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■12 親友

2本目。

 さてさて今日からいよいよ本格始動。

 千夏ちゃんが〈WOL〉にやって来る日だ。

 ここ二週間近くで私もかなり成長した。成長と言うよりも単なる慣れかもしれないけど、少しは先輩みたいな扱いを受けてもいいなと勝手な妄想を働かせる。


「どんな感じなんだろ、千夏ちゃん」


 ちょっと楽しみにしつつ、私は〈WOL〉にログインした。



 時間的に〈ライフ〉は昼間だった。

 私はとりあえず私が初めてやって来た時と同じように広場で待ってみることにした。

 千夏ちゃん曰くあんまりいじらないようにしてるみたいだからきっとすぐわかると思う。って言うかいじりすぎてもリアルとの齟齬(そご)が生じるとのことで、そんなにいじれない仕組みらしい。

 と、私は軽く時間を潰しながら待っていることにした。


「うーん。私のレベル、今は10かー。スキルも増えてないし、魔法も覚えてないんだー」


 改めて自分のステータスを確認してみて色々思った。

 私はかなりバランス良く平凡かつ平均的に上がっている。ほとんど大差ないのだ。


「でも千夏ちゃんよりは先輩だよね。ほんのちょっとだけど……」


 普通にPCとかデジタルなことに関しては全然分からない。

 ちんぷんかんぷんで、覚えたことはテキパキ出来るけど、それ以外だとあたふたしてしまう。でもゲーム中、特に最初の時はアドレナリンがどぱどぱ出たみたいに熱くなってたことを思い出した。

 はにかむように笑い、私は腰に携えた剣を優しく撫でる。


「でもホントこの子のおかげだよね。ありがと、〈麒麟の星雫(スター・ドロップ)〉」


 そう呟くと〈麒麟の星雫〉の彫りがちょっとだけ煌めいた。

 まるで「どういたしまして」とか「こちらこそ」みたいに返事をくれたみたいな反応だ。そう思ったのは丁度ベストタイミングで光ったからだが、そう思った方が面白かったのもある。


「早くこないかなー、千夏ちゃん」


 私は空を見上げて呟いた。

 綺麗な青空と雲が浮かぶ。

 そんな時だった。


「ちわっす!」

「ちわっす?」


 急に私の前に影が伸びる。

 私は首を起こし、前を向く。そこには赤く腰まで伸びた髪と緑色の綺麗な瞳を持つ少女の姿があった。

 そして耳が異常に長かった。これは典型的な〈エルフ〉の特徴で、頭の上にNPCマークがないことから、すぐにプレイヤーだと察しがついた。


「えっと……」

「あれわかんない?」

「えっ、もしかして千夏ちゃん?」

「ちわっす!大正解!」


 ピースサインを私に送り、にこにこの満面の笑みを浮かべる。

 私はその態度と仕草から千夏ちゃんであることをすぐに理解した。


「ちわっす!」

「ちわっすなに?」

「えっ、こんにちはをもじっただけだけど」

「なんでもじる必要があるの?」

「いやそこは気分だから。それに、私のプレイヤーネーム“ちなっち”だから」

「ちなっち?」

「そうちなっち」


 千夏ちゃんはそう言った。

 でもちょっと言いにくい。


「じゃあ、ちなっちちゃん」

「あー、そう言うのいいよ」

「えっ、どうして?」


 私は尋ねた。


「いやリアルならまだしもさ、ゲームの中ぐらい同年代っぽい子のことは呼び捨てで呼んでみてもよくね?それにちなっちちゃんなんて呼びにくいでしょ」

「う、うん」

「じゃあそれでいいじゃん」


 かなりアバウトでかなりフランクな言い回しだ。

 まあこれが千夏ちゃんなんだけど、と思いながら私は軽く頷いた。

 そんなこんなで私はリアルの親友、千夏ちゃん改めちなっちとゲーム内で初対面を果たすのだった。



「それでこれからどうする?」

「うーん。まずは街を見てみよっかな」

「えっ?どうして。外に出ないの?」


 私は尋ねた。

 すると頭にハテナを浮かべたように首を傾げるちなっち。


「RPGは街の探索が基本でしょ」

「ここRPGじゃないよ?」


 私は疑問への答えを更に疑問で返した。

 するとちなっちは嫌そうな顔一つせず、ニカッと笑って肩を叩く。


「まあいいじゃん。それに何か発見があるかもよ」

「発見?」

「うん。とりあえずそうだなー。あっ!」


 ちなっちは走り出した。

 速い。流石はちなっち。

 伊達に地区大会の新人戦女子の部一位じゃない。


「どうしたのちなっち?」

「コレ良い剣だなーって」


 そう言って見ていたのは〈ドワーフ〉のプレイヤーご売っていた剣だ。

 他にも鎧とかポーションとかが売ってある。


「おや?見ない顔だね」

「おじさんコレ幾ら?」

「コレか。この剣は1000Gだな」

「1000Gかー。ごめん、私今始めたばっかりだからお金なくて」

「そうか。じゃあ……」

「ポーション二つつけてくれない?」

「ん?」

「そしたら買うからさ」


 そう言ってにこにこと笑っている。

 まけてくれそうだったのに、何でわざわざおまけしてもらおうとしたんだろ? 変なの。


「おう構わなが」

「ありがと。じゃあこれ」


 そう言って所持金を全額払ってしまった。

 怖い。一体何してるんだろ。


「毎度あり。まさかこんなの買ってくれるなんてな」

「ううん全然いいよ」


 私には武器の良し悪しはそんなによくわからない。

 結局最初の時使ってた剣と今使っている剣の二種類しか使っていないからだ。

 更には何でわざわざちなっちは剣を二本も買ったのだろうか?他にわざわざ剣を二本も装備している人なんて見たことない。


「せっかくだ良いこと教えてやるよ」

「ん?」

「この先に行ったら洞窟があってな。何でもその先には凄えお宝があるとかだぜ」

「そうなんだ」

「ああ。まあ嬢ちゃんみたいな初心者には厳しいかも知んないけどな」

「えへへ。ですよねー」


 頭をさすってとぼけて見せる。

 そんなちなっちの挙動を不思議に思った。


「じゃあなー」

「ちわっーち!」


 そう言うとちなっちは戻って来た。

 私はそんな彼女に尋ねる。

 何でわざわざ高い値段で買ったのかだ。


「何で全額払っちゃったの?値切るとかちなっちならできるたよね?」

「うーん。それは簡単。単純にほら、この剣かなり良さげだったしそれにああやって顔を広めるって言うのもオンラインゲームでは効果的。それに情報も引き出せた」

「頭いいねー」

「数学は得意だからね」


 数学関係ないと思うけど。

 そんな無粋なことは一切言わず、ちなっちは私の腕を取るとニパッといい顔をした。


「じゃあさっき言ってた洞窟、早速行ってみようぜ!」

「えっ!?」

「ほら、は、や、く!」

「ちょっと待ってよ。そんなに走らないで!」


 私はちなっちに手を引かれ、洞窟探索に連れて行かれるのだった。


 

 

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