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■122 三兄妹(さんきょうだい)

龍蒼寺編、とりあえず完。

 気づけば刀香ちゃんと灯刃さんとの勝負は刀香ちゃんの勝利で決着がついていた。

 流れるような攻防一体に目を奪われていたのも束の間、終わってみればあっさりで床に崩れ落ちる灯刃さんと依然として余裕そうな素振りを見せる刀香ちゃん。その光景を目の当たりにしてみれば明らかな差があったけど、この場にいた灯刃さんの実力と気迫には手を鳴らす程見事だった。


「俺の負けか」

「はい。そして私の勝ちです、兄上」


 清々しいまでのことをさらっと口にする刀香ちゃん。

 結構くるものがあるけれど、灯刃さんはまだ諦めがついていない様子だ。


「これでわかっただろ。やっぱりお前には才能があるんだよ。なぁ、剣を継ぐ気は本当にないのか」

「ありませんよ」

「俺を負かしておいてか。今の刀香なら親父にだって」

「勝ちましたよ。もう既に。でも、なにも変わらなかったんです。そしてそのことは父上も認めておいでです」


 あれあれ?結構灯刃さんの心にぐさっと来る言葉を淡々と呟いてはないですかね。

 お父さんを倒したってことは、いわゆる家系の長。龍蒼寺の剣の継承者を負かしたということにならない?じゃあ実質的には……


(刀香ちゃんは最強なんだ……)


 私が納得していると灯刃さんの言葉が荒くなる。


「親父を倒したのか。いつ」

「高校に入学する前です。私の夢と決心を伝えるために剣を交え、そして私が勝ちました。その時、父上はこう仰っていたんです」

「なんだよ」

「刀香、“お前は一族の中で過去最強の剣士だ”と。それから“剣を継がないのも一つの道、それが答えならそれを貫けばいい”とも」

「なんだって!?」


 灯刃さんの顔色が青くなる。

 そんなやり取りがあったなんて、つゆ知らない顔だ。

 だけど刀香ちゃんからは嘘をついてる様子もないし、灯刃さん自身自分の妹が都合の良いことを言っているようには思っていないみたいだ。


「ですから私はこう申しました。“兄上こそ相応しい”と」

「はあっ!?」

「そう進言するとともに父上も頷かれていました。“まだ未熟だが、私も二十年かかったのだから致し方ない”と」

「親父が、俺を……」


 いやいや今の言葉にも引っかかるところがあるよ。

 刀香のお父さんが二十年(・・・)かかったことを刀香ちゃんはこの歳でマスターしちゃったんだよね?それって普通じゃないよ。


「どうしてそのことを今まで黙っていた」

「聞かれなかったので」

「聞かれなかったからって、そりゃないぜ」

「そうですね。私も友人の前では随分と素直になれるのでこのピリピリとした緊張感がどうにも……」


 終わったことみたいな締めの雰囲気が漂い始めていた。

 そんな中、和解を迎えるとともに道場に別の声が響いた。


「あれ、お兄ちゃんお姉ちゃん。それからお客様?」


 振り返るとそこには竹刀袋を肩から下げている可愛らしい女の子が立っていた。

 学校帰りなのか、制服姿だ。この辺りの中学のものだろう。って、お兄ちゃん?


「鍔音帰ったのか」

「うん。それよりここでなにしてたの?」

「少し立会いをしていたんですよ。久しぶりに兄上と」

「えーずるーい!私もお姉ちゃんとやりたい!」


 さっき話していた鍔音ちゃんと言う子は随分と剣が大好きなみたいだ。しかも普段から道場に足を運ばないっぽい発言を繰り返す刀香ちゃんには妙な食いつきを見せた。

 見れば私達がいることなんてお構いなしに刀香ちゃんに抱きついている。可愛い。


「鍔音、私の友達が来ているんです。自己紹介ぐらいしてみませんか?」

「お姉ちゃんの友達!」


 その言葉にピコンと固められていたアホ毛を立たせる鍔音ちゃん。

 背後の私達に気がつくと丁寧なお辞儀をした。


「初めまして。龍蒼寺鍔音と言います。中学三年生です。部活は剣道部に所属しています」

「こんにちは私は神藤愛佳。それから……」


 いつも通り軽く自己紹介を挟む。

 それから話を聞く限りでは鍔音ちゃんは県内でも有数の実力者らしく、その上かなり剣が好きらしい。

 ただ刀香ちゃんには全く敵わず、憧れを抱いている節が窺える。

 それから普段からこんなにもハイテンションなキャラってわけじゃなくて、今日は特別で久しぶりに刀香ちゃんが道場に顔を出したのが嬉しかったからみたいだ。

 何はともあれ、何だかんだでいい兄妹って感じで見ていてほっこりしてしまうのだった。

 

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