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■136 馳せる稲妻

今回から目線を変えてバトルシーンを書いてみました。

今後しばらくの話数はこうなっています。

 いよいよ二人のバトルが始まる。

 屈伸などで体を慣らすイズチとそれとは対照的にまるでやる気の入らないタイガー。二人の戦いを『星の集い』と『雷聖』の仲間達は各々が応援していた。


「スノーどっちが勝つと思う?」


 マナはスノーに尋ねた。

 するとスノーは歯切れの悪い答えを返す。


「さあな。相手は雷爪の二つ名を持つイズチだ。その戦い方や実力は未知数。対してタイガーの動きは私達が一番よく知っているはずだ」

「うん。パワー系だよね」

「ああ。だがタイガーはただのパワー系ではない。アイツの真価はもっと別にある」


 スノーは含みのある言葉の羅列を並べる。そんな中、二人の戦いが始まったのをちなっちが伝えた。


「二人とも静かにしよ。始まったみたいだよ」

「「うん」」


 マナ達の視界の先。そこはほぼ平と言っていい岩場。

 障害物はなく、周囲には避雷針が立てられていた。そのことからこの辺り一帯が雷の発生率が高い地域だと簡単に推測された。


「じゃあ行くぜ。楽しませてくれよな!」

「それを決めるのはお前じゃない。俺だ」

「いいねいいね。じゃあ早速ーー!」


 イズチの姿がタイガーの目前から消える。

 何が起こったのか。突如としてイズチの姿が忽然と消え、その直後タイガーの耳元で火薬が爆発したみたいな音が聞こえた。


「!?」


 タイガーはそれを何とか防ぐ。

 見ればイズチの蹴りがタイガーの顳顬(こめかみ)に直撃する寸前で避けたのだ。


「うわぁマジ!?私の蹴り避けるんだ」

「なかなか速えけど、ちなっちの【加速】に比べたら遅ぇよ」


 タイガーはイズチを挑発してみせた。しかしイズチはそんな挑発に乗るどころかとても楽しそう。

 それから何でもない挑発をけしかけるタイガーはと言うと目が慣れているのか、余裕そのものだった。


「うわぁ凄く速いね。全然見えなかったよ」

「確かにな。だがタイガーは余裕そうだぞ」

「だよねー。だって私の速度に合わせられるもんねー。こんなんじゃウォーミングアップにもならないのかもねー」

「そ、それって比喩だよね。ちなっちちゃんってそんなに速いの?」

「いやいやー」

「どっちなの!?」


 多分りーさんはちなっちのリアルの身体能力とゲームとがごっちゃになって混乱している。マナはそう睨んでいた。

 そんな中ムジナは二人の戦いを注視して見ており、動きに変化があったのを掴んでいた。


「全員前を見ろ。イズチの動きが変わったぞ」

「「「えっ!?」」」


 三人は揃ってイズチ達の戦いに視線を戻すと、イズチの拳と蹴りがタイガーの真正面からの受け手で軽くいなされている様子。

 それにやきもきしたイズチが一旦後方に下がり体勢を立て直し再び攻めに出るところだった。


「単純な攻めじゃ通用しないってことね。じゃあもうちょいスピード上げますか」


 イズチはそう言うや否や、タイガーの前から再び消えた。

 しかし今度もまた同じだろうと軽い気持ちで立ち尽くすタイガーだったが、次の瞬間左肩に衝撃が走った。


「ぐはあっ!?」


 痛みに襲われその場に崩れるタイガー。ゲームはゲームでも多少の他のエフェクトや痛みの加減は付けられる。それもあってか、防御力の許容を超えたため、貫通してダメージが感覚的に襲った次第だ。


「う、嘘だろ。これって……」

「どうよ、私の【疾雷】。結構効くだろ」


 ここでイズチが繰り出したのは彼女の最大限のスキルとスピードを掛け合わせた必殺の定石だった。

 【疾雷】。それは本来急に激しく鳴り出す雷のことだが、その意味を彷彿とさせるように一瞬のうちに相手に近づく速度はまさに雷のそれだ。それを見てマナは驚いていた。


「アレって私の【雷歩】と似てるね」

「【雷歩】?」

「そうだよー。マナはね、激レアスキルの【雷歩】を持ってるんだー」

「それはどんなスキルだ」

「最初の一歩目を瞬間的に加速させるのが【雷歩】だ。それから【疾雷】は直線的な動きに限られるが、一瞬にして周囲の空気を爆発させ加速エネルギーに変換し、空気などの生じる障害を無視するスキルだな」

「それってどっちが強いの?」

「場合による。例えば【雷歩】の場合、小回りの効いた動きに重点を置けばそれだけで雷の速度で敵を撹乱できる。したがって相手の目を疲れさせることやそもそも捉えさせることすらできなくしてしまうからな。一方で【疾雷】の爆発的な瞬間最大速度は優を超えている。ちなっちが本気で【加速】をして追いつけるかどうかだな」

「あっ、追いつけるんだ」

「そこは引っ掛からなくていい。そもそもちなっちが例外中の例外なだけだ」

「私って既にそう言う扱いなんだー。ちょっと酷いなー、あはは」


 でもわかりやすい。要は単純なスピードだけだったら私が【雷歩】を使っても追いつけないことになる。

 そんな規格外のスキルを持つ相手にタイガーはどうやって対処するのか。マナは内心興奮していた。


「つまり止められないと言うことだな」

「それは違うぞ」

「どう言うことでしょうかスノーさん」


 Katanaが尋ねた。するとスノーはこう答える。


「もしもタイガーがあの動きに対応できるポテンシャルがあるから戦況は簡単にひっくり返る。それにそこに至るだけの技も動きもタイガーは持っているはずだ。後はそれを行使するか否かだろうな」


 スノーは何やら全てわかっているみたいな意味深な発言をする。この場にいる誰しもがイズチの有利性を見極めている中、スノーのその発言で傾く『星の集い』の面々。

 そうだ。その一言で彼女達は一つの結論に至った。「タイガーは負けない」。それを一番身近でわかっていると確信しているからこそそんな想いが溢れ出た。

 そしてそんな最中、【疾雷】を繰り返すイズチは受け流すだけで精一杯のタイガーに疑念を抱き始めていたのでした。


「なんで攻撃してこないんだろ。(私のパンチも蹴りも受け流してるのに……)」


 イズチは不審な動きをするタイガーを睨むような目で見つめる。しかしタイガーはそんな威圧にはまるで見向きもしない。その場でただ立ち尽くすだけだった。


「なんで攻撃してこないの?」


 痺れを切らしたイズチが問いかける。

 しかしそんなタイガーから出た答えはイズチの範疇を超えていた。


「俺は最初っから戦う気はねえんだよ。今日はそんな気分で来たわけじゃねぇしな」

「なんだよそれ。つまんないの」

「つまんないか。(怪我とか痛いのとかの方が嫌だよ)」


 タイガーはやる気がなかった。いつもはモンスター相手だったり、なんやかんな戦う気持ちを整えているけど、イズチの動きも完全に見切っているタイガーからしてみれば後はいかに怪我をさせずに終わらせるか。この一点に尽きる。

 それは相手を侮辱しているみたいに捉えられるかもしれないが、タイガーはそんなしょうもない信念なんかよりマナ達から学んだことの遂行を望んでいた。それは何でもない自分が戦って相手を怪我させないこと。今はその時じゃない。そう思ったからだ。


「はぁー白けること言うなよ。私は、タイガーがムジナ張りに私と対等に手合わせできることが嬉しいんだよ」

「それはよかったな」

「だからちゃんとやろうぜ!じゃあないと負けるぞ」

「いや負けてもいいけど」


 タイガーは勝負のことなんて頭の中にはこれっぽっちもなかった。

 だけど耳を澄ませば仲間達が自分を応援してくれていることに気付いた。


「タイガー頑張れ!」

「楽しんでいこー!タイガーなら勝てるよ!」


 マナとちなっちが叫ぶ。それを耳障りに思うことはなく、むしろ喜ばしいことだった。期待されていること、信じてくれていること。それらが噛み合った時、タイガーは唐突に何の前触れもなく吹っ切れた。


「しょうがないな。私も、やろ!」

「はぁっ!?」


 今度はイズチの前からタイガーの姿が消えた。いや消えたのではない。高く跳び上がったのだ。

 地面を深く蹴り勢いを付けて空中に舞い上がると、そのまま重力に身を任せ拳をイズチに叩きつける。


「ヤバっ!」


 間一髪のところでイズチはバックステップで回避した。

 しかし頬からは微かな傷跡が浮かび上がる。


「マジで。どんなパワーだよ」

「そっちもよく躱したな」


 互いに称賛し合う。しかしどうして急に先ほどまでとは明らかに違う交戦的な動きをしたのか。


「一体どう言う風の吹き回しだよ。急に攻撃してくるなんて」

「ちょっと気が変わっただけだ。お望み通り、本気でやってやるよ」

「!?」


 タイガーの鋭い眼光から放たれた威圧感に気圧されるイズチは萎縮してしまった。しかし足元はしっかりしていて、その額からは嫌な汗が滲み出る。

 交戦的だったイズチが一変大人しくなる。それはまるで蛇に睨まれた蛙。いや、虎に睨まれた(みずち)の方がふさわしいかもしれない。

 


次の話もバトルの続きかも?

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