8話 舞踏会で出逢った悪役の姫
「ずいぶん浮かれていますわね。両手に花のおつもりかしら?」
上から目線で話しかけられた女性を見ると、
初対面のはずがどこかで見たことがある顔付きをしていました。
大きな青い瞳に黄色の髪をぐるぐるに巻いていて、
いかにも令嬢と言う女性がその場にいました。
頭をフル回転に考えると思い出しました。
あ、乙女ゲームのパッケージ裏にいた悪役のスフィア姫ね!!
確か設定ではリリアナの友達でもあり、ライバル的な存在でした。
きっとスフィアさんも親しいと思いますので、友達の感覚で挨拶をしました。
「あら、スフィアじゃない。久しぶりね」
「久しぶりですわね。リリアナ」
輪の中に入るようにスフィアが入ってきて、
テーブルの上にあった大きな苺を掴んで私に話しかけてきました。
「それにしてもこの前は驚きましたよ、
貴方が車にひかれたって言うんですから心配しましたわ」
そう言って苺をパクリと食べてました。
ごめんねと謝ると「別に心配なんてしておりませんわ」と返されました。
うんうん。どうやらツンデレさんみたいです。
スフィアがワイングラスを近くを通りかかったスタッフさんを見かけ、
ワイングラスを片手にひょいっとつかんで一口飲んでいました。
「ふーたいしたことない白ワインですわね」
文句を言いながらも飲んでいました。
踊る前の立食パーティーをみんなで楽しんでいると、
スフィアの様子が変わっていたので違和感がありました。
「ふふー、リリアナはほんとに可愛いねー」
スフィアの顔が少しだけ火照っていました。
口調も少し違うので違和感があります。
もしかして・・・酔っ払ってる? 私は尋ねました。
「ねースフィア、そのワインってノンアルコール?」
「うん、多分ノンアルコールでしょー」
スフィアがグラスに入っているワインを飲み尽くしてテーブルに置くと、
ふらつき始めました。
「あれ・・・?」
「スフィア!!」
「危ない!!」
倒れそうになった所をロイスが支えたので、なんとか床に倒れ込むのを防げしました。
危なかったです。やはり、間違えてアルコールが入ったのを飲んでしまったみたいです。
スフィアったら何も聞かずに運ばれていたワイングラスを手に取るんだから・・・。
少しだけ騒ぎになったもののロイスがお姫様抱っこするようにスフィアを運び、
安静にさせる為に休憩室に連れて行きました。
ザード様もリリアナを心配していましたが、
立食パーティーとこの後行われるダンスをする事にしました。
◯
「んー・・・」
頭が重いような気がしますわ。
目を覚めるとソファの上で横になっていた。
あれ・・・なんで私こんな所で寝てるのかしら?
「お、目が覚めたようだな。大丈夫か?」
誰かに声を掛けられたので振り向くと、私のそばにロイス様がいました。
「えっ!? ロ、ロイス様!?」
ロイス様の前で横になって寝てるなんてはしたない・・・焦って起き上がろうとすると、
ロイス様が私の肩に手を置いて「まだ安静にしていた方が良いですよ、スフィア様。
間違えてアルコールが入ってワインを飲んで倒れたのですから」と止められました。
なるほど、それでこの有様って事ですわね。
確かに、ワインを飲んだ時にいつもと感覚が違うなと思っていましたら、
そういう事でしたか。
ソファの上で座っていると、
ロイス様がティーポットに入っている水をグラスに入れて渡してくれました。
「水を飲んだら少しは酔いが醒めると思います。良かったらどうぞ」
「お気遣い、ありがとうございますわ」
いたって普通の水でしたが、ロイス様が入れてくれた水なので特別に美味しく感じました。
水を飲んで一息つきますと、ダルさが無くなりました。
さすがロイス様が入れてくれた水ですわ!!
グラスに入っている水を飲み終わり、グラスをテーブルに置きました。
そういえば、今何時くらいかしら?
時間が気になりましたのでふと振り子時計を見ると、7時30分を超えていました。
えーと確か、ダンスのお披露目が7時頃でしたよね・・・。
ロイス様に付き添いをさせてしまいしました!?
せっかくの舞踏会ですのに私の介抱の所為でロイス様のお時間が!!
私は焦ってしまいました。
「ロイス様、もうダンスが始まっていますわ。私の事は気にせずに会場に戻られていいですわよ」
あー私の馬鹿! せっかくロイス様と2人きりでいるのにー!!と、心の中で思いましたが、
ロイス様が「いえ、自分は賑やか場所は余り好きではないので大丈夫ですよ。
お気遣い、ありがとうございます」と返答されました。
ロイス様が付き添いをしてくれますので心の中では喜びましたが、悲しそうな表情をしていました。
「それに、リリアナが他の男と踊っている所を見たくないからな・・・」
「え?」
「あ、いえ、何でもありません。今のは忘れて下さい」
思ったことを小声で言い、我に返ったロイス様を見て思いました。
リリアナが他の方と踊っているお姿を見たくないという事はつまり・・・
ロイス様はリリアナの事がお好きって事ですよね。
だって、好きでもない異性が殿方と踊っても別になんとも思いませんが、
好意があると見たくありませんからね。
やっぱりロイス様はリリアナの事がお好き・・・そして本人に自覚があるか分かりませんが、
リリアナもきっとロイス様の事がお好きだと思います。見たら直ぐに分かりますわ。
でも・・・私もロイス様の事がお好きなんですの。
ですので私は提案をしました。
「賑やかな所が苦手でしたら、ここで私と一曲踊ってくれます?」
「スフィア姫と踊りを?」
私は誤魔化すため言い訳をしました。
「この部屋でしたら私達しかいませんので静かですし、
せっかく舞踏会に来ましたの踊らないで帰るなんて勿体無いですわ!
それに私、ちょっと身体を動かしたい気分ですの」
そう言いながら部屋の中を歩き、ドアを開けて振り返りました。
「ドアを開けましたら、音楽もちゃんと聴こえて来ますわ」
そう言うとロイス様が「スフィア姫がお望みでしたら、一曲お付き合い致しましょう」
と手を差し伸べたので、私もロイス様に手を差し伸べました。
誰にも邪魔される事のない静かな踊りと、
かすかに聴こえてくる音楽に合わせて踊りました。