■133 雷聖《サンダラ》
短いですが『雷聖』編がスタートします。
今日は深夜の投稿になりました。気分次第でもう1話投稿するかも?
「と言うわけで、これから雷聖の人達に会いに行ってみようと思うんだけどどうかな?」
私はそう提案した。するとこの場にいる全員が私に視線を送り、中でも真っ先に答えるのはスノーとちなっちだった。
「なぜだ」
「私はいいよー」
二人とも考え方が全く違う。だから面白いんだけど、ちなっちは肯定的なのに対してスノーはむしろ否定的だった。
「突然すぎる。しかも相手は雷聖だ」
「そんなに凄いの?」
「雷聖は中堅ギルドの一つだ。ランクは私達と同じだが、ギルマスのイズチは雷爪の異名を有する程の強者らしい」
「へぇー」
それは面白そうだ。
「その上アポなしでギルドに押しかけるのはな……」
「アポなら取ってあるよ。私のクラスメイトが「大丈夫だよ」ってメッセくれたから」
「はあっ!?」
私はゲーム内のメッセージボックスを見せる。
するとそこには聞きなれないプレイヤーの名前。「みーさん」とある。この「みーさん」って言うのが山中美里ちゃんだ。
「みーさんって美里だよねー」
「うん。ちなっちも聞いてたよね」
「もっちろん。普段話さない二人がなに話してるんだろーって気になって、私も後で聞きにいっちゃったよー。もちろん、私の方にもおんなじメッセ着てるよー」
ちなっちは私達にメッセを見せた。確かに全く同じ内容だ。
「アポは取れたのか。はぁー、仕方ない。行くか」
「二人は?」
スノーは嫌々といった感じだ。それもそのはずで、スノーはあまり仲良くもない相手とのやり取りは苦手みたい。それはここ数ヶ月で熟知してたけど、こう改めてまじまじするとちょっと歯痒かった。
「私は構いませんよ」
「俺もいいぜ。雷爪か。どんな奴なんだろうな」
Katanaの反応はやや予想通り。しかしタイガーのこの反応は予想外だった。今日は俄然やる気があるみたいでおどおどしていない。何か心境の変化でもあったのだろうか。
「随分やる気あるねタイガー。なにかあったのー?」
私の疑問を即座に尋ねたちなっち。するとタイガーはちょっとだけ気負いしたみたいな普段の雰囲気に包まれてしまった。
「宇、うん。実はねよく覚えてないんだけど、誰かになにか言われちゃって」
「「「えっ!?」」」
私達四人ともそんなタイガーの発言に引っ掛かった。
「へ、変だよね私。だって自分じゃ覚えてないことなのにこんなに心に刺さって離れようとしないんだよ」
「実は私もね同じ気持ちなんだ」
自信なさげなタイガーを後押しするように私は言葉を引き継ぐ。
「マナちゃんも?」
「うん。夏祭りの日かな?そこでなにかあったはずなんだけど、私もよく覚えてないんだ」
「マナもだったんど。ってことは皆んなも?」
「ああ」「はい」
スノーもKatanaも首を縦に振る。不思議な話もあるものだ。だってまさかこの場にいる全員が同じ体験をしていたにも拘らず、誰一人としてそのことを覚えてない。そんなこと普通あり得るだろうか?スノー曰く“ほぼほぼあり得ない”とのことだが、現にこうしてそれを実体験してしまった後ではその言葉の制圧力も弱い。
「だけど全然悪い気はしないんだよね。なんでかな?」
「確かにな。だが今記憶にないことを改まっても仕方ないだろう」
「そうだけど……」
スノーは話を折った。
「今は雷聖と交流の方を優先するぞ。時間は」
「30分後」
「よし。だったら早く行くぞ。向こうのギルドホームなんだろ」
「うん」
スノーは前を向いた。本当はスノーが一番この事態に首を突っ込みたいはずなんだ。だけどそれをぐっと堪えているのはきっと私達のためもある。こんな機会滅多にない。みーさんに頼めばまた機会が得られるかもしれないけど、スノー曰くファーストインプレッションが大事らしい。ちなみに意味は印象のこと、今回は第一印象のことだった。
◇◇◇
私達がやって来たのは〈リムルト〉の街から程近いエリアにあるギルドホームで、私達のと同じで森の中なのは変わらにが、ごつごつとした岩肌が特徴的な所だった。
「この辺りのはずなんだけど……」
「ないな」
地図を開いてここまでやって来たがあまりにも変化の少ない地形故に道に迷ってしまったらしい。困ったな。これじゃ時間に遅れちゃう。焦る私。しかしそんな中、ちなっちは何かに気付いた。
「ん?ねえマナ。あれって人じゃない?」
「えっ」
目を凝らすちなっちに教えられ、私も視線の先を覗き見る。すると確かに遠くに人影が見えた。
微かに窺えるのは紺色のショートカットと言うだけだった。
「ちょっと聞いてみようよ」
「おい待てマナ!」
「待ってー、私も行くー」
私はスノーが何か忠告をしようとしたけれど、それを無視して走っていた。
それを追うようにちなっちも付いてくる。
「あのーすみませーん。この辺りにギルドってありませんかー!」
私はそう尋ねた。するとだいぶ距離があると言うのに声に気付いた誰かはマナに振り向く。
そこにいたのは端正な顔立ちの少女。優しそうな目をしていた。だけどそんな子の口から飛び出した第一声は怒号だった。
「おいお前こっち来んな!」
「えっ!?」
どう言うことだろう。急に捲し立てるように危険信号を送られ、緩和する私。だけどその後ろを付いて来ていたちなっちは気づいていた。
マナの上空に黒い雲出来ていて、そこからピカッ!と閃光が迸るのを。
「マナ危ない!」
「えっ?あっ!」
気づいた時には遅かった。
マナの上空から突然落ちてきた落雷。雷は一瞬だ。その一瞬を躱すなんて無理がある。それは突然の出来事で【加速】が間に合わなかったちなっちにも危険を伝えた少女にも止めることは出来なかった。本来この場所で攻撃的なシステムは起こらないと思い込んでいた。しかし今マナ達がいるのは偶然にもほんのちょっとだけ街とギルドとを繋ぐ道から逸れていたのだった。
だけど心配には及ばなかった。何故ならそこに居たのがマナだからである。
「ふぅー。危なかったー」
【幸運】スキルを保有するマナは雷に打たれることはない。それはゲームだけの確立には縛られることがない、現実でもいや現実の方が圧倒的にリアルラックの高いマナだからこそ出来た奇跡だった。
雷はマナから僅かな逸れ、その結果近くの地面が抉れて真っ暗になる。
「あ、あはは。やっぱりマナらしいねー」
安堵すると同時に呆れてしまうちなっち。だけどそれこそマナらしいのだとほっとしていた。
「凄えな。まさか雷を避けるなんて」
「避けたんじゃないよ。たまたま当たらなかっただけ」
「そ、そっか!」
少女も引き攣った笑みを浮かべる。彼女もマナの無事を安堵していた。
「それよりありがとう。おかげで助かったよ」
「私はなにもしてないけどな。あっ、それよりささっきギルドがどうとか叫んでなかったか?」
「えっ、うん。(聞こえてたんだ……)」
困惑するマナ。
しかし紺色をベースにに程よい金のインナーが入った髪色をした少女は話を続けた。
「それなら心当たりがあるぜ。お前ら雷聖を探したんだろ!」
「そうだけど」
「ビンゴ!だったら私に付いて来いよ。案内してやるから」
そう言うとキリッと口角を上げた。
「いいの?って、なんで知ってるの雷聖のギルドホームの場所」
「そんなの当たり前でしょ。私が雷聖のギルマスなんだからよ」
「「えっ!?」」
私とちなっちは同時に声を上げた。それを私達の元に寄ってきていたスノー達は気づき立ち止まる。
「私がギルド雷聖のギルマス、イズチだ。よろしくな!」
軽快に挨拶をする少女はニカッと笑うのだった。




