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■1 始まりは唐突に始まる

唐突に書きたくなった系。

 5月の上旬。ゴールデンウィーク真っ盛りの夜中12時。丁度深夜タイムに入り、部屋のカーテンの外からは一切の明かりが消えている。そんな中、私は一人ベッドの上に座り込み目の前にある“黒い箱”を凝視していた。


「何でこんなことになったんだっけ?」


 私はつい数時間前のことを思い出す。

 頭の中ポワポワする状態で逃避行するのは、昨日の夕方4時のことだった。



 確か私は部屋で宿題をしていた。学校から提示された課題の量はそこまで多くはなかったが、まめにコツコツやって行くのが一番効率が良かった。ぶっちゃけ効率とか気にしない気にしたことないけど、自然と小学校から続けていたことなのでつい習慣づけられていただけだ。

 私はシャーペンをスラスラとノートに走らせ、出された数学の問題や古典の和訳を解いて行く。途中わからない問題は慣れないパソコンや教科書を読み返して解いて行く。


「うーん、難しい……」


 成績は普通だ。

 学年順位と対して良くない。でも悪くもない。丁度半分ぐらいが私の実力だった。点が高かったら嬉しいし、そうじゃなくても凹んだりもしない。海外赴任中の両親が家にいないから怒られることもないし、お父さんもお母さんもあんまり怒らない人だって分かっていたからでとあった。


「うーん、やっと終わったー!はぁー疲れたー。麦茶でも飲も」


 私は下に降りて麦茶を飲もうと思った。

 でも丁度そのタイミングでスマホが鳴った。メッセじゃない。誰からかと思いスマホを手に取ると、ディスプレイに表示されていたのは私の中学時代からの親友の南千夏(みなみちなつ)だった。


「如何したの千夏ちゃん?」

「あっ、愛佳(まなか)。ねえ今から家に来れない?」

「えっ?いいけど……何かあったの?」


 私は聞き返した。

 急に呼ばれること自体には慣れている。千夏ちゃんの家もお父さん達が夜遅くなる時とか、帰って来られない時とか一緒にご飯を食べたりしているからだ。もしかしたら今日もそれかもしれない。私はついいつもの癖で「何かあるものある?」と尋ねると、「特にないよ」と返されてしまった。いつもなら「アイス買ってきてー」とか言って来るのに今日は如何やら違うっぽい。


「いいからいいから。前々から予約してたやつがやっと届いたんだよ!」

「届いたって、ゲーム機のこと?」

「そっ、それ!最新型のVRドライブ」

「VR……よくわかんないけど、凄いのそれ?」

「あったり前じゃん!今じゃ入手困難なとんでもない貴重品なんだぞ!」

「へぇー凄いね。あっ、ちょっと待って宅配来ちゃった」

「OK。じゃあ後で(うち)に来いよー!」

「わかったから。じゃあ切るね」

「おいー」


 千夏ちゃん喜んでたなー。

 電話越しでも伝わって来るぐらいだもん。きっと相当嬉しかったんだ。でも私にはVR?とか言うものの良さがよくわからない。だからちょっと反応に困っちゃったけど、まあ何とか空気だけでも合わせれたかな。

 私はお喋り談義に耽るながら、玄関のドアを開いた。するとそこには宅配の人の姿があって、大きなダンボール箱を抱えている。あれ、こんなの頼んだっけ?


神藤愛佳(しんどうまなか)様でしょうか?よろしければこちらにサインを」

「はい、わかりました。これでいいですか?」

「はい。それでは失礼します」


 スラスラと名前を書き荷物を受け取ると宅配の人は去って行った。ホントこんなの頼んだ覚えないんだけどなー。送り主を見てみると私のお父さんの名前があった。海外のお土産だろうか?私が高校に入学したからそのお祝いかもしれない。

 しかも重たいと来た。きっとこれは海外の置物か良い食べ物に違いない。丁重にリビングまで持って行くと友達との約束もあるので、中身をろくに確認せず私は家の鍵を閉め外に出た。



「来たよー、千夏ちゃん」

「おっ!来た。こっちこっち」


 千夏ちゃんは私を二階の自分の部屋に呼んだ。

 私は彼女の後を追うように、二階に上がると彼女の部屋の中に置かれた見慣れない物に目が行った。


「何これ?」

「あっ、やっぱ気になる。これがVRドライブだよ」


 そこにあったのは黒い箱だ。箱と言ってもそんなに大きくはない。流線を描くように角っこは丸みを帯びていて、おまけにヘッドホンみたいな変な道具まである。

 それなのにコントローラーみたいなものは見当たらない。これが本当にゲーム機なのかと疑いを掛けてしまうほどに、ゲーム素人の私には理解出来なかった。


「コントローラーないし、それにこれ何?」

「VRゴーグル。感情エレメントと脳波を読み取って、付けてる人の意識をゲームの中に入れるための道具」

「ゲームの中に入る!」

「そうだよ。一応意識とかはあるけど、独り言とか口が動いたりすることはないんだって」

「じゃあその間こっちの人って如何なるの?」

「動かないよ。だからちゃんと大丈夫な体勢でいないといけないんだってさ」

「でもそれ危ないんじゃないの?」

「大丈夫だって。メーカーが「絶対安全第一」ってキャッチコピーで売り出してるんだからさ!」

「安心出来ないよそれ」


 ペラペラと千夏ちゃんは喋り出す。

 元々社交的な性格で、人付き合いが上手い。おまけに陸上部の一年生エース。皆んなから慕われて妬まれることの方が珍しいほど。おまけに超ポジティブな性格だから、絶対にめげないし諦めない強い心の持ち主だった。そんな彼女が友達だと凄く心強い。それに安心する。


「ホントは愛佳の分も買えたら一緒に遊べたんだけどなー」

「いいよ。私ゲームとか苦手だし。それよりゲームは?」

「ああコレだよ」


 千夏ちゃんは私に薄型の箱を渡した。

 それを受け取ると、パッケージにはゲームのタイトルがドンと構える。


「〈WORLD OF LIFE 〉?」

「今流行りのオープンワールド。オフラインは存在しなくてオンラインでやるゲームなんだけど、自由度高いし特にやることも決まってないから幅広い世代にウケがいいって大人気なんだって。その分入手も困難で発売してまだ一ヶ月なのに再販待ち。Verの更新も定期的にあるから、多分長いこと遊べると思うんだよねー」

「そうなんだー。へぇー」


 話についていけなくなっていた。

 とにかく長く遊べて皆とできる人気のゲームらしい。


「それに味覚とか触覚とかすっごくリアルなんだって噂」

「如何やってるんだろ」

「さっき言った感情エレメントで計ったベクトルを、脳波に伝えるって仕組みらしいよ」

「うーん……わかんない」


 結局さっぱり分からなかった。

 しかしそんな私を笑うでもなく千夏ちゃんは楽しそうにしている。


「それで今からやるの?」

「いんや。本当はやりたいんだけど、次の大会があってなー」

「ああ陸上の新人戦?」

「そっ。だからできないんだよ。はぁー何で陸上部に入ったんだろ」

「そんなの知らないよ」


 一人ボヤく千夏ちゃんに特に言い返すこともなく私達はそれからちょっとお話をしたから私は家に帰った。

 誰かが出迎えてくれるわけじゃない。さみしくはないけど、静かすぎるのもつまらなかった。

 こういう静かな空間は何をするにも気楽でいられる。って、私は毎日気楽だった。


 いつも通り自分の部屋に戻ろうとした私。

 しかしそこで夕方受け取った荷物があることを思い出した。あんまり興味はないけど、食べ物だったら嬉しいし早く保存しないと大変なことになる。

 私はダンボール箱を開け中身を取り出す。すると箱の中には箱が入っていた。しかもパッケージには何となく見覚えがある。


「あれ、コレって……」


 とりあえず部屋に持っていこう。

 中に入っていた手紙にはお父さんとお母さんからの入学祝だと書いてあった。

 部屋に戻ってきた私はその黒いパッケージをじーっと見る。そう、そこにあったのは今日千夏ちゃんが見せてくれた(くだん)のゲーム機だった。



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