■104 桜蘭郷
ブクマとかしてくれると嬉しいです。
鳥居に飛び込んだ私と〈セリアンスロゥプ〉の女性。
白と黒が入り混じる水入りバケツの絵の具みたいな感じの空間を飛び越え、やって来た場所。そこで私が最初に見たものはたくさんの満開の桜の木だった。
「凄い。なんで、こんな時期なのに桜が咲いてるんだろ」
鳥居を抜けた先。
そこでは満開の桜の花弁が私達をお出迎えしてくれていた。
「これも仕様ってやつなのかな?」
「ふふっ。確かに考え方次第ではそうでしょうね」
「えっ?」
なんだか濁すような含みのあるような言い回しがしっくりこなかった。
と言うかこれってあれだよね。何か面倒なルートに向かって進行中って感じだよね。
「あまり深く考えない方がいいですよ。ここは狭間なんです」
「あの、それって……」
「貴女達の住う世界。つまりは現世と、このゲーム空間の境界線みたいなものです」
何だろ。既視感を感じる。
例えばこれが物語だったら根幹に関わるような発言。いわゆる伏線みたいなものだと錯覚する。
「あの、そう言う話止めにしませんか?私にはよくわかんなくて」
「そうですね。ではこちらに参ってください」
「あっ、ちょっと!」
私はまだ名前も知らない女性について行った。
あっ、絶対に知らない人について行っちゃ駄目だからね。これは約束だよ。って、私誰に対して言ってるんだろ。頭おかしくなっちゃったかな?
「綺麗な場所ですね」
「ふふっ。気に入っていただけましたか」
「はい!でもあの、本当に此処どこなんですか?」
「その説明はします。ですがそうですね。まずはこの世界の名前を。ここは〈桜蘭郷〉です」
「〈桜蘭郷〉?」
「はい。常に桜が咲き続ける不思議な異界の土地。それがこの世界の名前です」
「世界って……また大袈裟ですね」
「そうですか」
女性は寂しそうに呟く。
背中から漂う哀愁は私にも伝わってきた。
「ところで!」
「はい?」
女性は立ち止まる。
私は今度こそちゃんと聞こうと思って息を吸った。
「貴女の名前、まだ聞いてないんですけど?」
「そうでしたね。ここに着いたんです。教えましょう」
私は唾を飲む。
こめかみから滲んだ汗が垂れた。何でか微妙にわかんないけど緊張する。〈セリアンスロゥプ〉の女性の尻尾も軽く揺らめく。
「私の名前はイズモ。本名は、稲葉出雲です」
「イズモさん……って、本名!」
「ふふっ。驚きましたか」
「えっと、なにがです?」
「!?」
逆に私の方が聞き返してしまい、聞いた本人が驚くと言う奇妙な状況が発生した。
しかし逆にそのおかげで和んだのか、イズモさんは緩やかに笑い出した。
「はははは」
「あ、あれ?イズモさん」
心配になった私はイズモさんに声をかける。
「いや、なんでもありませんよ。そうですか。道理で……」
「あ、あの?」
「いえ、こちらの話です。お気になさらずに」
イズモさんははぐらかすどころか何かを隠す様子もなくなった。
怪しいっちゃ言えば怪しいけど、だからと言って私がこれ以上この人に対して踏み込むのも悪い気がした。勝手に知らない人の心に土足で踏み込むのはちょっとね。あれ?スノーの時とかそうじゃなかったっけ?タイガーの時も。
私は昔自分のしでかしたことを今更ながらに懐かしく思った。
するとそんな様子の私を一目見てイズモさんは手を引いた。
「それでは参りましょうか、マナ」
「えっ、どこにですか?」
「この場所に来た目的です。すぐそこなので少し急ぎましょうか」
「えっ!?すぐ近くなのに急ぐんですか!って、えっ!?」
私が何か口走ろうとした途端、急に加速したイズモさんに腕を引きちぎられるかと思った。
それぐらい力強くて痛かった。プランプランとアニメみたいにコマ送りに流れていく景色が目の中に飛び込んでくる。
と言うか、こんなスピードあり?私でも常時【雷歩】何て出来ないのに。
「あ、あの!」
「なんですか?」
「イズモさんってホントなんなんですか!プレイヤー?それともNPC?」
「そうですね。プレイヤー……そう答えておきましょうか」
「はい!?」
私は頭が混乱しそうになる。
グワングワンするし、頭も痛い。考える気力さえ失せてしまう。
さらにそこに追い討ちとなって、舌を噛みそうになった。何とか引っ込めたけど、まともに喋るのはちょっと厳しそうだった。
そうこうしているうちに数分が経った気がする。
何でわかったのかと言うとイズモさんの足が急に止まったからだ。多分目的地に着いたのだ。
「うわぁ」
「マナ。起きてください。着きましたよ」
私はふらつく足で久々に地面に触れた気がした。
実際にはそんなに時間は立ってないんだけど、そんな気持ちにさせられる。
で、転びそうになった私は地面に手をつき、イズモさんに言われるよりも前に顔を上げた。
そこにあったのは巨大な湖。そしてそこには桟橋がかけられ、湖の中心には鳥居で区切られた島があった。
「アレは?」
「桜蘭閣。お話をするにはもってこいの場所ですよ」
イズモさんはサラサラと流すように話すけど、私にはそれが如何にも腑に落ちなかった。
何故ならこの感じが只事ではない気がする上に、まるで庭園みたいな感じで風情の塊だったからだ。




