舞踏会に忍び込んで(前編)
久々の投稿。みなさん勝手に僕を殺さないでくださいね。
世の中大変なことばかりですが、今後も不定期で投稿するつもりです。
よろしくおねがいします。
「トラップハンターが始まりたがってるんだ」
この世界に来る前は、海にとって「異性」というのには、とうぶん縁がないと思っていた。それもそのはず、海は寮生活を行っていたため、女性と関わるのはクラスの数人しかいない女子、教師、買い出しのときに出会うおばさんくらいだった。
しかし、今は海の周りには多くの女性がいる。しかもとても可愛らしい。男のことなど知らない女しかいなくて、花園と言っても過言ではない。もし、海が狼のごとくだれともイチャイチャするのであれば、今頃何人の娘を手にしたのか数えられないくらいになっているのだろう。海はそのような人間ではないが、それでも一人、二人くらいには好かれてもいいのではないかと、心の片隅で思っていた。このようなハーレム状態では、いくら鈍感でまぬけで自分勝手な海でも取り返しのつかないところまで(行くところまで)行ってしまっているに違いない。
と、ここまで海の心の底を探ってみた。現実は男性陣(主に二次元に走る者)が想像するほどの「完璧な女性」というのは存在しない。たとえ、見た目がとても美しくても……。それでも海にとっての「付き合いたい女性像」というのは「一緒にいつまでもいたい人」である。要するにきれいだけでは付き合う理由にはならないという海ならではのプライドがあり、この条件に達した者であるならば、たとえ「完璧な女性」ではなくても可能であるということである。文字にすると、とても偉そうに聞こえ、「自分みたいな野郎がそんなことを……」と感じ、萎えるのであった。
海の近くにいる女性のなかで、「シーア」という女性だけは、何かが引っかかったのだった。この感触は初めてであり、これ以上は踏み込んではいけない気がしていた。
(あんなに喧嘩したのに……)
意地を張っている自分が何故か情けなく思えてきた。
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「グヘェッ!」
誰かに腹を蹴られて、海は目が覚めた。
よく見るとシーアが海に背を向けて寝ていた。多分後ろ脚で蹴って来たのだろう。
(なんだか全身が痛いような……)
いつもならマットの上で寝ていたものだから、いざなくなると、背中や横腹にゴツゴツした地面の石がテントの布越しに当たってくるのである。
(そりゃあよく眠れないわけだ)
海は頭の後ろで手を組んだ。
「………………」
なんかすごいシーアが睨んでいた。
「痛いんだけど」
「マットがないからでしょ。誰かさんのせいで」
「んなっ!」
シーアは怖い顔をしながら腕を海の方へと伸ばしてきた。
「なに?」
「腕貸して」
「なんで」
「いいから」
(何がいいからだ!)と思いつつ、海はシーアの方へと腕を伸ばす。
(……ッ!)
急に近づいたと思ったら、シーアは海の腕の上に、頭をのせた。若干香る、シーアのニオイ。海はその香りをかぐだけでドキドキしてしまった。
シーアはいつの間にかスースーと寝てしまっていた。
「……バッ!」
(……ッカ、何してるんだ!)と言いたくなったがやめた。なぜならこの状態が嫌いではない自分がいたからだ。(いや、むしろ幸せ?)
~数分後~
(……バカー)
海はこの状況が幸せであるとは感じなくなっていた。なぜなら、シーアの頭がのっている腕がもう限界になってきているからだ。プルプルと痙攣し始めた。
海はもう片方の腕をシーアのほうへ伸ばした。シーアの頭を支えつつ、腕をはずすためである。
(よいしょ)と、シーアの頭に手が触れたとき、
「きゃあっ!」
と甲高い声がした。クロが起きており、ちょうど海が腕をシーアに伸ばしているところを見られたからである。
「……えっと、あのー、そのー……お幸せに?」
「ッバ!ちょ!違うんだ!」何が違うのか自分では分からないが。
シーアの後ろ辺りから声がした。
「うわー……積極的だねー……」
シルキーだった。
「あ、気にしないでどうぞお続きを……」
「って、できるかぁ!」
「すごいな。最近の若者はここまでやるのか。それとも『男』の本能か?」
ヴェオラさんも起きていた。そしてまじまじと見ていた。
「……えっとー」
「ほら、そのままおでこにチューだ」
「いけいけぇ!」
「はわわわわー……」
恥ずかしくてシーアの方を向けられなかった。それでも腕が痛いのは嫌だったので、シーアの頭を持ち上げt……
「「「あっ……」」」第三部隊の声がそろった。
「……え?」海はシーアの方をとっさに向いた。
シーアが目を覚ましていた。
そして眉間にしわを寄せていた。
「えっとねー、落ち着いて聞いてねー、あのねー、俺の腕がねー、もうねー、プルップルッしてねー、もうねー、痛いからねー、腕を抜こうとねー、したところなんだよねー………」
様子をうかがう。
(あ、タメにはいったな。おわったな)
第三部隊たちが抑えようとしたが遅かった。
「なんで触ろうとしてんだぁぁぁ!!!この変態スケベ野郎!!!」
海のみぞに蹴りが入る。
「グヘェ!」
勢いでテントの隅にまで転がる。(まあテントはそこまで広くないのだが……)
海は腹を抱えてバタバタともがく。
「ドウドウ、落ち着けって」シルキーがシーアを抑えてくれた。
「海の奴っ!私に何をしようとしたのっ!」シーアはまだ興奮している。
「そ、それはー……」シルキーがそっぽを向く。
「ええっとですねー……」クロが後ろを向く。
「キスをしようとしていた。」ヴェオラさんだけ話した。
(ヴェオラさぁん……)
「んなっ……。」一瞬でシーアの顔が赤くなる。
このあと、テントの外までシーアの怒号が飛んで行ったのは、言うまでもない。
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「まったく。最近の海ってきたら変態なことばかり!」
シーアは怒りながらマアカさんに話す。
「まあ、でもそれは本人が悪意を持ってやったわけでは……」
「悪意そのものよ!」
と大声で言う。
マアカさんは朝早くから第七部隊の拠点に来てくれた。テーブルの上には家から持ってきた紅茶と焼きたてパンがあった。第七部隊の予算はだいぶ少なく、朝食にでているサラダやセウト肉のハムは第五部隊から安く買ってきたものである。しかしこれでも経営は赤字であった。
「はあ、しかも第三部隊にもご飯を上げないといけないとは……」
第七部隊の経営はすべてミライさんに頼んでいる。トムさんやミケは狩ったダウンを市場まで運びお金を貰ってきている仕事をしている。ちゃんと役割分担がされていた。これもミライさんのおかげである。
「……海くん、おはよぉ」
目をこすりながらかえでちゃんがきた。
「あ、ああ、おはよう」返事をする。
(うわわわわわ!!!久々にかえでちゃん見たわー!JCだよJC!っていうか、これパジャマ姿じゃない!?うひょー!っていかんいかん。こういう感情をもつからシーアから悪口言われるんだ。あいつめっ!)
海はシーアのほうをむいて睨んだら、首を横に振って気を取り戻す。
「ふぇ!?お、おはようございます……」
かえでちゃんが第三部隊の3人組に慌てて挨拶をした。そういえば、かえでちゃんは第三部隊とは初対面だった。
「おはようございます」ヴェオラさんが丁寧に挨拶を返した。
「マアカちゃんは用事特にないんだっけ?」シーアがマアカさんに話す。
「ええ、連休ですので特に用事がなくて、心配ないのですが」と、マアカさんは言いながら海の方を向く。
(俺?)
「海さん、あなたが心配なんです」
「おr、ぼ、僕が何かしましたでしょうか?」
「学校のことなんですっ!」
「へっ?」
「あなたの成績が、クラスで断トツ悪くて……」
「うっ……」
「先生に言われませんでしたか?今度の定期試験でいい結果がでるようにこの連休中にしっかりと勉強をしていなさい、と……」
「そ、そういえば言われていたような……」
「海さんは学園で、いや、この国で唯一の男子生徒なのですから、成績が落ちこぼれていると、学園の評価が下がってしまうのです!」
「海!勉強してなかったのか!」トムさんがしゃべる。
「勉強はどこの世界でも大事なのよ!」ミライさんもしゃべる。
「海ぃ!こんど教えてあげようか?」シーアがあおる。
「勉強できニャいって、海くんもダメダメだニャ!」ミケもしゃべる。(いや、お前に一番言われたくなかった)
「え、でも、『舞踏会』でプリンセスを助けないと……」
「あなたが落ちこぼれて、この部隊の評価が下がったら、示しがつかないじゃない。」
「そうだよ。ここは私たちに任せて!」やけにシーアがまぶしくみえた。
「海くんは私が家で面倒をみます。」マアカさんがみんなに向かって言う。
「それじゃあその『プリンセス救出作戦』には誰が行くの?」
「海は役に立たないから勉強してて」シーアが海に指をさしながら言う。
「なっ!」
「しょうがないじゃないですか、これ以上成績が落ちると皆さんに迷惑を掛けてしまいますから。」
マアカさんが言う。「そうよそうよ」と、シーアは縦に首を振っていた。
「はあ!?なんで俺だけが!?」
「海は一番の役立たずだから大人しく待っていなさい。足を引っ張っても困るしね」
「っな!?そこまで言わなくてもいいだろぉ!そんなこと言ったらお前だって落ちこぼれなんじゃないのか!?」
「私はクラスの平均を取っているから大丈夫なんですー」
「それは、お前のクラスではだろぉ!こっちは周りが優秀だから必然的に低くなるんだよ!俺がお前のクラスに入ったら、そこまで落ちこぼれてなんかいないんだぞ!」
「周りが優秀なら、なおさら頑張って勉強しないといけないのに、してない海の自業自得でしょ」
「むかぁぁぁ!!!」
(ああ、またか……。)と思いながら、ミライさんは自分のノートを見ながら頬杖をつく。
「そうすると、ミケとデイビットは確実に第三部隊と共に出勤だね」
ミライさんがしゃべっていた「デイビット」というのは誰なのか、第三部隊のクロとシルキーは首をかしげた。
「あとー、かえでちゃんはどうする?」急に振って来たのでかえでちゃんはおどおどし始めた。
「あ、それならいいアイデアがある!」とシーアが元気よく手を挙げた。そして小声で第三部隊らに話しかけた。海はシーアが何を言っているのか聞こえなかったので近づこうとしたが、いつの間にかマアカさんに抑えられていて、動けなかった。
(な、マアカさん聞かせてよ!…………ていうか、胸ェ!なんか柔らかいものが俺の背中に当たっている!)
マアカさんは気にしていないようだった。
「よし、そしたらさっそくそれを元に作戦会議だ!」トムさんが気合を入れる。
「「「おおおぉぉーーー!!!」」」
第三部隊の三人組やミライさん、シーア、ミケは声を合わせた。かえでちゃんだけは恥ずかしそうに、心の中にこもってしまっていた。
「ちょ、俺も仲間にいれてよー!」海がもがく。
「はい、海さんは勉強道具を持って、私のおうちに行きましょうねー。」
「そんなー…………。」
シーアはニヤニヤと笑いながら海がマアカさんと一緒行くのを見ていた。軽く手を振りながら。海はシーアに怒りを感じていたが、すぐに見えなくなってしまった。
「海さん、そんなに行きたかったのですか、お城に」
「そうじゃなくて、心配なんだよ」
「シーアさんがですか?」
「……うっ、うん」
「大丈夫ですよ、周りには心強い味方がいますから♪海さんは心配しないで勉強に集中してください。」
「わ、わかった……」
『心強い味方』という言葉を聞いて、海は納得していた。
しかし、心配していたのは海だけではなかった。シーアもだった。
シーアは誰よりも海のことが心配だったのだ。
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シーアが思いついた作戦はこうだった。
「かえでちゃんとプリンセスを入れ替える」
プリンセスは二人とも、かえでちゃんと同じくらい小柄な体型であるので顔や髪を隠せば、見た目は変わらないという。
「そのためにはプリンセス自身に了承を取らないと」ミライさんがいう。
「それに、どうやって取り換えるんだ?誰かに見られたら困るんだろ?」トムさんが聞いてくる。
悩み混むシーア。すると、第三部隊のヴェオラさんが口を開く。
「それには確証がある。実は我々はプリンセスさまの護衛を頼まれているんだ」
「えぇー!」
「舞踏会の初めには『女王様のお言葉』があって、そのときにはステージのそばで立っていないといけない。その後、大商人や銀行関係者、財閥の関係者など偉いかたのお言葉があった後、食事会兼舞踏会が始まる。例年だと、プリンセスの一人、『ヒアシス王女』は一度部屋に戻って、着替えを済ませてからでるのですが、『ナーシス王女』はそのまま部屋にこもったまま、出てきません」
「そういえば、ナーシス王女は人見知りだと聞いたことあるな……」シルキーが言う。
ふと、みんながかえでちゃんの方を見る。後ずさりするかえでちゃん。パッと肩をつかまれる。後ろにはいつの間にかシーアがいて、
「かえでちゃんは『ナーシス王女』役に決定!」とみんなに聞こえるように言った。
かえでちゃんはびっくりしたが、(ええぇ!)という叫びは心の中で行った。
トムさんが口を開く。
「で、もう一人のフ、ハ、ヘアス……」
「ヒアシス王女さん!」とミライさんが言う。
「そうだニャ!プリンセスは二人いるんだニャ!」ミケが声を大きくして言う。
ミライさんがみんなを見て、「シーアちゃんと第三部隊のみんなは体型が大きいし……」
まるで「太っている」と言われたように聞こえ、シーアは(あとシルキーも)不服な顔をする。
「私は背が高いし、デイビットはそもそも体型が違うし、ミケはばれる可能性が大きいし……」
「ニャ!?」ミケも不服な表情を浮かべていた。
「…………」
みんなが黙り込んでしまった。
「……あ」シーアの頭の中に考えが浮かんだ。
「何か思いついたの?」
「リリーちゃん!ほら、セウトを取るイベントのときに、私たちと一緒に参戦してくれた!」
「あー!あの子か!早速相談してこよう!」
シーアが立ち上がる。
「じゃあ、私今からミーナちゃんのところに行ってくる!多分近くにいると思うから!」
「ああ、頼むよ」
「よろしくお願いします」
「プリンセスの、いや、この国の運命がかかっています!」
第三部隊の三人はプレッシャーをかける。
「は、はい……」
ふと、トムさんが顔を上げる。
「そういえば、舞踏会って何時からだ?」
「今日の18時ごろと公表されています。」ヴェオラさん答える。
ミライさんが腕時計を見るとあまり時間がないことが分かった。
「シーアちゃん、確実に取ってきて。これがラストチャンスになるかもしれないから」
「分かりました!」
「あと、デイビットは車の手配」
「あ、馬車ならありますよ。私たちが事前用意しておきましたから」ヴェオラさんが言う。
「いや、馬車だと遅い。エンジンじゃないと。」
「わかった。免許証ないけど、緊急事態だ。仕方がない」
といって、トムさんが立ち上がる。第三部隊にとって、「エンジンの車」というのは聞いたことないワードだった。
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「お願いしますっ!」シーアはリリーちゃんに頭を下げた。自分より学年が上の先輩が突然してきたので、戸惑ってしまう。(滅相もない!)という表情だ。
「はっはっは!よかったなあリリー。お前の夢が今晩でかなうぞ!」
隣にいたミーナさんが大声をあげる。
「え?夢?」シーアが聞く。
「そうなんだよ。リリーの将来の夢は『偉い人になって舞踏会に行くこと』なんだよ!まあ、偉い人ではなくて、偉い人の身代わりだけどな!」
「は、はあ。そうなんだ……」
リリーはうつむいてしまった。その動作がどうもかえでちゃんに似ているなと感じてしまうのだった。
「どうするんだ。行くの?行かないの?」
「ちょ、ちょっと、そこまで無理やりさせなくても……」
「い、行きますっ!」やっと顔を上げてくれた。やや涙目であった。
「そ、そう―――」
「そうかぁぁぁ!!!頑張って来いよぉ!」とミーナさんはリリーちゃんの背中をおした。
「は、ははは……」シーアとリリーちゃんは苦笑いをした。
「でも、どうして行こうと決めたの?」
「お?なんだよ。シーアからお願いしたのに」
シーアはミーナさんのほうを向きながら
「だって危険が付いているんだよ。もしばれたら、何されるのかわかったもんじゃない。」
「ああ……」
「そ、それでも行きたいんですっ!」
「え」
「私、これがチャンスだと思うんです!今の私の、いいえ、私の人生の!」
(なんかすごいやる気だなぁ……)とミーナさんは思う。
「確かに危険が隣り合わせかもしれませんけど……、それでもチャレンジしてみたいんです。私の心が、体が、自分自身が、そうしろと!」
「ふ、ふふふっ、はっはっはっ!それでこそ第六部隊だ!大丈夫!シーアたちにはとても頼れる仲間がいるから」
「ええ、そうよ!私の誇れる、自慢の仲間!」シーアは堂々と言った。
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「ああ、よかった。交渉できたのね」
リリーちゃんを連れてきたシーアを見て、ミライさんは安堵した。
「あとは、どうやって入れ替えるかなんだけど……」
ミライさんが話し始めたときにリリーちゃんはかえでちゃんのところにいって話しかけた。
「大丈夫?」
「わ、私、皆の足引っ張るんじゃないかって……」かえでちゃんは俯いていた。
「心配しないで、あなたたちには誇れる仲間がいる。たとえ失敗しそうになっても、仲間がサポートしてくれる。だから、信じましょう。仲間も、自分自身も。」
リリーちゃんとかえでちゃんは一生懸命に話を聞いている第七部隊のみんなと第三部隊の方々を見た。見ていることに気づいたミケは二人に向かって『グッド』をしていた。かえでちゃんとリリーちゃんはうなずいたあと、みんなの輪の中に入った。
「だいたいこんな感じだね」ミライさんが作戦をノートにまとめる。
「よーし、俺たちも用意しないと!」
「ええ、さっそくだけどデイビット、私の物置のところに行くついでに無線機も取ってきて」
「わかった。あと人前でデイビットって呼ぶな!」
第三部隊の三人組はここでやっとデイビット=(イコール)トムさんと認識した。
トムさんが行ってしまった後、ヴェオラさんが立ち上がる。
「私たちはお昼ごろには向こうに行っていないといけません。それまでにお二人がここに来ることができれば―――」
「大丈夫!ちゃんと送るから」
「そうですか……では宜しくお願いします!」
「くれぐれもプリンセス以外の人にはばれないようにね!」
「は、はーい!」
「よ、よろしくおねがいしますぅ……」
「頼んだよー!」
第三部隊の三人組はお城へと向かっていった。
「さてと後は服だね。シーアはいま服ある?」
「ジャ、ジャージならありますけど……」
「国の次期トップの方には着せられないわね。仕方がない、マアカさんのところに取ってきて。」
「は、はーい」
シーアはマアカさんのところに向かって行った。
「えっと……それでー……」リリーちゃんは自分を指さしながらミライさんに聞く。
「ウチも何か仕事はニャいのかニャ?」
「ふふ、ここに残った人はまた用事があるの」
「「「用事?」」」リリーちゃんとかえでちゃん、ミケが首をかしげる。
「ふふ、用事って言うのは―――
舞踏会だから、おどりの練習よ!!ミケは二人を手伝うの!」
(いやぁーデイビットに内緒でひそかに通っていた『社交ダンス教室』が今、役にたったわー♪)
ミライさんだけが楽しんでいた。
ミケの「えええぇぇぇー」という声が青い大空に向かって響いた。
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場所は変わってマアカさんの部屋。海はブツブツと言いながら怒っていた。
「ったく、なんで俺だけのけ者にされるんだよ。だいたい役に立たないからって、それをサポートするのが役割ってっもんだろうよぉ。みんなで助け合って、それで初めて成果というものがな!」
「海さん、黙って勉強に取り組んでください」
「でも絶対シーアは分かっていない!ミライさんを見習ってほしいよ!」
「教科書の52ページです」
「マアカさn、マアカもそう思わない?」
グサッ
マアカさんは海の右ももに鉛筆で突いた。
「あだっ!痛い!何をすんだyo……」
「52ページ」マアカさんが想像以上の恐ろしい顔で睨んでいた。(声が恐ろしい……)
「……は、はーい」慌てて海は数学の教科書をめくる。
「それに―――」マアカさんが話す。
「えっ?」
「分かっていないのは海さんのほうかもしれないです」
「どういうこと?」
「シーアさん、本当に海さんが役に立たないから、のけ者にしたのでしょうか」
「そ、そうじゃないの?成績が悪いのを理由に……」
マアカさんが首を横に振る。
「シーアさん、本当は海さんのことが心配で外したんです」
「ま、まさかぁー!あのシーアがぁ!?」
「そのまさかです。シーアさん、今日の朝早くにここに来ました」
(俺の腹を蹴ってからのときか……)
「実を言うと、今朝、シーアさんが私とかえでさんに今回のことを話してくれたんです。そして、必ず危険が伴うから、海さんだけでも、安全にさせれないのかと……」
「……あいつが」
「私と話し合った結果、『成績が落ち込んでいる』ということを理由に参加させないことにしました。それで、あのような子芝居をしたのです。そうすれば、海さんだけ、ひいきしているように、見えないから……」
突然立ち上がるマアカさん。
「すみません!本当はお城に行ってみんなの役に立ちたかったのに、しかも、海さんにあんな辱めを受けさせて……。シーアさんもひどいことを言ってしまいました……。でもそうまでしないと、海さんが心配で……その……」
深く頭を下げる。
「シーアさんの代わりも含めて、本当に申し訳ございませんでしたっ!!!」
プルプルとマアカさんの体が震えていた。
その姿を見て、海の心はとても深い、深い、闇の底へと向かっているような気がした。
「…………あ、謝るのはそっちじゃない……。俺のほうだぁ……。あんなに心配してくれたのに……、わざと安全なところにいさせてくれたのに…………、俺は、……俺は、……礼も言わずに……、……それどころか……、あんなに…………、ひ、ひどいぃことぉを、……よおぉうぅ、うっ、うっ、……。」
いつの間にか海の目には涙でいっぱいになっていた。
「お、俺、……ひ、ひどいことぉをぉぉぉ……してしまったっ、………シーアに…………俺は、俺こそがぁ、悪者だぁぁぁ…………うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
涙はぽたぽたと垂れてきて、鼻水も大量に出てきた。服の袖で拭っても、涙がなかなか止まらない。目の前に開いた数学の教科書の52ページはぐしょぐしょに濡れていた。こんな泣き顔は恥ずかしくて、恥ずかしくて……。それでも自分がやってしまったことが、情けなくて、情けなくて……。
海は机に突っ伏して泣いた。声を殺して泣いた。
それをそばで見ていたマアカさんは、どうすることも、できずにいた。
トントンとドアが叩く音が聞こえた。マアカさんは気を取り戻して、玄関に「はあい。」と言いながら向かった。
ドアを開けると満面の笑みをしたシーアが立っていた。
「シーアさんっ!」
「ごめん、今日なんか、綺麗な服が必要みたい。私、持っていないから。プリンセスに似合う服ってある?」
「あ、はあ……」
マアカさんは自分の服が置いてある自分の部屋に向かおうとした。
「勉強、はかどっている?」
「それが……」
マアカさんは海に今朝のことをすべて話してしまったことをシーアに伝えた。
「そうなんだ……。それで、海は?」
「その……」
マアカさんが自分の部屋のドアを開けると、まだ、めそめそと泣いている海がいた。この姿を見てシーアは驚愕した。
「海さん……。」マアカさんが呼び掛ける。
振り返った海は目の前にシーアがいて驚いた。目は真っ赤に充血していた。
「あ、あっと……その……」
「は、はーん。そんな泣き虫だったなんて。やっぱり参加させなくて正解だった!」
シーアは腕を組みながら、海の方を向かずに話した。
「お、俺、俺がすべて悪かったっ!!!ごめんっ!」
海は顔を伏せて謝った。
「ふんっ!誤ったって許さないんだから!」
と、言いながらシーアは後ろを向いた。
海が頑張って話す。
「あ、あ、あと、あ、あり、ありがとうございました」
シーアは少し黙った後、「ちょっとトイレ借りるね」と言い、急いで駆け込んだ。
(……シーアさん)
マアカさんはシーアは海とおなじくらい泣き虫であることは知っていた。声は聞こえないが、確実にトイレで大泣きしているにちがいない。
土下座姿の海の方を見ると、教科書とノートがぐしゃぐしゃに濡れていたことに気づいた。
ため息をつくマアカさん。
(はあ、これじゃあ勉強ができませんね)
笑いながら、マアカさんはそう思った。
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数分したら、マアカさんの母親が家に帰ってきた。服の件は任せてもらうことにして、マアカさんは海との勉強に集中することにした。服を仕立てた後、シーアはお礼を言って出て行った。
「シーアちゃんのお母さん、体調どう?」とマアカさんの母親が聞いた。
「ええ、おかげさまで。以前よりだいぶ落ち着きました」と答えた。
海はそれを聞いて、(シーアの母親は持病なのかな)と思った。
シーアが服を持って拠点に着いた時、ミライさんとミケ、かえでちゃん、リリーちゃんが変な踊りをしていたので、思わず笑ってしまった。
「もう、笑うニャー!!!」
「だって、そんなポーズ……、誰が見たって……、プププププッ」
「はいはい、喧嘩はやめて」とミライさんが手を叩きながら話した。
「あ、どうでしょうか、この服」
「おぉ!いいじゃん、綺麗で!」
「マアカちゃんのお母さんが用意してくれました」
「今度、私から会いに行ってお礼を言わないとなぁ」
と、話している途中でやや騒がしい音がした。
「あ、もう車が来たのかな?」
拠点の近くにある、崖の上から第三部隊のヴェオラさんが手を振っているのが見えた。
「よし、かえで、リリー、頑張ってきな!」
二人は元気な声で返事をした。
「「はい!!!」」
「―――と言ったけど………………、結構豪華だね……」リリーちゃんが言う。
「うぅ、緊張してきた……」かえでちゃんが身震いしながら言う。
「二人ともトイレは済ませた?」ミライさんが腰に手を当てながら話す。
「……ええ」「……はい」
「じゃあ出発だ!この服わすれないでね」
「シーアさんとミケさん、トムさんは後ろの方へ」
とヴェオラさんが手で指しながら言った。
「あれ、トムさんは?」
みんなでキョロキョロ首を回すと、西側の住宅街の方から、トボトボとやってきているトムさんが見えた。ミライさんは手を振って、トムさんを走らせた。
「ったく何してたの?」
「それが……無線機どこだか分からなくて……」
「はぁ!?なんで早く来なかったの」
「……探さないできたら怒るじゃないか。だったら探してきた方がいいと思って」
「でも時間かけすぎよ!」
「ごめん……。あ、でも、子機の方はあった」
「これだけでつながるわけないでしょ」
「わりぃ、もう一度探してくる!」
「もう時間オーバーよ。あなたは乗っていきなさい。私が取りに行くから。ほら、これちゃんと持って」
と、トムさんに無線機の子機の方を持たせる。
(こんな気弱なトムさんを初めて見たなぁ)と、この場にいた誰もが思った。
運転手さんのおばさんが話し始める。
「それでは、お城まで30分程度かかりますが、酔いやすいかたおられますか?」
かえでちゃんが申し訳ないように手を挙げたら、シーアが元気よく挙げているのが見えた。
「お二方のために途中で休憩をはさみます。あと、どうしても気分が悪くなったら、遠慮なく私にお申し付けください。」
「はーい」とシーアが言った。
ミライさんの姿が見えなくなったところで出発した。
最近のトランシーバーは結構遠くまで届くそうです。でも今のネットの時代に使っている人はあまり見かけません。
舞踏と武道と葡萄(果物)って似てません?




