決まってるだろう 8
もう今すぐ寝ないと明日がやばい! もうちょい続きますです。この話し終わったら『僕は異世界に行かない』を書き始めます。
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「ああん! あの占いがインチキだと!」
異様な男は激昂していた。手の中でピストルを吟味する可憐の少女に、
「あたりまえだろう、あんなの予知でも何でもねえし、ただあたりまえに、適当なこと言ってただけだ」
「どういう意味さ、この日めくりカレンダーとやらの薬効が、効いていたのは本当の話だぜ。あと、あの斬れた片腕からピストル盗み出してたのか。ずいぶんと手癖の悪い幼女だな」
可憐な少女は笑い、
「ババアより、幼女のほうが生産性あるぜ。もう、アガッてる女よりは」
「お前が政治家なら俺はお前のこと、たぶん嫌いだぜ」
「でも幼女だぜ?」
「はあ、知識の偏ったガキとしか、言えないわ。この世界はもっとさ、好きなように生きてそれで線別もなく、なんというか、ふんわりとしたもののほうがいいぞ」
異様な男はの言葉に「やっぱ兄ちゃんは優しいな」なんて言葉を言う。
異様な男はにらむ。
「どこがだ。俺は弱いものを殺す」
幼女は笑って、
「その自覚もなく弱者を殺すやつも多いのさ。その自覚があるだけでも、この世界では優しいほうだぞ」
にひひと笑って、
「はん、ところで。あの占いがインチキってどういうことだ」
「たぶんさ、そろそろなんだよな」
「何が」
「世界の終わり?」
可憐な少女「この世界はいい加減だからな」とピストルをかあっちこっちに構え、
「未来を見る権利って、何だと思う。兄ちゃん?」
可憐の少女の問い、それは難題であるようで、禅問答のようの。
「そんなもん、未来が見えるか、行けるかしないと……だめなんじゃねえの?」
「それがよ、もし、ちょっとでも、未来が見えたらこの世界制服できるぜ。まじで」
「あん、どういこことだ」
「例えば剣だ。相手が何打つかわかってれば、勝つだろ?」
「それはそうかもしれないが……そうはいかないぞ」
「兄ちゃんのあの戦い方は、そういうたぐいのインチキだろ」
異様な男は驚いた顔をした。
「なんだ、あの会話聞こえたのか」
可憐な少女はおきまりに手を後ろに組んで、そしてそっぽを向いて、
「心配だっらからな。兄ちゃんは強いが、それ以上のやつもいることを知っちまったんだ。だから戦いの近くで見ようと思ってさ。だいぶ察知されないくらいにはだが、近くにいたんだぜ。守護霊のように」
異様な男は真っ先に頭が浮かぶ。あの闘いを。
「おまえ、あの時ふざけた様子だったじゃねえか」
「うるせえ……警察こないか見てて遠くにいたし、それに発達障害あるかもな」
異様な男はすぐに浮かぶのだ。あの顔、前髪は狂気のマナコを隠し、端正ながらもアバタ面、大男の、上段の使い手を。
「そんなことはいいんだがよ、どうしてあれが、俺の誘いだと分かった?」
「知らねえが、あれは袈裟斬りとやらを誘ってるようにしか聞こえねえぜ。兄ちゃんは静かに戦うとかいってたが、全然静かじゃねえんだもん」
「まあ、静かに戦うつもりだったが」
「戦いに静かも糞もない。身体が動くなら心も動く。それはどうしようもなく、不動心を謳う剣道を習った俺でも、思うんだよな。心を無にせよといっても、そんなことはありえない。そんなこと、決まってるだろう」
「それよ、決まったことしかない。この世界にはな。たぶん未来も決まってるんだろう。変えるなんて大変さ、きっと。そんな世界で未来が見えたら、剣の世界じゃ無敵だろう?」
「そらそうだ。相手の打ち手がわかれば負けない。決まってる」
「それよ、だからババアも決まったことしかいってねえんだよ」
「どういことだ」
「簡単な話だ、兄ちゃん。おいらは今ピストルをどっちの手に持ってる?」
「左だが」
「このピストルが大きくなかったらわからないだろう?」
異様な男は煙草を出し、吸い始めて、
「確率の話は苦手だが、そういう話を始めるのか」
「まあ、知的に問題のある兄ちゃんでもわかるだろ。例えば片手に、千円、もう片手に五千円をいれとけば、対外あたるぜ」
「でもよう、あのロンピの女はいくらでも取っていいといったぞ」
少女は笑って、十円だまを右手に出した。
「もう一度聞くぜ、おいらは今、どっちの手にピストル持っている?」
異様な男は訝しんで、
「そら左だが」
「じゃあピストルを取ってっください」
「ああん? もののふがとるものじゃねえだんだがな」
「戦国時代は当たり前に使ってたのに、何で偏屈に武士の生きざまは歪んじまったのか」
「まあいいや、それでこのタネは?」
少女は十円を投げ捨てて、
「十円が残りました」
といって、
「全然説明になってなってないぞ! 投げ捨てたし! わけわからん」
「まあ二択で話すとわからんはな」
と、少女は呆れた顔でいい「あの時このタネを明かしてやればよかったんだがな」とため息を吐き、「兄ちゃんが滑稽だったから話さなかったぜ」と笑う。
「いいか、あのババアは恐らく千円札と五千札を握っていたんだ。兄ちゃんは千円札をとったが」
「俺が一万円札を取ったらそのタネは成立しないんじゃないか?」
「じゃあ一万取った。で、あの女は決まったようにいうぜ」
少女は、少女らくない妖艶なものを含んだような、しかしそれは演技的で、そんな笑みを見せて、
「もう一枚取ってください」
「それで」
異様な男は笑いだした。こらえきれないように笑う。
「俺が五千円札取るとどうなる?」笑いながら、煙草をくすぶらせて、
「あたりまえだ。千円札が残りましたというんだ。そして私はそれを予言していましたといってくしゃくしゃの千円札を出す」
「俺はそれで信じるほど馬鹿じゃないつもりだったが、なるほど、そのタネなら何枚とっても成立するな。お返しするうんぬんもそのブラフか。全部、とったらお帰りくださいといえばいいだけ」
「そうだぜ兄ちゃん。丁半いう博打よりも博打してない勝負だ。確率的に」
そしていような男は日めくりカレンダーを懐からだしめくると、「おお!」と嘲りの含んだ驚きを見せる。
「明日には世界が終わってるぞ! 日にちも曜日も、おみくじも書いてない! 世界の終わりを意味するのか!」
「ただあのババアが書き疲れてやめただけだな」
「はは、下らねえ、まあそんあもんだよな、俺の世界って。はは」
異様な男は空を見て「しばらくこれに縛られたなんて、俺は馬鹿だな」
「そうかもな」少女は間も置かずに言う。
「ああ、やられた。俺は確かに旗本の長男でもないしな」
「違ったのか、なんでそれであんなに熱を浮かしたんだ?」
「知らん、出生はいわん」
可憐な少女はふわりと飛ぶ。そして妖精のように笑って。
「たぶんだけど、目つき最悪の兄ちゃんが、どうしようもなくダメなんだけど、育ちだけは良いことはわかるんだろうな。女って」
異様な男は新たな煙草を吸い始めて、
「兄ちゃんの性格ってまるわかりなんだ。馬鹿なんだ。それで小賢しくないんだ」
「それって社会になかなか適合できないけどいいことだと思うぜ」
まあいいや、といような男は可憐な少女の言葉を切り、
「俺にはもう一つ仕事があるんだ」
「仕事もしてないやつがよくいうぜ」
「うるせえな、とにかく武士としてやっとかなきゃならんことがるのだ」
そういって、異様な男は手をわきわきとする奇妙な動作をするのだ 。
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