卒業式。
私は短縮でした……。
これより、〇〇県立〇〇学校の卒業式を行います。
聞き慣れた、教頭先生の声。
当たり前に、これまで卒業式は行われてきた。1時間半くらいの長い間、他の人が卒業証書を受け取ったり、覚えてもいないような校長先生の話を聞いたり……。
長いな〜、って思うことすらも特別なんだって知った。
国歌演奏。
演奏って何だよ。って突っ込みたくなる。
いつもは何も考えずに歌っていたのに。無くなってこそ、大事さに気付くものだ。
伴奏が、静かに流れる。
後ろに、在校生はいない。このご時世だもの。いた方がおかしい。
でも、やっぱり寂しい。
これまで卒業生を送り出してきたのに、送り出される時はいないなんて。なんだか損した気分だ。
保護者は1人だけ。兄は、両親2人に来てもらっていたのに。私はお母さんだけだ。
校歌演奏。
軽やかなリズムの校歌が流れ出す。全然心は弾んでいないのに。
卒業式特有の、あの寂しい感じも湧き上がってきやしない。皆そうだと思う。あのウイルスのせいで。寂しいより、悲しいの方が先に出てくる。でもやっぱり、友達と会えたことは嬉しい。卒業式がない学校もあるわけだから、良かったって思うべきなのだとも思う。
でも、悲しい。去年の人は普通に卒業していたのに。
校長先生の言葉。
舞台に校長先生があがる。
このご時世の中、卒業式を行えたこと、心より嬉しく思っています――。
今日の話は短かった。時間を短縮しなければならないからだろう。分かってはいるけど、“校長先生の長い話”っていうのももっと堪能しとけば良かったなって思う。
卒業証書授与。
各クラスの代表者が、舞台上にあがる。
今日そのことを知ったのに、よく関根さんできるな――なんて、尊敬しつつ受け取っているところを見つめる。
やっぱり、直接受け取りたかったな。
手渡しで受け取るから、卒業したんだなって感じるんだと思う。名前を呼ばれて、大声で「はい!」と返事をすること。皆に見られていることに緊張しながらも、舞台上で歩くこと。証書を受け取りながら、小さな声で校長先生に「おめでとう」と言ってもらうこと。
本当に小さなことだけど、その全てが「卒業証書授与式」なんだなって感じる。
代表者が証書を受け取り終え、わずか15分ほどで卒業式はクライマックスに突入する。
卒業生、お別れの言葉。
その声を合図に、皆が立ち上がる。
舞台にはあがらない。その場で立って、後ろを向くだけ。
2020年――大きな綾川君の声と共に、言葉が始まる。いつもより声が籠もっているのは、きっとマスクのせいだろう。
セリフ、覚えてるかな。ドキドキする。えっと、私のセリフは未依奈ちゃんの後と、轟君の後で……。なんせ、練習を3回しかしていないのだ。セリフの練習はたった2回だ。
まぁでも、全体で言うところは忘れてもマスクしてるからバレないかな……。なんて怠けた考えが頭をよぎる。いけないいけない。しっかりしないと。
あの時の言葉!
大きな声でセリフを叫ぶ。私の出番はここなんだと言うかのように。
そんなこんなで必死だったら、いつの間にか退場になっていた。卒業式の時間、およそ40分。
卒業生が退場します。
結局、卒業式に泣く夢は叶わず、あっけなく終わってしまった。
当たり前なんて無いんだと、感じさせられた40分だった。
人生も、こんなふうにあっけなく終わってしまうのだろうかなんて、不吉な考えが頭をよぎった。
感想お願いします。