■105 ちょっぴり不思議なお話
ブクマ100行きました!
湖の中央に浮かぶ桜蘭閣。
その中にはちょっとしたスペースがあった。桟橋をもう一つ渡り、湖の中央へと進んでいくと何だろ。名前はわかんないけど、貴族がお茶会とかしてそうな感じのものが出てきた。
「あそこで話しましょうか」
「えっ、はい」
私はイズモさんに続いて向かった。
オシャレ感漂うそんな場にやって来てしまった私。緊張している私に、イズモさんはティーカップを取り出すと中に紅茶を注いでいた。
「どうぞ」
「あっ、いただきます」
私は軽く会釈してから受け取る。
飲んでいると自然と心が落ち着いて来た。効能ってこんなに早く効くものだっけ?と錯覚するが今はそんなこと如何でもよかった。
「少しは落ち着きましたか?」
「はい、なんとか」
「それはなによりです。すみませんね、わざわざこんな場所まで連れて来てしまい」
「大丈夫ですよ!おかげでこんなに綺麗な景色が見られてんですから」
「ありがとうございます」
「あっ……」
逆に気を遣わせてしまったことを察し後悔した。
しかし後悔すでに遅し。イズモさんは紅茶の入ったティーカップにそっと口付けする。
(ど、どうしよう……私、また変なことしちゃったかな)
私は動揺していた。
太腿をキュッと付けて緊張する。しかしイズモさんは全く気にしていない様子で振る舞ってくれた。
「あの、ごめんなさい」
「なにがです?」
「その、気を遣わせてますよね?こう言うの言っちゃ駄目だとは思うんですけど、そのイズモさん私のこと試してますよね?」
「!?」
イズモさんの手が止まる。
「マナ。どうしてそう思うのです?」
「だってイズモさん。さっきよりも喋り出しが、ちょっとだけ遅い気がするのと、それから眉がちょっぴり動いてますよね?ほら、今も」
「なっ!?ふふっ。期待以上です」
「はい?」
私は首を傾げる。
しかしイズモさんは気にしない。私を置いて先に話し出す。
「マナ。貴女をここに呼んだのは、少し私の“話”を聞いて欲しかったからです」
「お話をですか?いいですよ」
「ありがとうございます。では、これはこの世界とはまた違う世界のお話です。あっ、この世界というのは現実の方ですよ」
「はい」
「そこは〈アルトライフ〉と呼ばれる世界。そこにはたくさんの種族が行き交い、共に生活をしていました。時には争い事もありましたが、それは現実の世界とあまり変わりありません。ですがそんな世界は突如として危機に陥りました」
「お話の流れ的にテンプレですね」
「その世界を襲った最悪。それは魔獣と呼ばれる生物とそれを操る魔神と呼ばれる最悪の存在でした。その力は強大で、たちまち世界は混迷の危機を迎えることになるのでした」
「大変ですね、それ」
子供みたいな感想。
だけどイズモさんはそんな話には耳も貸さず、続きを話す。
「人々は阿鼻叫喚の嵐に苛まれ、地上のあちこちは魔獣に蹂躙され、蔓延ることになるのです。それは自由を失い悲しみに暮れる日々を送ることになるのです」
「そんなのって……」
「ですがそこに奇跡が起きました。とある神により導かれた異世界の勇者達。彼女達は共に力を合わせ兄弟な敵に立ち向かい、時には敗北を喫することがありながらも互いに支え合い、世界の人々の心を強くしそして立ち向かう。やがて魔神に勝負を挑み、倒すことができたのです」
「ハッピーエンドですね。私は好きです。王道展開」
「そしてそんな平和になった世界で、再び手と手を取り合う人々。かつての勇者が元の世界に帰った後。と言うのがこの世界の設定ですね」
「えっ!?」
私は口をポカーンと開けて固まってしまった。
一方、話し終えたイズモさんは満足気に紅茶を飲む。
「あ、あのイズモさん」
「なんですかマナ?」
「今の話って……」
「今の話がなにか?」
「作り話ですよね?」
「さあどうでしょうか?」
「さあって!そういう設定なんですよね。だってコレゲームですし、でもそんなストーリーがあったなんて知らなかったです。ホームページにそんな記載あったんだ……」
「ふふっ。面白かったですか?」
イズモさんはそう問いかける。
私はそれに対して少し迷ったけど率直に答えた。
「はい。面白かったです」
「それはよかったです。私としても成果はあったので、そうですね。私は基本的に時間があればここにいます。貴女には自由にここへの出入りを許可しましょう」
「えっ!?」
まるでこのエリアの管理人みたいな言い方だ。
もしかして……
「イズモさんって……」
「?」
「なにかのギルドのマスターなんですか?」
「えっ?」
イズモさんは“らしく”ないのか、力なく紅茶の入っていたティーカップを置く。
全身が硬直したのか一瞬固まる。その後、体が肩からかけてプルプルと震え出す。
「私もなんですよ。『星の集い』ってギルドのギルマスをやってるんです!」
「うふふ。『星の集い』ですか。いい名前ですね」
「はい!ギルドメンバーの子が考えてくれたんです。私も凄くカッコいいって思ってるんです」
「そうですか。では一つ、私のちょっとした独り言だとでも思って聞いてください。ギルド全員で、今度の日曜日、19時頃にでもここに行ってみてはどうでしょうか?」
「えっ?」
イズモさんは地図を広げて、ちっちゃな島を指さす。
何でだろうと思った私だったけど、何となく“行った方がいい”ような気がした。何でかは本当にわかんないけど。
「おや、もうこんな時間ですか。そろそろ失礼しないと」
「イズモさん?」
「帰り道はわかりますね。来た道を辿ればあの鳥居に着きますから。それではまた会いましょうね、マナ。期待していますよ。貴女にも貴女のギルドにも」
「どういう意味ですか?」
「いずれわかりますよ」
メチャメチャ含みのある言い回し。
これは絶対に何かある。私はそう確信した。だけどそんなことよりも依然としてここって何処なのかとかイズモさんが何者なのかとかは正直如何でもよかったし、その上考えてもわからなかった。




