決まってるだろう 2
まだ続きますです。。
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「本当に頭が悪いとしか思えないぜ、兄ちゃん。そんなものに一万五千円も払うなんて」
「良い女だったからな。騙されてやるっていっただろ。それに千円返ってきたんだ、安いもんじゃねえか」
「千円返ってきたって発想が――まあ、おいらは何も言わないけどよ……」
異様な男は煙草を吸いながら、手帳のようなものをみていた。
「なんだ、ガキ。言いたいことがあれば言えよ。しかしこの手帳、今日の日付が書いてあるな」
「日めくりカレンダーのようなもっていってたじゃねえか。あのババア」
「そのカレンダーというものがわからんのだが……」
「みょうちきりんに普通の言葉は都合よくわからないんだな、兄ちゃんは。暦のことだよ」
異様な男は「暦?」と、その異様な目でその手帳を穿つほどに見るのである。
「暦としても、これのどこが占いなんだか俺にはわからんぞ」
可憐な少女はため息をはき「本当に人の話しを聞かないな。騙されやすいやつの特徴だぜ」と前置きをして、
「今日の日付の他になんか書いてあるだろ。それが未来を見てきたもんの予知なんだと、あのババアはいってたじゃねえかよ。頭の不自由な異常性欲者の兄ちゃん」
「お前、言葉悪いにも程があるぞ……」
異様な男は少女から少し距離をとる。
「言いたいこと言えっていったのは兄ちゃんだぜ。それに、頭が悪いのより言葉が悪いほうが幾分ましだぜ」
「あーそう、ふーん」
異様な男は煙草を噛む。そしてイラついたように水筒を煽る。
「そんなどぶ水、よく飲めるな。味覚障害もあるかもな、はは、兄ちゃん」
「ああ、そう。ふーん」
可憐な少女は距離をつめ、異様な男の袖をつかみ「なんだよ兄ちゃん。すねてんのか? 言いたいこと言えっていったのは兄ちゃんだぜ」
「あっそう、ふーん」
「なんだよ……」
少女はなぜか焦る。
「兄ちゃんらしくないぜ。つまんないことで、すねるなんて」
「ああ、そうか、ふーん」
少女はさらに焦る。「に、兄ちゃん、酒場行こうぜ。おいら、いくらだって釜飯や鍋物のしいたけ食べるからさ。兄ちゃんは好きなもの食べて、飲んでいいぜ。コーヒーなんて飲んでるからイラつくんだ。なあ兄ちゃん」
「あーそうだな、ふーん」
「に、兄ちゃん……」
異様な男は可憐な少女のほうを見ず、手帳ばかり見ている。
そして可憐な少女は、
「わ、わたしも、たばこ、すってみようかな」
男の袖に手をつなぎながら顔を赤らめて言うのである。
「あ? なんか言ったか?」
異様な男はそこで少女のほうを見る。
「たばこ、吸ってみようかなって……」
異様な男は眼を眇めて、
「未成年はすっちゃあいけねえもんなんだって知らないのか?」
当然のように言う。
「は?」
「急に何を言い出すかと思えば。煙草は大人の嗜好品だぜ。まったく、そんなことも最近のガキは知らないのか」
可憐な少女は俯き、そして顔を上げ、男の膝に蹴りをかました。
「あ痛、なんだよ急に」
「兄ちゃんは本当に人の話しを聞かない、と思って」
異様な男は開き直ったように「聞いててもわからんことのほうが多い。だから俺は適当に聞くほうが生きやすいじゃねえかと思うぞ」なんて言う。
「そうじゃねえよ、くそ」
少女は背を向け歩き始める。
「言葉の悪いガキだな」
「そうだ。で、なんて書いてあったんだ。その日めくりカレンダー」
少女は向けた背を返し、その顔は安堵を含んだよう優しい顔で尋ねる。
「それがよ、これ。おみくじなんじゃねえかって」
「おみくじ?」
異様な男は手帳を見せ、
「今日の日付の下にな」
「失せもの 男子の知る事にあり とあるんだが」
異様な男はそしてさらに考え込むのだ。
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