職場恋愛というものは、覚悟と情熱がなければ長続きできない
出会いのない仕事柄のせいなのか。
ぼくの職場では、職場恋愛がかなり横行していた。
割合でいったら、一対三くらいの男女率だった。
言わずもがな、一が男性の数だ。
既婚者も職場で出会った相手同士であったり、男性陣の実に半数以上が職場内に彼女がいた。
本人達は隠しているつもりらしかったが、どちらか一方の態度に出ていたり、目敏い先輩方に当たりをつけられたりされており、隠せていない人が多かった。
「見て、また▽▽ちゃんと▽▽くん同じ日に休み希望出してる。デートかな?」
「デートは良いんですけど、本当、仕事に私情持ち込まないでほしい。デート前とか浮かれまくって仕事になってない。▽▽くん、ちゃんと注意してほしいんだけど」
「注意といったら○○ちゃん、休みがちだけど。○○くん声かけてるのかな?社会人として無断で休むとかないわ。デート土産とか買ってこなくていいから、ちゃんと仕事してほしいわ」
「△△くん仕事ミス増えたけど、△△ちゃんと付き合い出してからだよね。あれ、いいのかな?周りの空気悪いから何とかしてほしい」
「□□さん、今度は□□ちゃんと付き合いだしたらしいよ。□□ちゃん、大丈夫かな?前の子みたいに辞めることにならなきゃいいけど……」
等といった話題の提供者として、職場恋愛の方々は槍玉に上がりやすかった。
なまじ問題が目につくから、余計にというのもあると思うのだが。
他人と距離を置きがちなぼくの耳にまで入ってくるのだから、きっとその振る舞いは相当目につくものだったのだろうと思った。
もちろん、関係を隠しおおせている人もいた。
そういう人達は仕事に目立ったミスもなく、職場であまり顔をあわせない、もしくは会っても態度が変わらない人達だった。
こういったことから、職場で付き合う相手を見つけようとするのはなかなかにリスキーなことだと判断せざるをえなかった。
ぼくのように「頑張って好きになれる人を見つけてみるか」程度の考えの人間が、気軽に手を出して良い相手ではない。
下手に態度に出て先輩方に勘ぐられたり、ミスをすればセットで責められたりするのだ。
付き合っているというだけで、痛くもない腹を探られて二人の付き合い方を想像されたり、職場恋愛の人だと色眼鏡で見られたりからかわれたりする確率が高くなるのだ。
そもそも、今までだって一緒に働いていても「良いなぁ」と自然にそういう気持ちが湧いてくることもなかったのだから、そういう対象として見れないのだろう。
ぼくは職場で好きな人を見つけるという可能性は、最初から破棄していた。
しかし困った。職場と家の往復しかしていない生活では、出会いがない。
一体どこで出会えばいいというのだろう。
ぼくはまたしても難問にぶつかったのだった。
(表題の件。
何故覚悟が欲しいかというと、最悪の事態を想定した結果の判断となります。
先輩や同僚達にからかわれる可能性や、ミスの理由を恋愛に絡められる可能性があり、自分だけの問題ではなく相手まで巻き込む事態になることもあるからです。
もし彼氏が姿の見えない相手なら、どういう人と付き合ってんのかな?と勝手な想像はされても、君の彼氏はこうだもんね!と決めつけられて責められることはありません。
結果、精神的に被るストレスは、具体的に指摘を受けるよりは軽いものとなります。
その可能性を考慮しても付き合いたいという覚悟、それをされても我慢できるくらい相手のことが好きだという情熱があるなら、きっとお付き合いも長く続けられるのでしょうね。
と、個人的に思いました。
残念ながら、ぼくにはその覚悟も情熱もありません。)