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■112 ドラピューズ

明日も出せたら投稿します。

ブクマ、評価してくれると嬉しいです。

 うねうねした蛇みたいな姿に二つの翼。さらには鈍く光る抉るような形をした針が尻尾の先端には付いていた。

 全体の色味は黒い。極端に暗めな灰色に近かった。でもそれだけではなく、その姿も蛇みたいに長いだけあって大きかった。


「まさか本当に当たるなんて……」


 私は自分の勘が当たったことに驚いていた。

 だけどそんなことを振り返る余裕なんて与えてくれない。それとそのはずで、ドラピューズは口から強烈なエアを吐き出した。


「うわぁ!」


 離れていたのに命中する。

 何とか【幸運】スキルと〈麒麟の星雫〉のおかげで私は思った以上のダメージを食らわずに済んだ。さらに皆んなに視線を移すとそれぞれの持ち場にいち早く着き、防御姿勢をとっていた。


「皆んな大丈夫!」

「大丈夫だって。それに食らったのマナだけだし」


 ちなっちは呑気に教えてくれた。

 だけどその手には〈赫灼相翼〉が握られ、(たる)んだワイヤーは依然として健在だ。


「それでどうする?流石にあそこまでは私の足でも届かないよー」

「俺もだな。【跳躍】スキルで跳べるか……」


 ちなっちとタイガーは悔しそうにする。

 確かに私も【跳躍】意外にこの場で使えそうな手段はなかった。【雷歩】と【跳躍】を合わせればタイガーよりかは高く跳べるかもだけどあんまり現実的じゃないかも。


「やめておけ。まともにダメージを与えられるのは私の弓かKatanaの陸ノ型ぐらいか」

「確かに辻風でしたら届くかもしれませんが、あまり実用的とは……」

「言えないな」


 スノーは口をつぐんだ。

 かくいうドラピューズは未だ悠々と空を飛行中。こっちからは手出しする手段がないのにこれじゃ不公平だよ。


「どうしよう」


 嘆いたような声を出す私。と言うか方法が私の頭じゃ思いつかなかった。

 だけどそんな私の隣でさっきから屈伸運動を続けているちなっちが気になる。


「ちなっちなにしてるの?」

「いやーちゃっとやってみよっかなーって」

「やってみる?」


 一体何をするつもりだろう。スノーに尋ねてみようとするとが、何故か嫌そうな表情を浮かべていた。


「えっと、なにするの?」

「決まってるじゃん。スノー」

「私は嫌だぞ。そんなパワー、私にはない」

「えー!」


 ちなっちはつまらなそうな声を上げた。

 だけど傍から考えも知らないまま眺めていてもさっぱりだ。


「本当になにするつもり?」

「いやー、スノーの《ダークトルネード》の上昇気流で飛べないかなーって」

「はい?」


 無茶苦茶な発想に思考が回らなかった。

 だけどちなっちはそんな子供の考えそうな無茶を平気でしそうな雰囲気があった。何故ならさっきから念入りなウォーミングアップを敵モンスターの目の前で構わずやっているからだ。


「いやいや待ってよ。それは流石にねー」

「ああ。私もやらない方がいい。落ちたら死ぬぞ」


 このゲームはHPがゼロになったら死亡扱いになる。だけどHP以外にも幾つもあって、例えば頭(脳)が損傷する心臓を損傷する。頚椎(けいつい)脊椎(せきつい)の負傷は死亡判定。さらには高所からの転落、最中での窒息や、炎による焼死も死亡判定になるのは当たり前のことだ。つまりかなりシビアな設定がされている。だから《ダークトルネード》で仮に飛んだとしても落ちたら死んじゃう。いくら【受け身】のスキルがあるからと言って過信出来ない。


「でもなにもやらなくてもアイツはその内攻撃してくるでしょ?」

「そうだけど」

「だったらこっちから攻め込むしかない!それしかこのイベント勝つ方法ないよー」

「ううっ」


 た、確かに言いたいことはわかるけど。だからと言ってそんな無茶苦茶な作戦が果たして上手くいくのだろうか。

 あっでもスノーのあの魔法が上手く機能すればーー


「スノー!」

「《シャドウ・バインド》でちなっちを拘束して突撃させる策だろうが私も考えてはいた。はぁ、仕方ないか」


 まさかのスノーが折れた!

 目を見開く私と逆に目を細めて「なるようになればいい」的な仕草を見せるスノー。逆にちなっちは「よっしゃ!」と拳を握った。


「じゃあ行くぞ」

「OK!とりあえず翼ぐらいは落とせたらやってみるからー」

「期待している。《シャドウ・バインド》」


 スノーは《シャドウ・バインド》でちなっちの体を縛り付ける。だけどちょっとだけ緩めにしてゴムみたいに伸び縮みさせていた。


「万が一のことがあってもこっちで回収する」

「わかったー」

「《ダークトルネード》」


 スノーは早速魔法を使った。

 黒い渦が現れて砂浜の砂を巻き込んで突風が吹く。今にも飛ばされそうな勢いで展開するそれを私は顔を覆って眺めた。


「うわぁ、目が!」

「行け!」


 スノーが命じると黒い渦は直進した。それはちょうどドラピューズの真下で、攻撃だと感知したドラピューズは口からエアを放つ。

 《ダークトルネード》の渦に直撃し、渦は別の気流に衝突し崩壊する。


「ちなっち!」

「せーのっ!」


 私は叫んだ。ちなっちは渦から弾き飛ばされ、落下する。だけだそれを承知の上でちなっちは〈赫灼相翼〉の片方の剣をドラピューズに突き刺した。

 ドラピューズは痛みに悲鳴を漏らす。それと微かにHPが減っていた。どうやら効いているらしい。


「OK!って、うわぁ!」


 だけどそんなちなっちをもの凄い速さで引き戻したのはスノーだった。それだ同時に剣をドラピューズから外れる。赤いエフェクトが視界に入り、ドラピューズの緑バーがまたちょっぴり減った。


「うわぁーーーーーぐへっ!」


 対してちなっちはゴムの反発みたいに砂浜に叩きつけられて反動で体がちょっぴり浮く。

 何でこんな荒っぽい形でちなっちを戻したのか。それはドラピューズの尻尾の先端が教えてくれた。


「なにアレ?」

「毒が来る!全員下がれ!」


 スノーが叫んだ。確かに毒々しい色味をしている。紫色をした液体が砂浜に向かって放たれるとその場所は溶けてしまった。

 ジュゥゥゥと焼けるような音と一緒に削られた砂浜。そんな光景に冷や汗をかきながらも、まだまだドラピューズ戦は始まったばっかりだったのでした。

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