■11 応援
今日はしんどかった。
市内の陸上競技場にやって来た私。
何を隠そう、今日は日曜日。
千夏ちゃんの陸上の応援にやって来たのだ。
「千夏ちゃん、どこにいるんだろ?」
観客席から見てみるが、千夏ちゃんの姿はない。
千夏ちゃんの出番は午前の中のはずだけど、ここまで何組か出て来たけど、未だに千夏ちゃんの出番はやってこない。
「100メートル走に出るって聞いてたんだけどなー」
千夏ちゃんは昔から運動神経抜群だった。
運動に関しては何をやらせても上手かった。
だから自分から陸上部に入ったのではなく、中学の頃の成績から勧誘に遭ったのだそうだ。
優しい性格の千夏ちゃんは大会までの間はしっかりと部に顔を出していた。そんなに優しい彼女が私の親友だった。
「うーん……ん?」
で私は見ていると不意に見知った人物が現れた。
アレって、千夏ちゃんだよね?
そこに現れたのは私の親友の千夏ちゃんの姿。陸上部のユニフォームに着替え、ストレッチを軽く済ませていた。
多分これから走るのだろう。
私は応援の準備をする。
「千夏ちゃーん、頑張れー!」
多分聞こえない。
だけど力一杯エールを送る。
するとまさかとは思うが千夏ちゃんがこっちの方を向いた。多分見えていない。でももしかしたらと思い観察していると、手をこちらに振って来るのが分かった。えっ!?もしかして見えてるの。私はちょっと怖かった。
そんなこんなでいよいよ千夏ちゃん達が走る。
スタートラインに立つと、クラウチングスタートの構えで正面を向く。
私個人、あんまりスポーツには興味がないのでよく分からないが千夏ちゃんには勝ってほしかった。
カウントが始まる。
巨大な電光掲示板にカウントを示す点滅が現れる。
それが三つ。ピッ!の合図で一つずつ点灯していき、三つ溜まった瞬間、一斉に走り出した。
多分選手達の近くではピストルを持った人がいて、その人の合図で走っているんだと思う。運動会とかのリレーと同じシステムだ。
「頑張れー、千夏ちゃーん!」
私は力一杯応援した。
千夏ちゃんは走る。しかも凄い速さだ。直線距離で100メートル。そのおおよそ三分の一付近では既にトップ争い。
同時に八人が走っている現状でトップ争いに参加しているのは三人だけ。その中に千夏ちゃんの姿がある。
「負けるなー千夏ちゃーん!」
私は声を大にして張り上げた。
すると応援の成果かはわからないが丁度半分ぐらいで変化が現れた。
誰かが一人前に躍り出た。
その姿は千夏ちゃんのもので、千夏ちゃんはそのまま他の選手との差をぐんぐん広げていく。
(速い。やっぱり千夏ちゃんって運動に関しては負け知らずだなー)
私はそんな風にほのぼのした。
そのまま千夏ちゃんの快進撃は止まることを知らず、70メートル付近では少しの差だったものが、80、90と距離が埋まるにつれてどんどん加速していく。
電光掲示板にはまだ10秒しか経っていない。
と言うか女の子でしかも陸上が一番好きってわけでもないのに、これだけの力を見せてくれる千夏ちゃんが如何に常人離れしているのかが裏付けられた。
そうこうしているうちに千夏ちゃんはゴールしていた。
クールダウンのために少し走りきり、タイムを見てみると11.96。一年生にしてはあり得ないほどの快挙だと言えた。
しかし本人は全くそのことを自覚していない様子で、何事もなかったかのような顔色である。それから私の姿を見つけると、Vサインを送った。全く変わってないや、と私は心の底で安堵した。
結果として女子100メートル走は全国区にも通用するような見事な成績で千夏ちゃんが堂々の一位を獲得した。
千夏ちゃんは表彰され、壇上に上がると皆んなからの注目を受けた。それから金メダルと表彰状を渡されご満悦の表情。皆んなからの拍手喝采が送られた。
「やっぱり凄いなー、千夏ちゃん」
かくして千夏ちゃんの新人戦は終わりを迎えた。
しかし千夏ちゃんは満足したような様子で清々しい顔をしている。
帰りのことだ。
一度学校まで戻った千夏ちゃんは打ち上げもせずに私と帰っている。何でも陸上はもういいらしい。
一応辞めてはないけど、やりたいことが見つかったそうだ。
それは簡単なことで〈WOL〉にそろそろ全力で取り組みたいとのこと。
「でも凄かったね千夏ちゃん」
「何が?」
「だって優勝しちゃったんだよ。それなのに如何して皆んなと一緒に行かなかったの?」
私は率直に尋ねた。
すると千夏ちゃんは空を見上げ、答える。
「うーん、別に今の私にとって陸上が全部ってわけじゃないから。それに私が部活をやってたのもただ勧誘されただけでまだ完全な部員じゃなかったんだ」
「そうなの?」
「そう。だから新人戦が終わったら部活辞めますって言ってたの。それで今こうして帰ってるわけ」
「よかったのそれで?」
「うーん。皆んな残念そうだったけど、私意見を曲げなかったから。それにほら!部活に全力だと愛佳と遊べないだろ?」
「もしかして百合なの?それともレズ?」
「どっちでもないから。私はただ遊びたいだけ」
「そっか。じゃあ本格的に〈WOL〉やるんだね」
「うん。明日からね」
「じゃあ待ってるよ。私はマナって名前」
「うん。私は……ちなっち!そう呼んで」
そう千夏ちゃんは私に伝えた。
ちなっちって何だ?私は頭を悩ませていた。
夕焼けをバックに私と千夏ちゃんは共に河川敷を歩いていた。




