■132 憂鬱な二学期
いわゆる4章の開幕。
この後ちょっとずつ書き方が変化しますが、気にせずお読みください。
9月1日。今日から二学期だ。
いつもの通学路。私は隣を歩く千夏ちゃんの憂鬱気な顔色がちらちら視界をよぎった。
「はぁー」
「今年もなんだね」
夏休みや冬休みなんかの長い連休を開けると千夏ちゃんはいつもこうなる。
それもそのはずで、そう思うのは皆んな同意見だろう。
私だってこんなに楽しかった夏休みが終わっちゃってちょっと寂しいけど、そこまで苦ではなかった。
「そんな顔しないでよ千夏ちゃん」
「いやいや、普通夏休み明け初日はこんなでしょー」
「それはそうだけど……」
「はぁー。いいよねー愛佳は」
「?」
「いつもいつも楽しそうで」
「まあね」
確かにそれには一理あった。私が毎日を苦に感じないのは、“楽しい”って思えるからだろう。
何をやっても普通な私ならではの考え方で、上がり幅の大きさも下がり幅の大きさもぐわんぐわんならないからだ。
だけど……
「今年はちょっともの寂しいけどね」
「まあいっぱい遊んだもんねー。でもまあ」
「うん。まあ遊べばいいもんね!」
「そう言うことー。はぁー、まあ気を取り直して行きますか」
「そうだね。行こ行こ!」
私は千夏ちゃんの背中を押した。
立ち直りが早いのも割り切りがいいのも千夏ちゃんらしくて憧れた。まあこの憧れはこうなりたいとかじゃなくて、“らしさ”があるから憧れなんだけどね。まあ自分で言っておきながら、深い意味はないんだけど。
◇◇◇
「ちわーす!」
「おはよう」
私達はいつも通り教室にやって来た。
見れば夏休みの終わりを嘆いて机に突っ伏せる人や、逆にわいわい楽しくお喋りをしている人達と様々だった。
(皆んな相変わらずだよね。って、あれ?)
私はふと視線に入り込んだ女の子の姿が映り込んだ。
その子はとても物静かで、私もそこまで仲良くはないけど仲が悪いわけでもない仲だった。
そんな子が、今一生懸命ノートを書いている。何してるんだろ。
「おはよう山中さん」
とりあえず声をかけてみることにした。
仲のいい子には下の名前で気兼ねなく呼べるんだけだ、そこまで交流がないからちょっと堅くなっちゃう。
「あっ、えっと、神藤さん?」
「うん神藤だよ。愛佳って呼んでくれてもいいけど。私も美里ちゃんって呼びたいから」
「あっ、じゃ、じゃあそれでいいです。えっと、愛佳さんなにか用ですか?」
「ううん。ただいつもマメなはずなの美里ちゃんが宿題やってるなんて珍しくてついつい声をかけちゃったんだ。ごめんね、お節介な人で」
正直自分でもわかる。これは面倒くさいタイプだ。
お節介というか、迷惑な人な気がしてならない。そんな自分のことは上手く丸め込んで無視し、美里ちゃんの声に耳を傾ける。
「えーっと、うん。よく見てるね」
「まあね」
何だろ。人のちょっとした仕草にも気を遣うようになったのはここ最近かも。昔からそう言った変化にはそこそこ敏感な方だったけど、〈WOL〉をやってからはそれが如実に出ている気がした。
「その、最近寝不足でね。遅くまでゲームしてるからかも」
「ゲーム?私もやってるよ。VRだけど」
「VR!?もしかして〈WOL〉?」
「そうだよ。ってもしかして美里ちゃんもやってるの?」
「う、うん」
美里ちゃんは大きく首を縦に振って相槌をしてくれた。
黒縁眼鏡の奥から覗く瞳を優しく細める。
「ねぇねぇ二人してなに話してるのー」
そこにやって来たのは親友の千夏ちゃん。
どうやら珍しい取り合わせに釣られて来たらしい。
「うん。実はね美里ちゃんも〈WOL〉やってるんだって」
「えっマジ!?私もやってるよ。愛佳と同じギルドでさ」
「お二人は同じギルドなんですか。私もギルドに入っているんですよ。それが楽しくて今日と深夜まで。ふわぁー眠たい」
美里ちゃんは大きな欠伸をした。
それにしても私達って、リオナさん達のギルド以外との交流ないような気がする。
「ねえ美里ちゃん。今度美里ちゃんのギルド紹介してよ」
「えっ、いいよ」
「やった。ねえ千夏ちゃん美里ちゃんのギルドってどんな感じかな?」
「さあねー」
とりあえずするっと約束してくれた。でもいいのだろうか。
「にしてもそんな簡単に決めちゃってよかったのかな?」
「ウチは大丈夫だよ。イズチさんもノリが軽いから」
「イズチさん?」
「うん。ウチのギルド、『雷聖』のギルマスだよ」
美里ちゃんは笑顔で答えた。
『さんだら』がどんな字なのかは知らないけど、何だかヤンキー漫画とかに出て来そうなチーム?の名前みたいで少し怖かった。偏見だけど。
だけど私はその内知ることとなる。このギルドのギルマスを始めとしてその空気感の軽さをいずれーー




