■152 型を破って①
ここから立ち直っていきます。
戦意喪失し意気消沈してしまったKatana。
重たくなった体はそのまま膝を川底に沈めた。刀の先を砂利の水底に突き刺して、体を埋める。
「どうしたその程度か」
木乃の言葉がKatanaを襲う。
普通の人からしてみれば別段大したことない短い言葉の掛け合いなのだが、今のKatanaにとってそれは決して軽いことではない。むしろ重圧となって汚れなき、緩やかな水の流れを堰き止めるだけだった。
「Katana!」
「マナ、さん?」
聞こえてきたのはマナの声だった。
「そんなのどうでもいいんだよ!自分の好きなようにやってみよ!」
そう聞こえていた。
その声は距離的に木乃にまでは届いていない。Katanaにだけ届いた声だった。
「自分の、好きなように?」
そんな突拍子もとっかかりもない安っぽい言葉だった。
だがしかしKatanaはそんなマナの言葉に耳を傾けている。
「おいなにを言っているんだ」
「だってKatana辛そうだもん。聞こえてるKatana!いやこの際だから刀香ちゃんでいいや。なにを悩んでるのか詳しくはわかんないけど、なんとなく伝わってるよ」
「マナさん?」
「家柄とか流派とか型とかそんなのみんなひっくるめて、全部捨てちゃえばいいんだよ!」
「捨てる?」
Katanaの脳内はバグって困惑していた。
「馬鹿かマナ!そんな他人事みたいなことを言うな!」
「だって他人事だもん。だからこそ言えるんでしょ。それにスノーなら私がこうするってわかってたよね?」
「その言い方は少々癪に触るが、まあそうだな」
「ねっ。だから私は言っちゃうよ」
空気の読めていないことをしているとマナ自身理解していた。そしてそれはこの場にいる全員。マナの性格を熟知しているからこそ、誰一人として隔たりなく聞き入れることが出来た。
「捨てちゃえは流石に言い過ぎかもだけど、私達のことだとか家のことだとかそんなの気にしなくていいから。刀香ちゃんは刀香ちゃん。凛としてて流されない。だけどちょっぴり掴みどころのない感じだとかぜーんぶそうだよ。つまんないことにしがみついて折れちゃうなんてそんなの刀香ちゃんらしくないよ!どれだけ堰き止められたって、それを自力で破壊する強大な水の流れは立ち止まったりしないもん。だから刀香ちゃんも刀香ちゃんで思いっきり、やってみよ!私達はそんな刀香ちゃんが大好きだから、一人で背追い込まないで!」
マナはそう言い切った。それを受けてスノー達は大きく頷く。マナの文脈がまるでなっていない話し言葉を全て聞き取って、その上で理解しきっていた。
それはKatanaも同じで、沈みきっていた心に光が差し込む。
重たくなった体の重しを引きちぎり、自ら落ちて行った水底から這い上がるために泳ぐ。そんな感じだった。
「だがどうやって一太刀を与える。今のまま突っ込んでところで、防がれるだけだが」
「スノーならどうするの?もう思いついてるんでしょ」
「まあな。型に縛られないとすれば、奇襲。それこそ煙玉を使ってその後【忍び足】を使い接近する。もちろん背後を取るな」
「えー全力全開で正面突破でしょ!」
「それができるのちなっちだけだよ」
「そっかなー?」
三人がわいわい話し合っているが、私はもうちょっと違う方法が頭に浮かんでいた。
本当に出来るかはわかんないけど、マナは口走った。
「水を使うのはどうかな?」
「「「水?」」」
「うん。例えばだけど、水飛沫を利用するとか。ちょうど水がいっぱいあるんだし」
マナは川辺を見る。
確かにここは川だ。いくらでも水は使い放題。だがどうやって使うか、そこを突き詰めれば切りがない。
「水……そうですね。その手がありました」
だがしかしこんな状況の中、Katanaは糸口を閃いた。
口元をにやけさせ、刀の柄を再度握り込む。今度は短く。そして強く握り込んだ。
「まだやるのか」
「はい。私も、負けられない理由がありますから」
完全に立ち直ったKatana。
私の背後には皆さんが付いている。それが心の奥底から理解出来たからこそ、Katanaは龍蒼寺刀香として今一度戦う気合が出たのだ。
それは一種の忠誠にも近い信頼感。龍蒼寺刀香はギルド『星の集い』のメンバーであり、皆さんにとって大事な友人なのだから。
だからこそ負けられない。
「押して参る!」
Katanaは気迫を込めて刀を振るった。




