■103 万年桜の朱鳥居
再投稿です。
タイトルは(あかとりい)と呼んでください。
私は見知らぬ〈セリアンスロゥプ〉の女性に腕を引っ張られていた。
力強い。一体何処にこんな力があるのだろうか。
この人の腕は色白で細い。それなのに私の体を無理矢理に引っ張るだけの力を隠し持っていた。と言うか、これなら私が助けなくても良かったんじゃないのかな?
「あの、何処に行くんですか?」
「もう少しです」
「もう少しって。あの、手放してもらってもいいですか?私、貴女のこと悪い人じゃないと思うからちゃんとついて行くので」
「……」
「あの!」
私は叫んだ。
しかしこの人は全く聞いてくれない。
(ああ、なんでこんなことになってるの……)
トホホな気分で落胆する。
せっかく街を散策しようと思っていたのに、こんなことになるなんて。だけどやっぱり不思議だ。この人からは他のプレイヤーとかNPCとかとは何処か違う。
それは極めて弊害なく、人としておかしいとかの差別的なものではない。枠組みとして何処か異質に感じてしまった。って、何で私はこんなふうに思うんだろう。
「あの、名前を聞いてもいいですか?」
「……」
「あの!」
「着きました」
「えっ?」
私はポカーンとしてしまう。
〈セリアンスロゥプ〉の女性に連れて来られたのは大きな赤い、いや朱色の鳥居が構える階段が連なる坂道の前だった。
しかもよく見れば奥の方には幾つもの朱色の鳥居が迎える。不思議な場所だ。
「あの、ここは?」
「昇陽山の頂上に建てられている桜蘭神社への入り口です」
「は、はい?昇陽山?桜蘭、神社?なんですか、それ」
「ふふ。来ればわかりますよ」
そう言って女性は私の前を歩いた。
私は含みのある言葉が気になって彼女の後をついていく。
朱色の鳥居を潜り、整備された石造の階段を上っていく。
「あの、なんでここって鳥居がいっぱいあるんですか?」
「ここは現実世界における伏見稲荷神社をモチーフにしているからですよ。名前や写真ぐらいは見聞きしたことがあるでしょう」
「えっとー……はい」
頼りなく答えた。
でもそれだったら狐とかそっち系を名前のモチーフにしてもよかったんじゃないかな?まあ余計なことは考えないでおく。その方が下手に世界観を傷つけなくて済む。
「ちなみにここには山頂の境内に辿り着くまでに百一個の鳥居が存在していて、その脇には定期的に灯籠が立ち並び、必ず鳥居の真横には桜の木が咲いているんです」
「桜ですか?」
「はい。山頂にはこの街のシンボルとも言える万年桜。一年中咲き乱れる桜で、その影響とも言われていますよ」
「へぇー」
安っぽい感想しか出てこない。
風情がないとか風流が足りないと自分でも心底思う。
それにしてもここにあるのは皆んな緑色をしている。もう時期を過ぎたからだろう。
「一年中葉をつけることでも有名で、現実のものとは異なるのも特徴です」
「そうなんですか。面白いですね」
「そうですね。ですが一つだけ不思議なところもあるんですよ」
「不思議ところですか?」
「はい。この桜の木は秋になると紅葉します。そしてその中でたった一本だけ、紅葉が咲いているんです」
「えっ!?」
私は小さく驚いた。
桜なのに紅葉って、普通じゃない。流石はゲーム!ある意味らしい。
「いい反応ですね。それにその顔、ただのゲームだと思っているみたいで」
「えっ、違うんですか?」
「さあどうでしょうね。でも、そう言う設定だと思って遊ぶと面白くないですか?」
「面白い……はい!」
「ふふっ。ではそろそろ本題です。マナ、横を見てください」
「横?」
そこには木が一本生えていた。
多分この人の言ってることが本当だとしたらこの木は桜の木だ。
「この木が、今話した紅葉の咲く桜の木です」
「えっ、これが!」
「はい。そして背後にあるこの鳥居。どこか変ではないですか?」
「えっ!?」
そんなこと言われてもわからない。若干ピンク色っぽいと言うか、あれ?
「桜の花弁?」
「そうです。この花弁が描かれているのは、この鳥居だけなんですよ」
「へぇー」
何だろ。普通に面白いし、不思議だ。神秘的って言ってもいい。
だけどそれを聞いて何になるんだ?
「あの、それでどうなんですか?」
「実はですね。この鳥居には秘密があるんです。私の服の袖、掴んでもらえますか?」
「えっ、はい」
私は〈セリアンスロゥプ〉の女性の着物の袖を掴んだ。
すると女性は口をモゴモゴと動かして透き通るような声で何かを歌い出した。
「陽の射る桜の山道の 一本紅葉の朱門に
歌い参るは狐入り 世の理を逆手取る
霧に飲まれし狭間には 永遠を結ぶ縁」
まるで呪文だ。かなりゆっくりゆったりであんまり歌とか音楽の用語には詳しくないのでよくわかんないけど、優しいメロディーだった。
だけど何で急に歌なんて歌うんだろう。
「あの、なんで急に?」
「振り返ってみてください」
「振り返るんですか?って、えっ!?」
そこにあったのは鳥居だ。
だけどおかしい。さっきとはまるで違う。違うと言うのは周りの風景がではない。鳥居の中が渦みたいに黒と白が混ざっている。例えるなら洗濯機みたいだ。
色を基調に捉えるなら、水彩絵具を使った後のバケツをかき混ぜているみたいに見える。不思議だ。
「あの、これって……」
「入りますよ」
「えっ、駄目ですよ。これ普通じゃないですよ!運営さんに連絡……」
「さあ」
「あっ、ちょっと!」
私は女性に手を引かれて鳥居の中に飛び込んでいた。
私の意思じゃない。この人は一体何がしたいんだろ。それから何で私がこんな目に遭うのだろうかと混乱と困惑が入り混じるのだった。




