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■143 マリモ

ゴミみたいな話だけど、今後もこの話の続きは書きたい。

 その日私は千夏ちゃんと一緒に科学室にいた。

 今日、授業で使ったシャーレとかを返しに来たからなんだけど、いつ来ても理科系の部屋って独特の臭いがするのは私だけかな?


「にしてもさーうちの学校って無駄に部屋数あるよねー」

「うん。無駄かはわかんないけど、マンモス学校でもないのにこんなに部屋数あるのかな?」

「部活もそんなにないのにねー」

「ねー」


 しょうもない相槌を打つ私達。

 そんな中ふと扉が開いた。それは当然だ。なんたって鍵なんてかけないもん。それにしても放課後、この時間ってことは部活かな?


「って、牧村さん?」

「ん?誰だ」

「酷いよ、同じクラスでしょ」


 現れたのは同じクラスの牧村琳廼(まきむらりんの)ちゃんだ。何故かいつも白衣を着ていて、何故かいつも気だるげな少し小柄な女の子で、教室ではいっつも一人の印象が強いけど根は優しくて芯は強い女の子だ。えっ、なんでわからなかって?なんとなーくかな。


「お前達はなぜここにいる」

「私達は授業で使った道具を返しに来たんだよ。ほら、午前の」

「なるほどな」

「牧村こそなんでいるのさ?」

「私は部活だ」


 部活?意外とか言っちゃ駄目だけど、やっぱり意外だ。

 牧村さんの行動は消極的で淡々としているからそんな印象はなかった。


「なんの部?」

「科学部だ。もっとも私の場合新薬の開発だな」

「新薬って?」

「新しい薬のことだ」


 いや、それはわかるんだけどね。如何して女子高生であるはずの牧村さんがそんな専門的なことに拘っているのか非常に気になる。そう言えばノースも前に新薬開発に協力したことがあるとか、なんとか・・・覚えないからいいや。


「ちなみにどんな薬なの?」

「脳波に干渉して、五感を高めるものだ。ドーピングと似て否なるものだ。根拠として私の開発したものは医療関係の現場にて脳波をある一定数地にまで安定させる効果を持っている。既に申請も済んでいる」

「難しいこと言うねー」

「わからなくて結構」


 千夏ちゃんの反応にもまるで振り向かなかった。

 にしてもそんなの学校でやっていいことの範疇超えてるよね?そう思ったが先手として「許可は取ってある」と答えた。

 でもそうなると多分私達お邪魔だよね。早く退散しようと千夏ちゃんに促すが、牧村さんの視線は別のところにあった。


「あれ作業しないの?」

「今日はしない。ここに来たのはコイツを観るためだ」


 そう言って丸椅子に座り、その視線の先にあるものに注力する。そこに合ったのは小瓶で、中には緑色をしたまん丸の何かが水の中に転がっていた。


「なにこれ、マリモ?」

「マリモ」

「マリモなんだ。えっ!?」


 マリモ?それってあの丸っこいやつだよね。

 北海道が有名なあの丸いやつのことだよね?頭の中でマリモの形をイメージし、ネットで出て来た画像と照らし合わせる。うん、合ってる。にしてもこんなこと調べるなんて思いもよらなかった。


「へぇー意外。にしてもなんでマリモなん?」


 千夏ちゃんが尋ねると、牧村さんは気怠げに答えた。


「このなんの変化も起きていないような停滞感とそれでもなお生き続けてる成長感が見ていて面白いからだな。なんにも考えなくていい。ただこうして時間だけが無意味に潰えていく姿が私に投影した時、それが実に空虚で怠慢なことだと認知できる」

「えーっと、はあっ?」

「要するにぼーっとしてられるから気晴らしにはちょうどいいよね!ってことでしょ?」

「あっ、なるほど!」


 私は牧村さんの言っていたことを代弁した。要約したと言っても私の場合感情的な側面からなんとなくを推測しただけなんだけど、バッチリだったみたいだ。

 ノースなら訂正が飛んで来そうだけど、そんなフリは一切ない。その間も牧村さんはぼーっとマリモを観察し続けていた。その姿が何処か儚げで、何よりも本人が“空虚”と呼ぶには似つかわしくないぐらい、私にはただの“虚”に見えてしまっていた。


「ねぇ牧村さん、牧村さんって好きなこととかないの?」

「ないな」

「でもそれってつまんないでしょ。自分の好きなこととか興味が持てることが見つかれば世界はきっと変わって見えるよ」

「普通のことだな」

「でもそんな普通がわからない人もいるって話だよ?」


 ノースが昔ぽつんと話してくれたことだった。

 もっともノースがそんな様子ではないことぐらい私ならすぐわかる。


「じゃあこのマリモを観てるのって好きじゃないの?」

「好きか嫌いかだけで物事を判断するのはあまりに極端な話だな。だがそうだな、その問いに対して明確な答えをその二択から挙げるのであれば好きに軍配が上がるのかもしれないな」

「そっか。それと同じことだよ」

「そうだな。はぁー試してみるか」


 何だか言われるがままって感じで自分がないみたいに感じた。

 だけどちょっとだけリラックスしてるのが伝わってくる。それを肌に感じ、私はちょっとお願いしてみることにした。


「ねえねえ牧村さん、琳廼ちゃんって呼んでいい?」

「好きにしろ。呼び名にこだわりはない」

「ありがと」

「あっ、じゃあ私もそう呼ぼっかなー」

「だから好きにしろ」


 こうして私は琳廼ちゃんと友達になった。

 それからたまに放課後は琳廼ちゃんと一緒にマリモを観察したりしてまったりする時間が出来ました。

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