■125 虫を捕りに行こう!②(ゲーム編)
ここ最近、ため息が出る。
スノーに急かされるまま、私とKatanaは森の奥の方までやって来ていた。
そこはさっきの場所よりも明らかに暗く、ランタンの灯りがなかったらまるで見えない。
「結構奥までやって来ちゃったけど、これじゃあ見えないね」
「そうですね。もう少しランタンの灯りを掲げてみてはどうでしょうか?」
私は軽く頷くと言われた通り、少しランタンを高く掲げてみた。
すると木の樹皮がしっかりと窺えた。周りが暗いせいか、仄かに明るく見えるだけだけど。
(結構暗い。本当に見つかるのかな?)
流石に暗すぎて見つけられないかもしれないと意気消沈してしまう。そんな時だった。
突然背後から感じる気配に若干の寒気を感じた。
振り返ればKatanaの様子がおかしい。
体ががくぶる状態で、自然と携えた刀の柄に手が触れていた。
「Katana?」
「マナさん。いますよ」
「います」と言われても何がいるのかわからない。
だけどこの反応は只事ではないのは理解出来た。そしてこのとんでもないKatanaの震え。それは明らかにモンスターと対峙した時のKatanaの様子とは比べ物にならなかった。
「ってことはもしかして……あっ!」
「ひいっ!」
私は愛抜けたような声を上げるのに対して、Katanaは一歩後ろに下がった。
私の視界の先。その木の樹皮に何かがさがさとゆっくりと動く影があった。それはそこまで大きくはないが、昆虫にしてはそこそこ大きい部類だった。ちょっと気持ち悪い。
「マ、マナさん。あ、アレは……」
「うん。探してたカブトムシだよ。お手柄だね、Katana」
「い、いえそれほどでも。で、ですが、その、あの、その……」
「わかってるよ。私が捕るからちょっと待ってね」
そう言って私が気に近づこうとした時だった。
急に私のコートをKatanaがぎゅっと摘んできた。
「ま、ま、ま、待ってください」
「落ち着いて。どうしたの?」
「そ、その。わ、私もなにかお手伝いをと」
「えっ?」
如何やらKatanaは自分が情けないことに申し訳なさを感じている様子だ。
そんなこと考えなくていいのにね。
「うーん。じゃあそっちに飛んでかないように見張っててほしいな」
「と、飛ぶ!?」
「そりゃ飛ぶよ。生きてるんだもん」
「は、はい」
Katanaは引き攣った表情を浮かべながらも、首を縦に振った。
「じゃあちょっと待ってて」
網が楽なんだけどそんなものは持って来てない。
だから普通に手掴みで捕ることになる。
「そう言えばこの後も……」
私が手を伸ばしたその時だった。
急にターコイズアイズジュエルオオカブトムシだったっけ?それが羽を広げて羽音を立てる。
「うわぁ!?」
驚いた私は地面に尻餅をついた。
と、思ったのも矢先。タコスは急速にKatanaに向かって飛んで行った。
「Katanaそっち行ったよ!」
「えっ、あ、は、ふぇっ!?」
首を左右に振り振りするKatana。
それでも羽音を頼りに探し当てようとするが、手はがくぶるでまともに言うことを聞きそうになかった。
「落ち着いてKatana!」
「し、し、しかし!」
「大丈夫。殺さないように打ち落とせばいいんだよ!」
「はあっ!?」
その言葉を聞くや否やKatanaの動きが変わった。
しっかりと刀の柄を握り直すと、そのまま居合の構えになる。ランタンの灯りでかすかに見えたそれはカブトムシが自分に近づくと、反射的に抜刀していた。
カチャ。刀を鞘に仕舞、納刀する音がした。
それに合わせてカブトムシの羽音はたちまち止んだ。
「す、凄い……」
それしか言葉が出なかった。
Katanaには見えていなかったはず。それを僅かな羽音だけで感知し、的確に斬ったのだ。
しかもカブトムシは死んでいない。気絶っていうのかな?地面に転がっていた。
「はぁはぁはぁはぁ」
「やったねKatana!」
私はハイタッチしようと近づいた。
しかし当の本人からは額、それから顳顬と尋常じゃないほど汗が滴る。しかもそれは冷や汗だった。
「凄い汗だね」
「はぁはぁはぁはぁ。な、なんとかなりました。マナさんのおかげです」
「そんことないよ。全部Katanaのおかげだって。ほんとお手柄だね!」
私はぎゅっと拳を作った。
ここに来る前にKatanaが言っていたことを思い出してそれを逆手に取ってみた。「打ち落とす」それをキーワードにここまで上手くいったのは単なる偶然だけど、それでも改めて今日一日だけでもKatanaの実力がずば抜けていることが知れた。
「ほんとに死んでない……」
私はカブトムシを拾い上げると、脚がぴくついていた。
とりあえず拾ったそれを虫かごの中に入れると、インベントリに戻す。脅威が去ったことを目の前で認知したKatanaもか細く息を整える。
「じゃあ後は皆んなに報告しよっか」
「これで、やっと帰れるんですね。よかったです」
「うんうん。これもぜーんぶ、Katanaのおかげだよ。ありがと」
「いえ、マナさんが言ってくれた言葉のおかげです。私一人でしたら刀は抜けませんでした」
Katanaは自分に落胆する。
だけどそんな彼女の肩を私は思いっきり叩くと、こう言っていた。
「一人よりも皆んなとの方が私も好きだよ。ねっ!」
「マナさん」
「さっ早く帰ろ。Katanaもこんなとこ居たくないでしょ?」
「はい!」
今日一元気な「はい」を呟くKatana。
そんな彼女は帰り際も、私の服の袖を掴んでいるのでした。ちょっと可愛い。




