色野駅
「ねえねえ、知ってる?」
「え、何、何?」
「色野駅でまた、人身事故だって。」
「えー、この前も起こってたじゃん。」
「でさ、今回は女の人と、その女の人が抱いてた赤ちゃんがホームから転落して、電車にひかれたらしいよ。」
「ここ田舎だから、電車も1時間に一本しか来ないし、そのタイミングで落ちるとか、不運すぎない?」
「だよね〜。」
「ねえ、沙織。そう思わない?」
「えっ……うん、そう思うよ。」
「沙織、どうしたの?」
「いや、ちょっとボーッとしてて。」
私の名前は渡辺 沙織。
2ヶ月前にこの、菜垣町にある、市立高校に転校してきた。
皆からはいつもボーッとしている、パッとしない子だと思われている。
でも、イジメられることも無く、友達もできた。
「でさぁ、色野駅に幽霊が出るらしいの。」
「えーマジ? 怖〜い。」
「今度、幽霊見学しに行こうよ。」
「祟られたらどうするのよ?」
「お守りとか持っていけば、大丈夫だって。」
「そうかな?」
「大丈夫、大丈夫!」
幽霊見学ねぇ。私も興味があるけど、祟られるの怖いし。
「何の話をしているの?」
「ああ!百合先輩!」
「きゃー!百合先輩に会えるなんて!!」
腰まで届きそうなほど長い、艶々した黒髪を持つ黒田 百合先輩。
この高校の生徒会長で、女子からも男子からも人気がある、この高校のアイドルだ。
「先輩! 『色野駅に幽霊を見に行く』という内容について話していたんです!」
「色野駅に、幽霊見学? 私も一緒に行ってもいい?」
「先輩が? 是非とも! 歓迎します!!」
「せ、先輩が行くなら私だって!」
「あ〜ずるい!! 私だって!」
みんな一斉に『行く行く』コールを始めた。
……現金な人達だ。
「先輩、みんなが先輩と一緒に行きたいって…….。」
「じゃあ、みんなで行くと幽霊見学の雰囲気が崩れてしまうから、くじ引きで4人を選んで、私と一緒に行きましょうか?」
「くじ引きの準備をすぐに! 先輩を待たせる訳にはいかない!」
くじ引きを行い、選ばれたのは結局、色野駅について最初に話し始めた3人と……
何故か私だった。
色野駅の隣の駅である、菜垣駅が集合場所だ。
一応、お守りもみんな持って来ておいたようだ。
「楽しみ〜!」
「先輩と過ごせるだけで幸せ!」
そんな話をしているうちに夜になり、百合先輩も来た。
「お待たせー! 待った?」
「そ、そんなこと無いですよ。」
実は張り切りすぎて2時間ぐらい前に来た(何故か私はみんなに暇だからと、呼ばれた)が、百合先輩は悪くない。まだ集合時間の30分前だ。
「それじゃ、色野駅のホームに行こっか。」
改札で切符を買い、ホームに入る。
もう暗くなっているからか、人が少ない電車に乗り、色野駅に向かった。
電車に揺られながら、することも無いので今回一緒に色野駅に行くメンバーについて考えていた。
一緒に行くのは
樋口 香菜
赤川 奈々子
齋藤 美和
と、
渡辺 沙織(私)
黒田 百合先輩
ちなみに幽霊見学の言い出しっぺは香菜だ。
ちらりと4人を垣間見る。
いつもの3人グループは、おしゃべりをしていた。これから幽霊を見に行くことにドキドキと少しの期待を持っている様に見えた。
先輩は電車の窓から外を見てい電車の窓から外を見ていて、表情を読み取ることができなかった。
そんな事をしているうちに色野駅に到着した。
『色野ー、色野ー。』
そんな車掌さんの声を聞きながら私達は下車した。
「幽霊いるかな?」
「とりあえず、駅員さんにお話を聞きに行こう。」
みんなで改札口に居るはずの駅員さんに話を聞きに行く。
でも、いくら歩いても改札口が無いのだ。
それどころか、いくら歩いても人にも会わず、ホームの端に着くことが無かった。
「……ねえ、どうなってるの?」
「不気味すぎるでしょ。」
流石に、私も怖くなってきた。
「ねえ、香菜、もう帰ろうよ。」
と、言ってから気付いた。
……香菜がいないのだ。
「香菜、香菜!」
それに気付いたみんなが、香菜の名前を呼ぶが、香菜は見つからなかった。
「駅のホームから出られないし、人にも会わないし、香菜がいなくなるなんて。」
「興味本位で幽霊を見に来ただけなのに。……怖いよ。」
私もだけど、みんなは恐怖で、もう足が動かなくなっていた。
とりあえず、香菜の様に消えて仕舞わないように手を繋いでいることになった。
次の電車が来れば、必ず人がいるはずなので、そこまで待機する作戦だ。
……本当は、恐怖で足が動かないだけなんだけどね。
しばらくして、電車が来た。
「やった! 事情を話して、なぜだか分からないけど、出られなくなったホームから出させてもらおう!」
香菜がいなくなったことに不安は残るものの、この不気味な駅から出られることが嬉しかった。
ホームに停まった電車から、通勤帰りの人が出てきた。
……様に見えた。
出てきたのは、この世の物とは思えない物ばかりだった。
ドでかい包丁を担いだ老婆に、床につくぐらいに長い黒髪が、生き物の様にウニョウニョと動いている若い女性。
「ハハ、ハハハ、ハハハハ、ハーハッハッハ。」
狂った様に笑い続ける男性に、
「殺してやる、殺してやる、絶対殺してやる…。」
と、呟き続ける目が血走っている爺さん。
数え切れないぐらいの化け物が電車から降りてきた。
「きゃーーーーーー。」
そんな悲鳴が聞こえた方を見ると、目を疑う光景が見えた。
美和が、何者かに大きな口で食べられそうになっていた。
美和を今にも食べようとしていたのは、
百合先輩だった。
「先輩、何をしているんですか!」
奈々子が慌てて、先輩を止めようとした。
先輩は、血走った目をこっちに向けて、
「きゃーきゃー、うるさいんだよ。お前ら4人は、絶対に呪い殺してやろうと思ってたのに、よりによって、色野駅にまで来るなんて! 」
「許さない、絶対に。あいつら同様八つ裂きにしてくれるわ!」
そう言うと、美和を頭から食べ始めた。
美和の悲鳴が聞こえるけど、そんなのは、頭に入って来なかった。
この化け物達から逃げなければ、殺されてしまう。
そんな事しか考えられなかった。
逃げろ、逃げろ。
そんな本能を頼りに、恐怖でろくに動かない足を引きずる様にして、化け物達から少しでも離れようとした。
奈々子も同じ考えだったらしく、走り出した。
「逃がすものか! お前たちを殺さないと、死んでも死にきれんわ!」
後ろからこの世の負の感情を集めた様な声がする。否、呪詛を撒き散らしている。
「ぎゃーー。」
声がした方を見ると、奈々子が化け物に捕まっていた。
「3人目、捕まえた。」
そう言うと、奈々子を美和と同じ様に食べ始めた。
「ざおり、たずげで……。」
私は、この呼びかけに
……応じなかった。
走りながら、ポケットの中を探る。
そして、私の手には、お守りが1つ。
みんなもお守りを持っていたはずなのに、あの化け物達に殺されてしまった。香菜も、きっと、もうこの世にはいないだろう。
駆ける、駆ける。
震える足を動かして。
衝撃。
何が起きたか分からなかった。
でもそれは、一瞬。
足首を線路から化け物に掴まれていた。
……私も食べられるのか。
来るであろう痛みに備える。
でも、痛みはこなかった。
代わりに、足首を掴んでいた化け物が苦しみ始めた。
「厄介な物を持っているのね。」
私が持っているのは、役に立ちそうにないお守りだけだ。
他の荷物は化け物から逃げるときに捨てた。
私のお守りを見る。
大きく『身体健康』と書いてあった。
そこで、電車に乗っていた時の香菜達の会話を思い出した。
『見て、これが私のお守り!ピンク色でかわいいでしょ!』
『私のだって、はっきりとした黄色だよ!』
『こらこら、お守りの色で張り合わないの!』
『じゃあ、奈々子は何色なのよ!』
『私は赤よ!』
みんなでお守りの見せ合いっこをしていた。
みんなのお守りには、会話の順に、
恋愛成就
金運上昇
合格祈願
と、書いてあった。
その中で自分の安全を願うお守りは1つも無かった……。
「繋がった。」
みんなのお守りは、効果を発揮しなかった。
私のお守りは、効果を発揮した。
その違いは、お守りの御利益の種類の違いだった。
このお守りさえ有れば、私は化け物に殺される事がない!
「ふふふ、逃しませんよ。絶対に。絶対に、絶対に、絶対にぃぃぃぃ!」
逃げられるなら、後ろから聞こえる声なんて、怖くな……
「そのお守りには、抜け道が有るの。」
……え?
「ふふふ、アホで良かった。そのお守りの効果は『身体健康』。死後の事は関係ない!」
それがどうしたのよ。
「死んだ後に、その魂が私のもとに来るように呪いを掛けてあげる。そして、魂を永遠に喰ってやるわ! 魂は時間がたてば修復されるし、永遠に魂を喰われる痛みを味わい続けろ!」
そう言っている百合先輩が、妖しく、そして美しかった。
百合先輩の手が肩に触れた。
途端に、目の前が真っ暗になった。
「沙織。!」
意識が浮上する。
「う…ここは?」
「沙織。良かった。目が覚めたのね。あなた、駅のホームから落ちて電車にひかれたのよ。」
「電車にひかれた? あ、そうだ! 香菜達は?」
「残念だけど、他のお友達3人は、亡くなったって。あなただけ、奇跡的に助かったのよ。お守りのおかげかな?」
「お守り…。黒田百合先輩は?」
「百合先輩?誰のこと?」
「母さん、あの黒田百合先輩だよ。高校のアイドルの!」
「そんな人いたかしら?」
「え?」
「とりあえず、全治3週間の怪我なんだから、ベッドでおとなしくしときなさい。」
百合先輩のことを覚えていない?
「痛ぁ!?」
肩がズキズキする。
誰もいないことを確認してから、服を脱いで肩を見る。
痛むのは、百合先輩に掴まれた場所だ。
そこには、黒百合のタトゥーの様な物が刻まれていた。
私が最後に百合先輩を見た時のことを思い出す……。
最後に見聞きしたのは、
「ねえ、私の名前の意味を知ってる?
黒田百合。由来は黒百合。黒百合の花言葉は、呪い。
そして、色野駅の由来を知ってる?
逆に読んでみなよ。
この駅と私は相性が良いんだ。」
だった。
百合先輩sideも、製作中です。
なぜ、百合は4人をそこまで憎むのか。
噂の元の幽霊とは?
色野駅という名前がついた理由は?
今作の謎を解決します!
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連載中ライトノベル(ホラー要素なし)
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チートを封じられたから、俺は努力の天才を目指す(旧題 異世界転生したけど、何しよう?)
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