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■142 甘梨

こんな梨があったらいいねー。


「ふふふーん。ふふーん」

「楽しそうだねちなっち」


 隣で鼻歌を歌いながら歩いているちなっちにそう話しかけた。ちなみに何が楽しいのかわからない。だけどちなっちは機嫌がよかった。


「いやー最近めっちゃ調子いいんだよねー」

「調子がいいって?」

「水橋とさー、バスケやったんだよねー。でさー」

「勝ったの?」

「いやいやそれじゃあいつものことだって。私が言いたいのは、その後にコンビニで買った梨のジュースがめちゃ美味かったんだよねー」

「あっ、そうなんだ(勝つのはいつものことなんだ、知らなかった)」


 バスケに青春を捧げてると言っても過言じゃない香織ちゃんに失礼だけど、千夏ちゃんってそんなに強かったんだ。そう言えばここしばらくリアルで千夏ちゃんが運動してるとこあんまり見ないけど、確かに前より足速くなった気がする。


「ねえちなっちって今100メートルなん秒?」

「それってリアルで?うーん最近計ってないけど、10秒前後?」

「嘘、じゃないんだ」

「こんなしょうもないことで嘘なんてつくわけないじゃんかー」


 えっ?それってプロ並み?っかそれ以上だよね。そもそも人間業じゃないって言うか、ホント皆んな普通じゃない。

 何だか最近どんどんファンタジーにリアルが侵食されてるみたいに思っちゃうの、私だけかな?


「で、でも流石に10秒台は……」

「うーんあれじゃね?このゲームって、色々噂されてて“人体実験”だとか、“人間の潜在能力を目覚ましく引き上げる”だとか」

「そんなSFファンタジーみたいなことないって」

「だよねー」


 まあ何となくあながち間違いじゃない気もするけど、そんなゲーム国の認可が通るわけないよ。

 ネットの民意に踊らされちゃ駄目だ。って、前に学校に来た講演の人が言ってた気がする。


「まだそんなことよりさー、最近のコンビニのフルーツジュースって結構美味しいよねー」

「うーん私はあんまり飲まないからわからないけど、そうなんど」

「そっかー。マナは自販機で買うもんねー」

「そう言うわけじゃないけど?」

「でも大体当たるでしょ。確率とか仕様とかぜーんぶぶち壊してさ」

「そんなことないと思うけど?」


 まあ確かに、私が二本目が欲しいって思ったら大体出て来るし、クレーンゲームをしたら大体取れるけど……そんなに変じゃないよね?


「変って言うか“運の期待値が高すぎる”んだよ」

「そう、かも?」

「そうなの」


 ちなっちは強引に押し通した。

 そんなくだらない雑談をしながらぼんやり〈ミヤビ〉の街を歩いてあると、不意にちなっちが止まった。


「アレヤバくない?」

「アレ?って大変!?」


 斜面を滑り落ちる荷車。

 荷車の先頭ではおじさんが落ちないように必死で堪えている。でも、ちょっとずつ落ちてきてる。


「手伝お」

「OK!」


 私とちなっちはそれを見過ごせず荷車支えようと、後ろから押さえる。


「お嬢ちゃん達!?」

「せーのっ!」

「うおっ!?結構ヤバいねー」

「感心してる場合じゃないよ。行くよ、せーのっ!」


 私は両手両足に力を込め、ちなっちは体全体で押し出すように迎え撃つ。

 おじさんもそれに感化され、とりあえず斜面を上り切ると、ちょっと息を荒げていた。


「はぁはぁ。結構疲れたね」

「そうだねー。荷物が重かったからかなー?」


 そう言うちなっちは汗一つかいておらず、終始余裕はそうだった。


「いやー助かったよ。ありがと、お嬢ちゃん達」


 荷車を運んでいたおじさんは私達に感謝した。

 如何やらこの人はNPCのようで、見たところ果物屋さんみたいだ。


「大丈夫ですよ。ところでこの荷車に乗ってるのって……」

「そうだそうだ。手伝ってくれたお礼に幾つか持って行ってくれるかな?」


 そう言って渡されたのは籠いっぱいの梨だった。

 ちょっと色が青っぽいから多分青梨って種類だと思うけど、これだけたくさんいっぺんに固まると壮大だ。


「こんなにもらっちゃっていいんですか!?」

「いいともいいとも。あのままおじさん一人だと荷車が落ちて中の商品が大変なことになってだかもしれないからね。それじゃあお嬢ちゃん達、またね」


 そう言い残すと荷車を引いて去ってしまった。

 坂道の上で籠いっぱいに梨を手に入れ立ち尽くす私とちなっち。


「行っちゃったね」

「うん。にしてもさ凄い量の梨だねー」

「うん。普段こんな量買わないもんね」


 一人一つずつ渡された籠だ。

 籠は籠でもザルなのでその上にたっくさん底が見えなくなるまで置かれている。

 私がじっと眺めていると、隣から「シャリ」と良い音が聞こえてきた。隣を見るとちなっちが梨に齧り付いている。


「うわぁこの梨甘っ!」

「そうなの。ホントだ!?」


 私は齧り付いてみると口の中いっぱいに水々しい果肉が解け、一気に甘みが押し寄せてくる。

 こんなに甘くて上品な梨、私食べたことないよ。

 いくらゲームでも味覚を通じて、全身に幸福感が包み込む。


「えっと、なになに甘梨って言う梨なんだ。って凄っ!」


 私は今食べている梨を調べてみた。

 するとこんな感じにポップアウトする。


 〈甘梨〉

 レア度:ハイノーマル 品質:HQ

 説明:とっても甘くて水々しい青梨。甘ければ甘いだけ舌触りが良く、高価になる。


 だそうだ。へぇー、ってこの梨めちゃくちゃ甘くて美味しいよ。

 もしかして私達とんでもないの手に入れちゃったのかな?


「ちなっち美味しいね」

「うん。でも流石マナ」

「ほえっ?」


 何で私を褒めるのかな?身に覚えのないことに驚きつつ首を傾げた。


「だったこれもマナのリアルラックと【幸運】のおかげでしょ?まあ困ったてたの偶然っぽいけど」

「えっとー、たまたまじゃない?」

「マナがそれでいいんならそれでいいんじゃね?」

「う、うん。とりあえずこれ持って帰って皆んなで食べよっか」

「そうだねー」

「タイガーとか喜びそうだし」


 運が良いのやら悪いのか正直微妙な判定だって。

 にしてもこんなに甘くて美味しい梨が手に入ったのはラッキーだ。

 この後ギルドホームに持ち帰り、皆んなで美味しくいただきました。特にタイガーは大喜びで梨を使ったケーキを作ってくれた。とっても美味しかった。

 

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