■13 武闘派エルフ
3話ずつ書いてます。
千夏ちゃんは早速街の探索から始めた。
それでも少し情報が集まると一緒に街の外に出た。
「そう言えば千夏ちゃんの武器って剣だよね?何で、二本も装備してるの?」
私はつい疑問に思ったので聞いてみた。
千夏ちゃんの左右の腰にはそれぞれ剣が携えてある。
普通一本のはずなのにと疑問に思う私に、千夏ちゃんは真っ赤な髪を揺らした。緑色の目を私にかざして答える。
「だって二刀流ってかっこいいでしょ!」
「そ、それだけ?」
「剣一本よりも手数多いし、攻撃も防御にも使えるからね。そのためにはやっぱり二本持ちの方が効果的なーって。私も色々考えたんだよね」
「何だがちなっちらしい」
私は溜息を吐くかのように同意する。
けど一つ気になった。
「でも二刀流って難しいって聞くよ?素人にできるのかな?」
「うーんどうだろ。そこまでは考えてないよ」
「そうなの?」
「うん」
街で誰一人として剣を二本も装備している人はいなかった。
何でもリアルでもゲームでも二刀流は難しいらしい。だから自分から積極的に二刀流を志そうとするプレイヤーはいないとのことだ。
「街でも見かけなかったし、止めたら?」
「止めないよ。だってせっかく買ったんだよ?もったいないじゃん」
「でも」
「それにゲームなんだし何でもやってみないと面白くないっしょ!加えて、マナもいるしね」
「私?」
「うん。だってマナ、このゲームだと私よりちょびっとだけ先輩でしょ?」
そう言われると照れてしまう。
私はこめかみを掻きながら、ヘラヘラ笑った。
「そ、そっかなー」
「そっ。だから期待してるよ」
「期待してるって?」
「どれぐらい強くなったのかなーって」
「何さまなの!」
私はちょっとだけ怒鳴った。
するとちなっちは愉快そうに笑う。
「まあちなっちの身体能力なら何にも気にしてないけど……」
「そうだよ。だから心配要らないって。ほらほら、早く行こ」
そう言うと私の背中を押すちなっち。
赤く燃えるような髪が揺蕩う。
このゲームではVRドライブが装着者の身体能力などの機能をそのまま流用する形で反映されている。
だからリアルでの反射神経とか潜在能力、身体能力が如実に現れる仕組みになっていた。つまりサボってゲームばっかりしてたら一向に強くなれないのだ。
(まあ勝つことだけがゲームじゃないけどね)
軽く現実味を帯びさせてみた。
私とちなっちは洞窟に辿り着いた。
結構大きな洞窟だ。それが一目で分かるぐらい、洞窟の入り口も広く岩肌に面していた。
「ここが洞窟みたいだけど……」
「行ってみる?」
「ちなっちが行きたいって言ったんだよ」
「それもそっか。じゃあ行こ行こ!」
そう言うとちなっちは洞窟の中に入った。
威勢がいい。しかも全く動じていない。ヘラヘラした態度だけどそこがまたいい。だからちなっちはリアルでも人気者で、誰からも疎まれることがないのだ。
頼りになるけど一度決めたら自分の意思を曲げない。強引なところもあるけれど、皆んながそれを承知の上で彼女を慕っているのだ。
私もそんなちなっちこと千夏ちゃんのことが少しかっこいいなって思ってしまう。
「ほらー!は、や、く!!」
「はいはい」
私は呆れ顔でちなっちの背中を追った。
いや背中じゃなくて隣に立った。
洞窟の中はめちゃくちゃ暗かった。
一応前の経験から火を持って来ていたので、油で浸した布を木の枝に巻きつけ、それに点火する。
するとボワァーっと炎が立ち上がる。
その灯りを目印に、私達は進んだ。
「それでも暗いな」
「だなー」
洞窟の中は特に何もなかった。
ただちょっと広い作りで、しかも一本道なのが気になる。私とちなっちは共にお互いを守りながら進んだ。
そして一番奥まであと少しと言うところまでさくさくっと来てしまった。
「この先の広い所を抜けたら終わりみたいだよ」
「そうだね」
「もう行っちゃう?」
「ちょっと待ってマナ。この先多分ボス戦がある」
「ボス戦?」
私はちなっちに聞いた。
ボス戦って何だろと。
「ボス戦ってなに?」
「ボス戦って言うのはそのままの位置。そのステージの一番強い敵が現れて戦うってこと」
「こ、怖いね」
「うん、怖いよ。でもだから楽しいけどね!」
「でも強いんでしょ?」
「たまに見掛け倒しの敵キャラもいるけど、基本的に強いね。レベル上げとかしてなかったら多分無理ゲー」
「そうなの?」
「いや一応できなくはないけど、難しくはなるよ」
そう答えるちなっち。
私達は少し考えて今日はここまでにすることにして、恫喝を引き返した。
理由は単純で、まだちなっちのレベルが1だからだ。こんな状態で、しかも装備も貧弱この上ないような状態では流石に分が悪いと思ったからだった。
「と言うわけで、ここからレベル上げってことで」
「レベル上げなら付き合うよ」
「サンキュー。さっすが、持つべきものは親友!」
「ここで親友設定はいいよ」
私は照れ臭かったので少しはぐらかした。
流石にちなっちからまじまじとそんな言い方をされると照れる。友達から言われるのってやっぱり歯痒い。それは他人が言っても同じだけど、私は頬を赤らめた。(百合とかレズではないからね)
「じゃあどこに行く?」
「うーん。とりあえずこの辺り一帯でレベル上げかな。最低でも10は欲しいかも」
「そうだね。私もレベル上げ頑張るよ」
「よーし、じゃあ出発進行ってことでレッツゴー!」
「オー!」
私はちなっちのノリに合わせて右腕を高らかに突き上げた。
かくしてここからレベル上げパートに入るのだった。




