の壁を展開したからで、要はめちゃ凄いことをやってるってことだった。
「だがこの後はどうする。いくら視界の一部を遮ったところで、頭上を注意していればなにも問題はないだろう」
木乃の推理ではKatanaがいくら水で壁を張ろうが、水の中を突っ切れば気づかれ、さらには水の抵抗で動きが鈍ることを計算に入れていたからだ。
下は川底なので刀で掘り進めることは出来ない。故に水の膜がなにもないであろう真上なら合点が行く。
それはスノーも考えていたが、スノーとの決定的な差はKatanaの性格を熟知しているかそうでないかに分けられた。
「来るなら来い。迎え撃って……」
「では行きますよ。捌ノ型“迷霧”!」
キーン!
鋭い金属音が響いた。空気を揺らし、マナ達は耳を抑える。
視界の先ではKatanaが木乃の首を狙って刀を振り翳していた。
「くっ!?いつの間に」
「水飛沫を上げた直後です。捉えたと思ったのですが」
まるで気配を感じられなかった。
水を走る音もない。完全な無音状態を人間が作り出し、そして背後から狙った。完全に勝ちに来ている。木乃はそう確信した。
だがその動きに迷いはないように思える。
いつの間に接近されたのかもわからない得体の知れない恐怖心を前にして、今度は木乃自身が臆していた。
「だが姿を現した時点でお前の策は破綻した」
「それはどうでしょうか」
「なに?」
刃と刃が激しくぶつかり合い、赤い火花を散らす。
そんな中ふと大きく息をっ吸ったKatanaは体を屈めると、刀を両手見持ち替え次の型を放った。
「肆ノ型“岩砕き”!」
右下から左斜め上に向かって斬り上げた。
両手持ちで放たれた重たい一撃は木乃の握る刀を刀身から柄の先にかけ、ズキズキする痛みと重さで押し潰した。
「ぐっ!?腕が……」
「まだです。漆ノ型“粉雪”」
“岩砕き”で腕が痺れて動けないところに追い打ちとばかりに“粉雪”を放った。
「そんな見え見えの技が通用するか!」
「見えてても、そう簡単には避けれれませんよ。この型はそういうものですから」
刀で受け止めようと構える木乃だったが、Katanaは一枚上手だった。
刀の向きを平行にした上で、刀身が触れるか触れないかのギリギリを狙い、まるですり抜けたみたいな攻撃を放つ。
「避けられないのなら!」
「それもそうでしょうね。ですがそれも読んでいましたよ」
「なに!?」
Katanaの一枚上手だった。
木乃が避けないことを、いや避けられないことを予測しお互いの刀の射程距離が離れたタイミングを見計らい、Katanaは下から斬り上げた。
「伍ノ型“白波”!」
木乃の強く握る刀の柄と刀身の繋ぎ目を狙い打ち上げた。
「しまった!」
目を見開き驚く木乃。
しかしその手から刀は既に滑り落ちている。後退する木乃。しかし勢いをつけてその場に高く跳び上がったKatanaは最後の一撃を放った。
「壱ノ型“飛沫雨”」
回転するように斬り下ろした一撃は、木乃の刀をへし折った。それと同時に流れるように木乃に一太刀を浴びせる。しかしその反動でKatanaの刀も罅割れ、ボロボロに砕け散ってしまった。
「武器はありませんが、先に一太刀を浴びせたのは私です。私の勝ちですね」
「そうだな。俺も武器はねぇ。負けみたいだ」
酷くあっさりした幕引きだった。
最後は本気を出しきったKatanaが流れるような乱れ剣戟を見せ、その速さと巧みな技巧の前に木乃は成す術なく倒されてしまったのた。
しかしKatanaはわかっていた。私は一人の力で勝ったのではないと。
「Katana!」
そこに駆け寄って来るのはマナ達だった。
川の中から出てKatanaも安堵の表情を見せる。
「お疲れ様。凄かったね」
「ありがとうございます。皆さんのおかげです」
満面の笑みを贈るKatana。その目は潤いと憂いが残る。
「なに言ってるのさ。ぜーんぶKatanaがやったんだよ」
「そう言うことじゃないだろ。とにかくお疲れさま」
「はい」
スノーがマナの胸を叩く。
一方のKatanaは疲れた顔をしており、鍔と柄だけになった刀の残骸を右腰に携えた鞘に戻す。
「刀折れちゃったね」
「はい。ですが、私は満足しています」
「そっか。楽しそうでよかった」
「はい。それと、私はこれからも皆さんと共に『星の集い』の剣士を恥じずにやっていけそうです」
Katanaはそう宣言する。
しかしマナやちなっちはあまり深く理解しておらず、唯一スノーだけがそのお言葉の真意に気づいていた。
何かの覚悟の表れ。それがヒシヒシと伝わって来るのを無言ではあるが、感じ取るのだった。




