■137 虎の威光
まともなバトル描写を心掛けたい。
評価、ブクマしてくれるとうれしいです。
いざ本気を出したタイガー。その気迫に気圧されまいとイズチもイズチで気合を入れ直す。
頬を思いっきり引っ叩くと、再びタイガーに視線を戻す。頬は真っ赤に腫れ上がり痛々しい。だけどそれだけタイガーとのバトルにはそれ相応の何かを感じているようだった。
「ヤバっ。さっきまでも気迫が全然違うんだけど」
「どうしたかかってこないのか」
挑発するようにイズチを誘う。そんな甘い誘いに乗るほどイズチでも馬鹿ではない。だがそれ以前に伝わる気迫に生じて、足がおぼつかなかった。
だけどこのチャンスを逃したりはしない。意を決してイズチは飛び出す。その身は【疾雷】に委ねていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
腹の奥から声を張り上げ、障害となる空気を貫き両手に装備した鋭い鉤爪を前に向けた。
銀色の鋭い三本の爪がスキルによって生まれた微弱な電気を纏ってビリビリと音を立てて輝いた。それが体の抵抗として邪魔になる残った空気圧すら無視していた。
「〈サンダー・クロー〉!」
イズチはタイガーを切り裂く。表示されたHPバーが少しだけ削れた。
ヒット。その感触を忘れないうちにイズチはさらなる攻撃の連鎖を繰り返す。何度も何度も地面に足がつくや否や反転してタイガーの体を蝕むように襲い掛かる。
ジリジリと削れていくタイガーのHPバーはいつの間にか緑から黄色になっていた。ここまで無抵抗のタイガー。先程までの簡単にいなす動きとはまるで違ってどっしりて構えた大木のようだった。
「動かないんだったらこっちから!」
「せーのっ!」
タイガーは拳を振るった。そこは虚空で、イズチの姿はない。
しかし叩きつけられた空間は何故か歪んで超高速で移動していたはずのイズチは弾かれるように地面に転がった。
「えっ?」
何が起こったのかまるでわからなかった。それは肌で感じて目を丸くするイズチが一番理解できていなかった。
「な、なにが起こって……」
「俺のスキル【烈風】だ」
「烈……風?」
聞きなれないスキル名だ。困惑するイズチと同じでマナもわかっていない。
「スノー【烈風】って?」
「【烈風】は風系統のスキルだ。強烈で激しい風を瞬時に巻き起こす力を持っている。タイガーの拳を打ち込む動作に合わせて、【烈風】で風を起こした。それで空間に障害物として移動していたイズチに触れた瞬間弾けて、余分な空気圧が生じた結果イズチの体が全身悲鳴を上げるが如く後ろに向かって飛ばされたんだろうな」
「うっ!な、なんか聞いてるだけでヤバそうだね」
「だろうな」
淡々と説明するスノーの張りのない喋り方に状況把握が疎かになりかけるが、如何やらタイガーの方が一歩リードしている風に感じた。そう思わせる要因としてイズチの手が止まったからだ。
打つてなし。額から嫌な汗が滲み出る。
だがイズチも最後まで諦めたりはしない。自分の全力でタイガーの力に打ち勝つと必死だ。
「いくら私が攻め込んでも【烈風】で返り討ちにされたらその隙を突いて攻撃が飛んでくるだけ……だったらこの一撃で終わらせてやる!」
イズチは足を下げ全身から稲妻を放った。空気を震わせ、余分な酸素を蒸発させる。そうして自分の周りを取り巻く邪魔を全部払い除けるや否や、イズチはその場から姿を消す。
最高速度。最高火力で突撃するイズチ。【疾雷】を完全に自分の体の一部とし、装備した鉤爪でタイガーを切り裂こうとする。
しかしタイガーは動じない。それどころか構える様子を見せることなく立ち尽くしていた。
「タイガー!」
マナは叫ぶ。
「だったら俺も本気でやってるよ」
迫り来るイズチの鉤爪が目前に差し掛かった瞬間、タイガーは右拳を後ろに引いた。
そうした二人の技が激突する。
「〈雷撃突破〉!」
「〈虎殴烈風撃〉!」
タイガーは右拳を打ち込んだ。
すると拳を軸に凄まじい風が巻き起こり、空気を貫いた。
【烈風】のスキルを絡めた拳はそのまま【疾雷】を使って突撃してくるイズチを返り討ちにする。
「ぐうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
イズチの体は悲鳴を上げて崩れ落ちた。表示されるHPバーは一気に緑から黄色、赤へと突入しそのままなくなってしまった。
それと同時に試合終了を告げる音が鳴り出し、イズチの敗北とタイガーの勝利を同時に告げた。
私達はタイガーとイズチの側に駆け寄った。
そこにいたのはやり切った感で肩から力が抜けた様子のタイガーと、地面に仰向けになってぼーっとしているイズチだった。
「うわぁー、負けた負けた!」
イズチは起き上がりざまに悔しさを露わにする。まるで子供みたいに駄々をこねるが、それ以前に吹っ切れていた。
ただ悔しさだけでなく楽しかったのが傍から見ても伝わってくる。
「いやー負けたわ。でも気持ちいい負けって感じ」
「惜しかったなイズチ」
「まあ奮闘はしたけどね」
イズチは頬を掻いて恥ずかしさを払拭しようとする。対するタイガーに駆け寄った私達は先ほど繰り広げられていたスキルの応酬を見て感極まっていた。
「タイガーさっきの魔法凄かっね!」
「〈虎殴烈風撃〉だっけー。いやーカッコいいねー」
「そうか?あれ、結構疲れんだよなー」
「MPの消費も並ではないようですね」
「そうだな。だが最後の決め手になったのはそこまでタイガーが力を温存していたからだ。見事だな」
私達はタイガーを褒めちぎった。
するとタイガーは少し気恥ずかしくなったのか、顔を隠してしまう。だけど耳の先まで真っ赤だったことからアレはただの思いつきで、自分でも終わってから気付いたみたいだ。そのせいで羞恥心が昂っている。
「タイガー!」
「な、なんだ!?」
そんなタイガーのことなんて全く気にしていない様子のイズチは張った声で話しかける。
すると親指を立ててこう述べた。
「楽しかったぜ。またやろうな!」
はきはきしていて元気がよかった。負けた悔しさをバネに出来る人。まさにその典型的なタイプのようだ。
対してタイガーはと言うと少し渋い顔をしながらも本心からイズチに敬意を表する。
「俺もなかなか楽しかったぜ。けどな次やるかは別だ」
「えーなんでなんで!」
「俺はこんな意味のねぇ戦いは嫌いなんだよ」
「えー楽しいじゃーん!」
「それはお前の勝手な言い分だろ。俺の意見も汲み取れ!」
「えーつまんなーい!」
「えー」の応酬。それをこれまた軽くいなそうとするタイガーだったが、イズチはそんな彼女の気持ちなど露知らず、そんな押し問答のような時間が続いた。
かくして私達の交流会はこれにて上々の中、お開きとなるのでした。




