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■131 夏の終わりに(一年生)

ここ、かなり重要回。

皆さん、この狐のお面の人誰かわかりますよね。そう言うことです。

 私達は夏祭りを後にした。

 人混みを避け屋台の道を潜り抜け会場の広場を出ると近くの神社に向かった。そう提案したのは刀香ちゃんと大河ちゃんで残った私達はぽかんとしていた。しかし考えてみればこんなこんなところじゃ綺麗に花火は見れない。そう言った配慮なのだと瞬間的に理解した。


「それで刀香ちゃん、今私達ってどこに向かって歩いてるの?」

「この先に神社があるんです。いわゆる穴場なんですよ」


 刀香ちゃんが優しく微笑む。

 それぞれが重たい景品を抱えて先を行く刀香ちゃんと大河ちゃんの後を追うのだが、その脇では未だに何かを口の中に頬張りがら付いていく千夏ちゃんの姿が飛び込んできた。


「んむ?どうしたのさ愛佳。私の顔になんか付いてる?」

「ううんそうじゃないけど……千夏ちゃんいつもより食べてるよね?」

「ああそう言えばそうかも。うーん、大河の作ってくれるご飯が美味しいからかなー?」

「それってゲームの?」

「うん。不思議だよねー」


 確かに不思議だ。ゲームの中の影響が現実に出ているのかな。それって結構危ないんじゃと思うけど、それを否定するのはノースだった。


「いやその線は薄いだろ」

「どうして?」

「ネットの掲示板には少なくともそれに付随するような例は書かれていない。症状を自覚していないかはたまた症状を自覚してはいるもののそれを書き込まないのか。どちらにせよ、ゲームをプレイしている大多数の人間が書き込む最大手の掲示板サイトにそう言った書き込むが一切見当たらないのは、流石にありえないからな」

「あり得ないのかな?」

「管理者がブロックしていると言う可能性もなくはないが、それを抜きにしても穴をついてこないとも思えない。なら消去法で“ない”を信じるしかないだろうな。だがそれを否定することもできない。それが個人のメディアリテラシーに通ずるものだからな」


 なんだか簡単な話を小難しくしてる感が否めないけど、とにかく千夏ちゃんの不信感とノースの多数の声を兼ね合わせてもいっぱいいっぱい難しく考えてみる性格の私には結局わからなかった。

 だからとりあえず一旦その話は置いておいてーー


「そんなことより今はこの急階段を上らないとね!」

「あ、ああ」


 息を乱すノース。それもそのはずで昔の神社やお寺にお馴染みのかなりの急階段で、しかも結構幅も狭い。

 私達はお互いに距離を取り合って階段を素早く上る。それもそのはずで後10分もしない内に花火が上がるからだった。


「さあさあ早く早く。刀香達もう行っちゃったよー!」

「ごめん。行こ、ノース」

「そのつもりだ。だが少し待て。私の荷物が一番重いんだからな」

「それはノースのせいでしょ。私だってゲーム機重いの!」

「ほらほら早く早く!」


 そんなしょうもない口論を続ける私とノース。こんなちっちゃな話題で持ち越しになれる私達はかなり仲が良かった。

 だけどこの話題をこれ以上引っ張るのは予想と言葉に出さずとも共感しあった。何故なら千夏ちゃんの方が持っている荷物の量も重さも圧倒的だったからだった。


「千夏の体力はどうなってるんだ」

「うーん。無尽蔵かな?」

「お前もそう思うか」

「うん。付き合い長いもん」


 短いやり取りの中に意見の合致が集約する。


「ほらほら早く早く!なんなら私が持とうか?」


 そんな風に急かす千夏ちゃん。

 でも彼女に持ってもらおうとは少なくとも思わなかった。ただでさえたくさん荷物を運ぶ姿と、私達の荷物も大半を千夏ちゃんが運んでいたので忍びなかったのだ。



「はぁはぁ。着いたー!」


 結構上った。下から見上げてみた時にはそんなに高くないと思っていたけど、階段の段が思った以上に高くて結構いっぱいだったのでかなり疲れた。これを何十回も繰り返してたらきっと私やノースはダウンしちゃうだろう。けれど千夏ちゃんを始めとした刀香ちゃんと大河ちゃんもまるで平気そうだった。


「はぁはぁ。体力お化けが」

「あはは。ちょっとわかるよ」


 膝に手をつくノース。真横には取った景品をドンと置き、スマホを取り出して時間を確認すると後5分近くあった。

 しかし神社の境内には先に上がっていたはずの二人の姿はなく、千夏ちゃんが辺りをぐるりと見回していた。


「あれー?二人どこ行ったんだろ」

「いないの?」

「うん」


 それは結構困る。神社の境内に辿り着いても、辺りは木々に囲まれていて少なくともさっきいた場所の方が花火を見るにはだいぶん良い。


「骨折り損のくたびれ儲けか。はぁー」

「いやいやまだそうと決まったわけじゃないよ!」

「そんなことはわかっている。とにかく探すぞ。おそらく二人一緒に行動しているだろうが、このままだと本当にそうなる」

「それもそうだよね!」

「張り切らなくてもいいだろ。神隠しでもないんだ」

「いきなりファンタジーなこと言うねー」

「ここは妙に暗い。差し込む光も月のものしかないが、円形状に広がる構造のこの木々達によって現時刻だと月の光が届かないからな」


 そう言うとスマホのライトを点けた。

 辺りがぼんやりと照らされてこの場所が相当広いことがわかる。立派な神社の本殿。他とは一線を隠すかのような特別感が染み渡る。

 手入れもされていて落ち葉の一つも見当たらない。まるでこの場所だけが、他と切り離されているかのように錯覚してしまった。


「不思議な場所だね」

「確かにな。夏だと言うのに暑さ寒さを一切感じない」

「それもだけど、この雰囲気とかね」

「確かにねー。それに見てよアレ。すっごく赤い鳥居」


 千夏ちゃんが指差した鳥居。確かに赤々としている。と言うよりかはむしろ朱い。それを見ていると、不意に私の中で無意識にリンクさせたのはあの鳥居。桜蘭郷だった。


「似てるかも」

「「なにが?」」

「あっ、うん。ちょっと〈WOL〉のね」


 厳密に言えば少し違うけど、何処となく雰囲気が似ていた。

 私はまだ桜蘭郷に二回しか行ったことがないからこんな場所があるのかはわかんないけど、少なくともそのことを思い起こすと一層似ている気がしてならなかった。


「でもでもそんなことより!」

「ああ。二人を早く見つけないとな。こうしている間にも3分が経っている。急ぐぞ」

「でもどこに行くの?」

「それは……」


 ノースが黙り込む。感覚的にもこっちなのかあっちなのか私にもよくわからない。いつもの勘が冴え渡らない。でもそれじゃあ私が運と勘だけで生きてるみたいでちょっとやだな。

 なんてこと考えながら三人して行き詰まり、困りあぐねている状況となった。そんな折だった。


「なにかお困りですか?」


 私達三人は硬直した。

 その声を聞いてサッと振り向くと、そこには何かある。ゆっくりノースがスマホのライトを近づけると人影のように浮かび上がった。と言うかそこにいたのは紛れもなく人だった。


「誰だ」


 ノースが力のこもった強い口調をぶつける。しかし尋ねられた方はそのことに一切動じない。むしろそれを好意的に受け止めてこう返した。


「私がなに者であるか。それに意味はありません。今はどうでもいいことではないですか」

「えー。なんか冷めてる」

「千夏ちゃん失礼だよ」

「あっ、しまった!」


 ついつい口を滑らす千夏ちゃん。しかし声の主。声したからして女性は怒りの色を一切見せずに何でもないと言った具合に言葉を続ける。


「貴女達は……」

「あの私達友達とはぐれちゃって。女の子二人見かけませんでしたか?」


 私は早速尋ねた。すると女性は考える仕草を見せると異常に早く返した。まるで用意していたみたいだ。


「ええ見かけましたよ。あちらの方に行かれました。なんでも花火をご友人の方々と見ると」

「そうだったんですか。ありがとうございます。二人とも行こ!」


 私はノースの千夏ちゃんに伝えた。二人の腕を取り、早速向かおうとするのだが、ノースは私の腕を思いっきり引き離した。


「待て。何故そのようなことをご存知で」

「そう硬らないのでください。貴女はもっと気兼ねなく話した方が思った言葉が出るのでしょう」

「なっ!?」


 ノースは意表をつかれて目を見開く。でもさっきノースは思いっきりタメ口だったし、それに初対面の相手に向かってノースらしくもなく口調を即座に崩していたのもある。そう思われるのも無理はないかもだけど、確かに反応が早すぎる。


「なんだか変わった人みたいだね」

「貴女も余裕がなさそうですよ」

「。」


 千夏ちゃんが完全に黙った。

 頭の上に置いていた腕をだらんと垂らすと相貌を鋭くする。


「は、二人とも落ち着いて。多分この人はそんな怪しい人じゃ……」

「根拠のない希望に(すが)る……はたまたそれは確実と言える答えに到達するための先導(いし)の現れか……」

「?」

「小難しいことを言うのはよしましょう。でも貴女はそれでいい」

「なにが言いたい」


 痺れを切らして口を挟んだノース。もう花火のこととか刀香ちゃん達のこととか頭にないみたいだ。それはちょっと本筋から離れちゃうよ。


「いい加減姿を見せたらどうだ。お前は誰だ」

「私がなに者であるか。そんなことは今は(・・)どうでもいいのです。私は単なる独り言の語り部。それ以上でもそれ以下でもない。少なくとも今は……ですので貴女方にも」


 そう口ずさみながらゆっくりと近づいてくる。

 着物を着ている?綺麗な淡い白だ。だけどそれ以上に目を引くのはその顔。狐のお面を深く被り一切表情を明かさない。


「今は私の言葉など必要ないのですから」


 そう呟くのだ。

 その瞬間遠くの方で光が散った。山のように高い木々に阻まれ見ることができないが、アレは確実に花火だ。小さくて仄かな閃光が泡のように飛び散る。しかしその面影すら私達は見ることはなかった。

 不思議な女性。狐のお面を被った怪しく妖艶な彼女に魅せられて、私達の夏は不思議と終わってしまった。

 そしてこの日のことはーー

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