■145 屋上
今回はマリモ回の続き。
9月も終わりに差し掛かる今日この頃。そんな古臭いけど、何処かで聞いたことのあるような定型版は置いといて、私と千夏ちゃんは学校の屋上にいた。
私達の通う〈美桜高校〉は歴史のある学校で、所々昔のままだった。とは言っても耐震工事とか改築とかをして今じゃ普通の装いなんだけど、この屋上に繋がる階段とかはちょっとだけボロかった。そんな説明をしてもここは屋上だ。生徒は普通立ち入れない。じゃあなんでいるのかって?そんなの決まってるよ。
「この辺りですか?」
「うんその辺かな」
「ほいっと。はぁー、結構重いなー」
私と千夏ちゃんは放課後、まだ日も高い時間に屋上で作業をしていた。何の作業かと言えば太陽光パネルの設置だ。
そんなの普通業者さんがやるものなんだけど、それもそのはずで私達は道具を置く手伝いをしていた。
「こんな感じですか米山先生?」
「ああ助かったよ。でも本当は牧村に頼もうと思ったんだがな」
「琳廼ちゃん帰っちゃいましたもんね」
「作業とか言ってたよねー(絶対面倒くて逃げてんだろうけど)」
「うん(普通に嫌で帰っちゃったんだよね)」
米山先生は科学の担当で科学部顧問をしている女の先生だった。背も高くてカッコよく、物事もはっきりしてるから結構さっぱりしている。
そよそよこうなったのも私達が琳廼ちゃんに会いに行ったらら困りあぐねた米山先生の姿があって、成り行きでこうなってしまっただけだった。
そこから何やかんや荷物を取りに行き、見つけた荷物は結構重かった。しかもあんな古さの残る階段を重たい荷物を持って運んだので怖くもあった。でもでも無事運ぶことが出来たし、これで大丈夫だよね。
「それじゃあ後は私がやっておくから、二人は帰ってくれて構わないよ」
「えっとー」
「せっかくだし屋上から外の様子でも見て行ってもいい。普段ここは生徒立ち入り禁止だからね」
確かにうちの高校は普通の高校と同じで生徒が勝手に屋上には入らないから、そう言われても納得だ。
同じことを二回言うのも何だけど、逆にうちはかなーり緩い。その、いわゆる不良だとか裏で仕切っている人とかいないわけで、その結果皆んなまったりゆったりしている。私もその一人でそっちの方がいい。だからこうして屋上にわざわざ立ち入ろうとする機会は少ないし、勝手に入るような素行不良の生徒もいないのだ。
「そうだ!」
しかし何か思い出したみたいに米山先生は顔を上げた。
そうして屋上、しかも給水塔が設置された一段盛り上がったところの梯子に足をかけた。
うちの高校古いから昔から給水塔の残骸が残されてる。
別に悪くはないし、特に機能もしてないんだけどわざわざ米山先生が上る理由がわからない。
「米山先生、なにしてるんですかー?」
「おそらくここに一人いるはずですから」
「「えっ!?」」
ここに人がいるって、それって勝手に入ってるってことですよね。そんなことしていいのかな。普通に考えたら駄目なんだろうけど、米山先生はそれを黙認しているみたいだし、それにそんな素行不良の生徒が居たなんて知らなかった。
「獅堂さん、いつまで寝てるんですか。部活に行かないのなら早く帰りなさい。もしくは私の手伝いをしなさい」
そう話しているが、本当に誰かいるのだろうか。
そう思ったのもほんの数秒。そこから聞こえて来たのは「うるせぇな」と気怠げな声だった。
「チッ。なんだよ、米さんじゃねぇか」
「いい加減貴女は部活に行きなさい。ここはベッド上じゃないんですよ」
「わぁってますよそんなこと。それに私は別に部活を兼任してるだけで、結果は出してるじゃぁないですか」
「それも去年の話です。今年に入ってから、貴女は一度も部に顔を出していませんね」
「そりゃ部活辞めましたからねー。って、あれ?他に誰かいるんすか、って1年じゃん。やっほー」
「どうも」
軽く会釈して返す。
獅堂先輩って誰だろ。私知らないや。
「よっと」
すると獅堂先輩はスタッと着地すると、私達に自己紹介してくれた。
「私、獅堂燃。2年、よろしくー!」
「えっと、私は神藤愛佳です」
「ちわっち、南千夏だよー!」
そう緩ーく自己紹介を交えた。獅堂先輩はそんな私達の頭に手を置くと、グリグリと撫で回す。
おっきな胸が近くにあって凄かった。それだけじゃなく、金の毛先が耳元を微かに触れた。
「おーいい後輩じゃんか。米さん厳しいっしょ。昔っからこんななんだわ」
「貴女も去年までは1年生じゃありませんか」
「それは過去の話っしょ」
「まったくよくそれで学年一位が維持できますね」
「あはは、そりゃまあやればできるんで」
そうなんだ。人は見かけじゃ判断できないって言うけど、2年で一番成績いいんだ。
「へぇー先輩って頭いいんですねー」
「おっなんだなんだ。やるのか?」
「やりませんよー」
腕まくりをする獅堂先輩。
まぁ向こうにもこっちにもその気がないのは明白なんだけどね。そんな様子を厳しい目で見ている米山先生。何だろ、“視線が痛い”ってこう言うことを言うのかな?そんなことにちっとも気づかない二人を他所に、私は頬を掻きながらこの状況を楽しんでいた。
「それで米さん、私はなにすりゃいいんすか?」
「聞いていたんでしょ。ならわかるはずです」
「はいはい。じゃあ二人ともまたなー。あっそれと」
獅堂先輩は私達の耳元にこそっとこう呟く。
「階段横の窓あるだろ。鍵壊れてるから、いつでも入れるぞ」
「「えっ!?」」
「他の奴には内緒な」
「なにを話しているんです」
「別になんでもないって」
獅堂先輩は私達にそう言い残すと、米山先生の後をついて回る。何だろ、結構イズチさんに似てる的な。そんな雰囲気と似た匂いを感じてしまった。




