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■117 プール

この時期にプールってよ。

現実とのリンクはまるでなしなんだよね。

 とりあえずイベントもひと段落終えたので、私達は気晴らしにちょっとバスに揺られてぷらぷら山の中を進んでいた。

 目的はプールだ。

 夏本番でめちゃくちゃ暑い今日、普通に市営プールに行っても人が多いだけだった。だからこうやってあんまり都心の人達が行かなそうなところを探してやって来たのだ。


「皆んなごめんね。急に誘っちゃって」

「遊びなら全然OKだよー!」

「私も特に用事もございませんでしたのでお気になさらず」

「私も構わないな」


 三人とも肯定的でよかった。だけど大河ちゃんだけは何処となく目を逸らしている。やっぱり泳げないのを気にしてるのかな?


「大河ちゃん?」

「ひやぁ!な、なんですか!?」

「そんなに驚かないでよ。もしかして泳げないこと気にしてる?」

「うっ!」

「はっきり聞くねー。マナらしい」

「はい」

「だな」


 ちょっと酷いなー。でもまあいいや、本当のことだもん。


「大丈夫だよ。それに大河ちゃんは泳がるようになりたいでしょ?」

「う、うん」

「だったら一緒に練習しよ。私も皆んなも付き合うからさ」

「でも悪いから……」

「なにが悪いの?私は全然気にしないし、大河ちゃんが遠慮してるのは知ってるからゲームの中みたいに思いっきり遊ぼ。ねっ!」


 私は笑顔で返した。真っ直ぐではっきりした物言いに普通なら怪訝な顔をされてもおかしくはない。

 でも大河ちゃんの反応は頬を赤らかに染め上げるだけで、特に迷惑に感じているような雰囲気はなかった。


「にしてもノースよく見つけたよね」

「なにがだ」

「だって私最初は試合プールとか解放されてる学校のプールだと思ったもん。さしたら急に山に行くぞって」

「ああそのことか。安心しろ。そこは私の所有しているところだからな」

「ん?」


 えっ、今なんて言ったのかな?よく聞き取れなかった。何となく私だけかと思ったけど如何やら当人のノース以外全員頭を抱えていた。


(うん。これはあれだ。聞かなかったことにしよう)


 私はそうすることにした。

 とにかくだ。せっかく皆んなでプールに行くんだから楽しまないとね!



「うわぁー、凄いね」


 私達はプールにやって来た。

 外観は普通の市営プールみたいな感じだったけど、そんなに人通りが激しい感じじゃなかった。にも拘らず、外観はとても綺麗だった。

 それからいざプールサイドに来てみても私達以外誰一人でいなかった。少しもの寂しいけど、誰にも迷惑かけずに思いっきり遊べそうで何よりだった。


「まさか誰もいないなんてね」

「だから言っただろ。ここはうちの所有物(・・・・・・)だと」

「じゃあもしかしてさっき言ってたことって、ここのことだったんだ」

「それ以外なにがある」

「だ、だよねー(私がおかしいのかな?)」


 とりあえずノースの普通じゃない話は置いておくとして、私は軽く周りを見回してみる。

 とても静かだ。プールの水面を撫でるようにゆらゆら波と(せみ)の鳴く声。それ以外に目立った音はなく雑音や雑踏の視線は一切ない。


「いやーいいよねー。こうやって誰にも気遣わなくてもいいってさー」

「あっ、千夏ちゃんもう飛び込んだの?」

「当たり前じゃーん」


 周りの声に耳を澄ませているといつの間にか千夏ちゃんはプールに入っていた。

 重心のバランスを調整してぷかぷか浮いてる。結構疲れそうなことを一切の不自由なくやってのけた。


「楽しそうですね」

「うん。刀香ちゃん、ビーチボールなんて持ってきてたんだ」

「はい。先ほど膨らませてきました」


 刀香ちゃんの手にはビーチボールが握られていた。

 本来砂浜とかで遊びそうだけど、プールの水流を使って遊んだりもする。

 とそんなこんなで後は大河ちゃんだけだけどーー


「大河、早く来い」

「えっ、で、でも!?」

「いいから出てこい。誰も気にしない」


 ノースが声をかけると壁に隠れるように姿を隠していた大河ちゃんが出てきた。何だか威圧的な感じでちょっとなーって感じだけど、それがノースらしいからびしばししていた。


「ほらほら大河ちゃん。早く遊ぼ!」

「で、でも……」

「いいからいいから。ほらノースも!」

「ああそうだな。って、なにする愛佳うわぁ!?」


 私は大河ちゃんとノースの腕を引っ張ってそのまま飛び込んだ。

 バシャーン!と水飛沫が舞い上がる。うん、冷たくて気持ちいい。


「はぁー、何故こうなる」

「あ、あわわ溺れ……」

「大丈夫大丈夫、ほら!」


 私は大河ちゃんの手を引いた。

 

「あ、あれ?」

「ほら泳げてるでしょ」


 大河ちゃんは溺れてなんかいなかった。

 ちょっとぎこちなくはあるけれどちゃんと泳げてる。それに足も着くぐらいの深さだからそんな心配最初っから意味なかった。


「はぁー」


 深いため息を吐くノース。

 びっしょり濡れた白髪は肌にぴったりくっついていた。


「大丈夫ですかノースさん」

「まあな。だが愛佳には参った」

「楽しい方ですよね。私は一緒にいてとても気楽でいられます」

「それには一理ある。それより聞き捨てならないのは10日、今の発言だと普段が居心地が悪いみたいだぞ」


 ノースちゃんが何か話してる。何の話をしてるんだろ。


「そうですね。それには語弊がありました」

「と言うと?」

「皆さんや普段の生活ではなく家の話です。居心地が悪いのではないのですが、少々難儀なことがありまして」

「家庭的な話か?深く関わらない方がよさそうだな」

「そうですね。あまり面白い話ではありません。でもそうですね。一度私の家に来てみてはくれないでしょうか?」

「なに?」


 まだ話してる。

 一体何の話かな。


「家に?」

「はい。家庭的な不仲や家柄としてではなく問題は私の剣に対する敬意なんです」

「お前の?」

「はい。ですから一度皆さんには私の現実での剣技をお見せしたく」

「そうか。それなら私も興味がある。いつだ」

「そうですね。では三日後にでも」

「わかった。愛佳達には私から伝えておく」

「お願いしても」

「構わない」


 刀香ちゃんとノースの話がひと段落ついたみたいだ。

 雰囲気と表情の緩みで察した。

 ノースがこちらに近づいてくる。何か言ってるけど、何だろ?


「ふ、せ、ろ?って、うわぁ!」


 私は突然飛んできたビーチボールを何とか躱した。

 見れば千夏ちゃんが笑っている。


「千夏ちゃん!」

「あはは。ほらほら今度は愛佳の番だよー!」

「もーやったなー!」


 私はビーチボールを引き寄せると思いっきり千夏ちゃんに向かってサーブした。だけど簡単に取られてしまって私は今度も躱す。

 するとボールはノースを捉えるがひょいっと躱した。


「水中バレーか。よし!」

「あ、あれ?」


 ノースはボールを手に取ると勢いよくサーブをした。

 水の中で不安定なはずのなのにめちゃくちゃ良いコントロールだ。えっ、なに、これ?

 私はまた躱す。普通に楽しい。これだよこれ。これこそ、夏休みって感じ!

 私は何だか楽しくなっていた。

 

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