■123 ちょっとした約束
今回はちょっと短めのお話。
刀香ちゃんの家に行った日の夜。
私達はいつも通り〈WOL〉にログインしていた。
「ふわぁー。暇だねー」
「うん。暇だよね」
机に突っ伏せるちなっちがそんなだらしない声を上げたので同意した。それもそのはず、今日はあんな激しい立会いを間近で見ていたのだ。興奮もさめやらない。
しかしその反面、直接対峙した本人は妙に落ち着いていて清々しい。
「katana?」
「なんでしょうかマナさん」
「いやーなんだか落ち着いてるね」
「そうでしょうか?いつも通りのはずなのですが」
Katanaは愛刀を手入れしながら優しく答える。
凛とした立ち振る舞い。昼間に注力した静かな水の流れに降り立った刀みたいな鋭さはなく、清流を浴びて優しく咲き誇る花。そんな比喩表現が何とも似合う雰囲気だった。
「まあいいじゃねえか。ほら、食えよ」
そこに戻ってきたのはキッチンの方から戻って来たタイガーだっ。
タイガーは皿を机の上に置く。たっくさんのクッキーが鎮座していた。
「うわぁ!タイガーの手作り?」
「まあな」
「おっクッキーだー!いいねー」
「おいおい慌てて食べんなよ。いくらゲーム内でも腹が減るからってな、リアルでの食事とは違うんだよ」
所々素に戻る情緒不安定のタイガー。
まあそれもそのはずで、タイガーの忠告も聞かずちなっちは一生懸命にクッキーを頬張っていた。
「どうだ?」
「美味い美味い!って、ぐはぁっ!」
「ああ水々!」
言わんこっちゃない。早速ちなっちは喉を詰め、私はお水を渡す。
勢いよく飲み干したちなっちはぜぇぜえと息を荒げた。
「大丈夫?」
「う、うん。まあねー。それより助かったよ」
「いやそれはいいんだけど……」
まあいつも通りのちなっちの姿に安堵しながらも私は確かにちょっぴり暇だと感じていた。
皆んなとこうしてお喋りするのは楽しいし、こうやってまったり過ごすのも悪くない。むしろいいぐらいだ。だけど何となくあの光景を思い返してしまうと、今日一日はちょっぴり退屈だった。
と、そんな私に肩を当ててくるのはちなっちだ。
「マナ。今日の夜、神社に集合ねー」
「えっ!?な、なんで?」
「いいからいいから。ほら、この時期って言ったらアレでしょ。アレまだやってないよね」
「アレ?うーん、あっ、アレ」
「そうそうアレ」
私は思考を巡らせた。
確かにこの時期となるとそろそろあの季節だ。ってことはちなっちの性格からしてアレをしそうなのだが、そんな折少し遅れてやって来たのはもちろんスノーだ。
「悪い、遅くなった」
「大丈夫だよスノー。それより今日はどうしたの?」
いつもならスノーが早くに来ているはずだ。
なのに今日は少し遅い。遅いと言ってもせいぜい30分程度なんだけどね。
「ああ……」
「もしかしてなにかあったの?」
「いや違うな。まあなくはないんだが……」
「ん?」
「面倒なピアノのレッスンに付き合わされていただけだ。はぁー、辞めたい」
スノーは面倒くさそうに溜息を吐く。大きな溜息だ。それは空気的に伝染し、私達は顔を見合わせた。
ピアノかー。そう言えばスノーってピアノ弾くんだ。いいなー。楽器の一つでも出来たらきっとカッコいいよね。
「スノーはピアノ好き?私聴いてみたいなー」
「あっ私もー!」
ちなっちもすぐに乗っかった。
しかしスノーの反応はまずまずで……
「ピアノは嫌いじゃないが好きでもない。たがそうだな、そのうち聴かせてやる」
「えっいいの!?」
「私はプロじゃないんだ。調子さえ合えば問題はない」
「いいですねピアノ。私と聴いてみたいです」
「あっ私も!」
なんだか今日のスノーはいつもよりも素直だ。いやいつもがそうじゃないってわけでもないんだけど妙に生き生きしている。
それからスノーが私達に言ったのは今日の予定だ。わざわざ夜のタイミングなのにもきっと意味がある。
「今日は少し風変わりな依頼だ」
「依頼?どんな」
「コレだ」
そう言って私達に見せてくれてのは一枚の紙。
そこに書かれていたのはたったの一文のみ。
「『ターコイズアイズジュエルアトランティスオオカブトムシを捕まえて』はい?だか長いよね、名前!」
聞き慣れない多分虫の名前だった。そんな昆虫がいるんだろう。
首を傾げてポカンとしている私達の隣で一人Katanaだけが身震いしていた。その様子はリアルで出会った彼女の風格はどこへや、顔は青ざめがくがくぶるぶるしていた。
今、いつもとよりも少し長めの話を書いてるから出来るだけ短い話を書いて投稿頻度上げれたらいいと思ってます。




