■124 虫を捕りに行こう!①(ゲーム編)
今回はKatanaの回です。
てなわけで、私達は〈ミヤビ〉から程近い森に来ていました。
深く真っ暗な森の中にはうっすらとランタンの灯りだけが映し出してくれた。
「ミヤビって森多いよね」
「いやいやリムルトも多かったでしょ」
「それはそうなんだけどね。こう、日本っぽい杉や檜がね」
ここ〈薄ら瞑〉はランタンの灯りがないと真っ暗になっちゃう。だからこそこうして私達はお団子みたいに固まって行動していた。
だけどその中で一人だけがくぶる状態の子が一人……
「Katana?」
「は、はい!なんでしょうか、マナさん」
明らかに様子がおかしい。
おまけに薄ら明かりでもわかるが、顔も青ざめている。
「どうしたの?さっきから元気ないよ」
「げ、元気はありますよ」
「そうだよね。じゃあ言い方変える。もしかして暗いの苦手?」
「い、いえ……そう言うわけでは、ないのですが……」
Katanaは顔を背けた。顔を見せないようにしているみたいな節だ。
私は首を傾げてしまう。暗いのが駄目じゃないんだとしたらもしかして……
「虫とか駄目」
「ううっ!?」
ビクン!とKatanaの肩が跳ね上がった。
如何やら当たりらしい。それにしてもこんなに素直で流されやすいKatana、今まで見たことない。
中身は変わってない。Katanaのままだ。
このゲーム、と言うかあのVRドライブ自体に他人が他の人のアカウントを乗っ取ったり、入ったりは出来ないシステムになっている。だからこれがKatanaの性格なんだ。
「実は……」
「そうなんだ」
「はい。昔から虫は苦手で。近づくのですら嫌な程でして……」
「へぇー。じゃあ部屋にアレが出たらどうするの?」
「叩き斬ります」
「ん?」
今、何か言葉に棘があるって言うかちょっと変ないい文句聞こえて来たよね?気のせいかな。
「えっ、katana。今なんって?」
「塵一つ残らない程に叩き斬ります」
「ああ。うん。そっか、そっかそっか。Katanaならできそうだよね」
目が本気だった。ちょっと怖い。
それにKatanaが言うと現実味がある。何たって、人間離れしていると言うか人間じゃありえないような動きを平然とやってのけちゃうんだもん。ちなっちもスノーもタイガーだってそうだ。“人間離れしてる”としか表現のしようがなかった。
「ま、まあいいや。それよりスノー!」
「なんだ」
「その例のなんだっけ?ターコイズ……」
「ターコイズアイズジュエルアトランティスオオカブトムシだ」
「そうそれ。そのカブトムシ」
名前が長くて言い難い。
「略してタコスってことでよくない?」
「じゃあそのタコスはどこにいるの?まだかかりそう?」
「いや、もうすぐのはずだ。そもそもこの辺り一帯ならいつ出て来てもおかしくはないだろうな」
スノーがそう口にした途端、急に空気が変わったような気がした。
何かいる。そんな気がしてならなかった。それは誰よりも一番にKatanaが感じていて、身震いがとんでもなかった。
「katana?」
「い、い、いい、います!」
「いる?ま、まさかそのカブトムシっておっきいの!」
それは流石にキモいし怖い。
だけど私の【気配察知】のスキルにそんな気配は引っかからない。ましてや一番【気配察知】が得意なkatanaがこのスキルについて何も言わないのは不自然だった。
「ん?なら少し見てみるか」
そう言ってスノーはランタンを高く掲げた。
何をするのだろうと見ていると、光を木の幹に近づけては何かを探している。何だか普通だ。
「スノー、なにしてるの?」
「決まってるだろ。カブトムシを探しているんだ」
「「「えっ!?」」」
三人が見事にハモった。
まさかとは思うけど、こんなに地味な作業な訳ないよね?これってリアルのやり方と変わらないよね。もしかしてそうなのかもね。
「私達も探そうよ」
「OK!それでそれでスノー」
「なんだ」
「そのタコスってどんな感じ?何か特徴とかあるの?」
ちなっちはそう尋ねた。
スノーはすらすらその質問に答えてしまう。
「瞳の色がターコイズ色。さらに羽根には光沢のある青で、角は三本だ」
「OKOK!じゃあ私は向こう探してくるから」
「じゃあ俺はあっちに行くぜ」
そう言ってちなっちとタイガーは先に行ってしまう。二人ともまさに強いみたいだ。
「気をつけてね」
「わかってるよー!」
「おう!」
やまびこのようにすぐに返ってくる。
「じゃあ私も……」
その瞬間、チラッと視線を移すと固まったまま不安そうなKatanaの姿が目に飛び込んでくる。
役に立っていない自分が不甲斐ないとか思ってそうな顔だ。
「大丈夫だよKatana」
「えっ?」
「向こうの方行ってみよっか」
「あのマナさん!」
私が行こうとするとKatanaは呼び止めた。
振り返り私はKatanaを見つめる。
「なに?」
間の抜けた感じに尋ねる。
するとKatanaは勢いよく頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
「な、なにが?」
「今回の私はこんなにも不甲斐ないですが、どうか」
「ああそんなことか。いいよいいよ気にしなくて。それだったら私なんていっつもだもん」
「では……」
「ほらほら早く行こ!」
私はKatanaの手を掴んだ。
ぷるぷると頼りなく震えている手をギュッと握って震えを止める。
「おいお前達早く行け!」
「はーい!」
急かすスノー。
それに押されるように私はKatanaを連れて森の奥に向かったのだった。
土曜日がかなりしんどくなりました。辛いー。




