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■139 暴れ鰹がやって来た!

今回は繋ぎ回。

 その日私達はとある島にやって来ていた。

 そこは私達がドラピューズと戦った場所で、惜しくもイベントでは優勝出来なかったけど何故か手に入れてしまったギルド所有の島だ。


「ねえタイガー、今日はなにするの?」


 そこに集まったのは他でもない。ギルドの仲間であるタイガーの一声だった。


 ◇◇◇


「今から鰹取りに行くぞ!」

「「「はい?」」」


 急に放たれた言葉の一言に私達は唖然とした。

 鰹?えっ、あの魚の鰹のこと?国民的長寿アニメでお馴染みのあのモデルの?いつにも増してはてなが脳裏で慌ただしく飛び交う中、突拍子もないタイガーの発言に真っ先に食い付いたのはやっぱりスノーでした。


「鰹だと?なぜそんなものを買いに行く必要がある」

「買うんじゃなくて捕るんだよ!」

「捕るって、もしかして漁に行くってことー?」

「そう言うことだ。そのためにわざわざ船まで調達して来たんだからな!」

「じゅ、準備いいね」

「だろ!」


 何だかノリノリなタイガーだ。いつにも増してテンションが高い。口調もちゃんと「俺」になってる。いつものオドオドしてる姿が嘘みたいに活気付く。

 真っ白な虎の尻尾がゆさゆさ揺れる。可愛い。


「なあなあ行こうぜ!この世界の鰹は今の時期が一番美味いらしいんだよ!」

「買ってくればいいんじゃないの?」

「いやいやそれは駄目なんじゃないのー」

「どうして?」

「だってさ、鰹って傷つきやすいんでしょ?ほら、テレビとかでさこう船の上で釣竿使って一本釣りしてるシーンとかあるじゃんか」

「ああ確かに!」


 そう言えばよく日曜の夜8時とかから特番が組まれてそんなシーンが出てたことがあったかも。にしてもあれってどうやってるんだろ。多分難しいよね。


「ああ、高知県の鰹漁では一本釣りが使われるな。一匹一匹釣竿で釣るからこそ傷物が出にくく、それ故に品質も損ねない。美味いたたきが作られるわけだ」

「そうそれ!俺はそれが作りたいんだよ。だ・か・ら・さ!早く行こうぜ!」

「わかった。わかったから」


 ってな感じで流れるようにとんとん拍子で船に乗り込み、今まさに私達は大海原に出ていた。

 と言っても周りには他に船の姿はなく、人っ子一人確認出来ない。島からは一応見える距離にいるけど、結構船は揺れていた。それはもちろんのことで、私はもちろん船の操縦が出来るのはこの中だとスノーぐらいのもので、今乗っているのも安めな木のものだった。


「ほ、本当に釣れるのかな?」

「さあな。とりあえず鰹のいそうなポイントはタイガーが目星を付けたようだし、針を入れてみるしかないな」

「そうだよね」

「じゃあ早速。せーのっ!」


 大振りで腰を使って腕を大きく伸ばし針を水面からポチャんと水の中に落とす。

 柔らかい音がなびき、水面をすり抜けていった。そのまま針は水中の中を漂い出した。

 例えるならまるで生き餌みたいなゆさゆさと手の感覚だけで動かしてみせるちなっちの動きは素人目から見てもかなり上手かった。私も負けてられない。


「私もやってみよ!」


 ポチャんと水の中に投入した針が優しく動き回す。海流に漂ってゆらゆら動き回る。でも何だろ。ちなっちみたいに上手く出来ないや。


「こんなので本当に釣れるのかな?」

「ポイントが間違ってなかったなら。確率はぐんと高くなる」

「おい!俺の見立てが間違ってるって言うのかよ」

「誰もそんなことは言っていないだろ。とにかく後は待つしかないな」

「えー」


 ちなっちが不満げな声を漏らす中、ただひたすらに水の中を覗き込んで注力していたKatanaは何か動くものに気づいていた。それは陰のようだったけど、群れみたいで沢山いる。


「どうやらタイガーの見立ては間違っていないようですよ」

「じゃあ鰹がいるの?」

「鰹かどうかはわかりませんが、少なくとも魚群が船の周りに集まって来ています」

「どれどれー。あっ、ホントじゃん!?」


 ちなっちも目が良いので水の中を真剣に見ていると、確かに何かの影が複数ちらついていることに気付いたみたいだ。

 それを知るや笑みを浮かべるちなっち。私もやる気が出て来た。


「魚が見えたところで早々掛かるとは思えないが……」

「それもそうだよね。って、うわぁ掛かった!」


 スノーがもっともなことを言う中、反射的に頷いた私の竿が急に強く引いた。

 腕が海の底に持っていかれるような感覚。間違いない何かが釣り針を噛んだんだ。


「えっ、あっ、だ、どうしよう!スノー、どうしたらいいの!」

「落ち着けマナ。糸が切られないように慎重にタイミングを合わせながら力が弱まった瞬間、一気に竿を引き上げろ!」

「そんなこと言われても」

「大丈夫ですよマナさん。竿を剣に見立ててみてはどうですか。少しはイメージがつくのではないでしょうか?」

「釣竿を剣に?」


 Katanaらしい助言だ。だけどそう上手くイメージ出来るか心配だった。しかし釣竿に掛けられた重さと剣を振る時の重さとを比べてイメージしてみると思った以上に体に馴染む。

 ここまでずーっと使い続けている相棒だ。それを思えば何だか気が楽になってきて、Katanaの言うこともそっと理解出来た。


(いける!)


 心の中で自分を鼓舞して思いっきり引き上げる。

 すると釣り針の先に見えたのは魚影。しかもかなりの大きさだ。


「せーのっ!うわぁ!」

「マナ大丈夫ー。ってうわぁ!?」


 船の中に倒れ込む私とそれを支えようとするちなっち。

 しかし二人して釣れたものに驚いて足を滑らせてしまった。狭い船の中で横たわる私達。そんな中釣れた魚は船の上で暴れ回った。


「な、なんでしょうかこの魚?」

「鰹にしては顔付きが随分とシャープだな。身は締まっているようだがしかしこれはどう見ても……」

「うん。私も違うような気がするんだけど……」

「これだ!」


 私達一同で「これは違うでしょ」的な考えが伝達した。しかしタイガーだけは真逆の反応で大いに喜んでいた。


「えっ、タイガー。今なんて?」

「だからこれが俺らが追い求めてた暴れ鰹なんだよ!」

「これが?」

「そうだぜ。いやー意外に早く見つかったね」

「どう見てもオニカマスだろ!」


 “オニカマス”?スノーの対比に全くついていけない。

 だけどこれが鰹じゃないことだけは同感する。


「同じスズキ目ではあるがサバ科とカマス科で区分分けされている」

「そうなんだ」

「でもコイツは紛れもなく暴れ鰹だぜ!疑うんだったら一度名前確認してみろよ」


 そう言われてみればそうだ。私が名前を確認すると確かにそこには“暴れ鰹”と明記されている。

 あれ?てことは本当にこの魚って鰹なの?じゃあ目的達成?何だか呆気ないなー。

 何処かで腑に落ちない気持ちがグッと心に重さとなった。だけど嬉しいことにこんなあっさり釣れてくれて楽が出来た。


「マナの幸運ってこんな時にも発動するんだな!」

「あっそっか。だから私を連れてきたんだね」

「いやそう言うわけじゃねえけど」

「あれ違うの?」


 何だか釣られた気分になる。

 でもそこで訂正するのはちなっちだった。


「違うって、今のは【幸運】じゃなくて幸運でしょ」

「確かにな」

「それもそうですね」

「あっ、ごめんね」

「なんで皆んな同感なの!」


 一人怒る私。だけどこの後ノリに乗った私が針を落とすたび、バンバン魚が釣れた。

 張り合いがないというよりもちょっぴり怖くなる。だけど結構充実していたのは皆んなには内緒だ。

 



 

 

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