私立クラシカル学園
本来は「土曜日更新」
と決めているはずなのに日曜日となってしまっている。
だんだんとこの物語もややこしくなってきている。
ややこしやー、ややこしや!
ト・ラ・ン・プ・ハ・ン・タ・ア
トラップハンターであそぼ!
ここ、よくわからない星のサーリ王国に来てから、かれこれ1週間が経った。石を投げたり、お泊りしたり、走らされたり、喧嘩したり、穴を掘ったり、倒れてしまったり、おとりになったり、バーベキューしたりと、いま振り返ってみると、さまざまなことをしてきたんだなと思う。
さて、夜が明けた。今日も一体何が起こるのか。でも、それが分かってしまったら、つまらない生活を送ることになるだろう。
今、俺は気分がいい。ハイテンションモードである。
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「よーし!今日も頑張るぞ!」
俺はテントから出た後、体を伸ばしながら叫ぶように言う。
「お、元気いいね」
近くにいたトムさんが言った。多分、毎日の筋トレ帰りだろう。俺は元気よく返事をした。
「トムさんっ!おはようございます!」
「おおう。おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「はい、いつもよりぐっすりでした!」
その理由は俺が使っているテントの中にある「マット」だ。
バーベキューの次の次の日、シーアとマアカさんが夕方ごろ来て――――――
「あ、あの……」
うつむいているシーア。二人は寝ようとしている俺の前に突っ立っていた。
「海さん。昨日はお騒がせしてすみませんでした」
突然、マアカさんが頭を下げる。あいにく、俺は昨日何をされたのかよく覚えていなかった。
「ええっと……何かあったっけ?」
「ええ!バーベキューの時のこと、忘れたのですか?」
マアカさんは目を丸くして見つめてきた。俺はやや引いた。
「いや、バーベキューは覚えているけれども、そんな謝られるようなことされたかなって?」
すると今度はシーアが驚いた顔をして喋った。
「き、昨日の朝のことも覚えていないの?」
「あ、朝って……あ、はあああ!///」
ようやく思い出した。主に朝の出来事が……。
「ちょ、想像するなー!///」
赤面する俺とシーア。そういえば、俺は自慰行為をしようと下に何も履いていなくて、そのまま眠ってしまったのだっけ。そして朝起きたら隣にシーア、前にはマアカさん、下は立っている男の証があったのだ。しかし、どうしてシーアが隣にいたのだっけか、記憶があいまいである。
「も~!!!」
手で顔を抑えるシーアに対して微笑するマアカさん。
「あらあら、お二人とも初々しいですね」
「そ、そんなこと……」
「それはともかく、昨日はシイアと私がご迷惑を掛けましたので、お詫びとしてこれをあげます」
マアカさんが差し出したのは、比較的大きなサイズの黒い物体だった。とてもフワフワしていた。
「何これ?あ、床に敷いて寝るやつ?」
「はい。『マット』です。」
「へー!どうもありがとう!」
「いえいえ、そんなこと。」
素敵な笑顔を振るまうマアカさんの横で、腕を組みながらシーアはボソッと言った。
「そ、それなら腰を痛めることないから」
「あ、ああ、どうも。」
俺は二人にお礼をした。
――――――というわけだ。
その日の夜の寝心地ときたら、至福のひととき、すぐに寝てしまった。そして今、目覚めの良さに感動している。
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昨日マアカさんからもらったお茶とパン、そしてバーベキューの残り物を朝食とした。実は俺は味噌汁が欲しくなりたまらなくなっている。先日マアカさんに思い切って頼んだことがあるが、そんな料理は知りませんでした、と言われるだけだった。ああ、母さん、寮の食堂のおばさん、どんなに幸せをもらっていたのかと思うと、また会いたくなってきた。うっかり涙をこぼしそうになる。
「おい、海。そんなに帰りたければ今こうしてのんきにしている場合じゃないぞ」
作業服のような服に着替えおわったトムさんが近くに来ていた。
「そ、そうですよね」
俺はテントに引き返して、着替えようと思った。
「……と、言いたいところだけど」
トムさんの話には続きがあるそうだった。
「え!?」
「海、お前いくつだっけ」
「17歳ですけど……」
「そう、お前は学生であるべき年齢だ。本当はこんなところで穴を掘らせるなどさせたくない」
トムさんは腰に手をあてながらしゃべる。
「でも、そうでもしないと帰れないですよ」
「それでもだ!勉強は大事。どんな状況であっても学生は学生らしく過ごさなくてはならない。それが俺のポリシーだ」
「うう……」
すると、トムさんが俺の顔を覗き込むように見てきた。若干退く俺。
「お前は勉強が嫌いそうな顔をしているよな」
「そ、そんなはっきり言わなくても……」
グイッと近づくトムさんの顔。
「そうだよな。嫌いだよな」
「ええ、ええ、そうです!」
(目力!)
するとトムさんは姿勢を戻しながら言った。何かすごい案を浮かんだような顔をしている。
「だったらシーアたちが通っている学園で一緒に学ぶのはどうだ」
「え、学園ですか?」
「ああ、そう。『お嬢様学園』だけど……」
「ええー……」
「分からないところがあれば教えてもらえばいいじゃないか。ほら、マアカはどうだ。頭がよさそうに見えるだろう」
「私がどうかしましたか」
不意に、後ろから声がした。俺は驚いて肩をすくめた。
「わ、マアカさん後ろにいたんだ!」
「マ、マアカでいいのよ?」
「?」
よく見たら、シーアもいた。
「え、なんでいるの?」
「は?いちゃあ悪い?」
「あ、いや、悪くはないけども……」
話を切り替えるように、マアカさんはしゃべり始めた。
「私たち、これから学校に行くのですけども、ちょっと様子を見たくなりましてね」
よく見ると、二人とも制服姿だった。この世界に制服が存在するのかは知らないが、紺のブレザーとチェック柄のスカートからは、誰が見ても制服だと思うだろう。
「あ、あの、その、昨日はよく眠れました」
必死になって出てきた言葉がこれだった。
「あ、そうなのですか!よかったです!二人で一生懸命選んだ甲斐がありましたね。海さんが喜びそうなのはどれかって」
「っ!ちょ、マアカちゃん!それは言わない約束でしょ!」
「あら、そうでしたね。それでは、失礼します」
「あっ!ちょっと待った!」
トムさんが二人を呼び止める。
「はい?」「ん?」
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トムさんがさっきまで話していたことを伝えた。
「え~っ!海が学園に~!?」
「先生方、許してくれるでしょうか……」
腕を組みながらトムさんが喋る。
「まあ、俺も無理にとは言わない。ただ、君たちと同じ年だからそれなりに学生生活をした方がいいと思っているのだ」
「でも、あそこって女の人しかいないんでしょ?」
不安そうな顔をしながら、俺はシーアとマアカさんに聞いた。
「んー、でも、『男』というものを知らない方が大勢いると思いますよ」
「そうだよね、私もあなたたちに合う前は『男』は存在するなんて半信半疑だったのだから」
「へー」
どうやら俺たちはこの星では伝説の生きもの扱いらしい。
「う、でも、なんか怪しまれるんじゃないの?声低いとか、骨がゴツゴツしているとか。」
「大丈夫だよ。ほら、ミーナちゃんだって、声低いし、運動部のキャプテンはほとんどガタイがよくてゴツゴツしているし、あと、胸だって小さい子はいるから」
シーアはマアカさんの方を見た。具体的には胸のところを見ていた。つられて俺も見る。
確かにシーアと違ってマアカさんは胸のところに凹凸が見られなかった。
「ん?シーアさん?どうして私を見ながら言うのですか?私をからかっているのですか?えー?」
なんかマアカさんの頭に『怒りのマーク』がでてきたような気がした。笑いながらしゃべるマアカさんが怖かった。
トムさんがあごに手を添えながら、悩んでいた。
「そうか、だったら女装しないといけないのかなあ……」
突拍子もないこと言ったので、全力で阻止する。
「いや、そんなことしたくないです。それだったら学校に通えなくて結構です」
シーアが驚いた顔をしながら見ていた。
「海が女装?女の子みたいになるの?」
一時停止するシイア……。
突然顔を上げて……
「あーーーーっはっはっはっ!!!!!女装、女装だって、あーーーはっはっ!おかしいおかしいっ!ひーーーっ!」
シイアがおかしくなった。
「ちょっと!笑いすぎだ!」
「もう、シーアさん……」
「ひっひっ、おなか痛い、おなか痛い、ヒーーーッ!」
「そ、そんなにおかしいのかよ!」
「だって、ヒッ、海が女装ってことでしょ。ヒッ、胸ボインって、ヒッ、おしりキュって、ヒッ、メイクなんかしちゃって!ヒーッ!」
「キーーー!」
トムさんが俺をなだめる。
「まあまあ、冗談だって、冗談」
トムさんの冗談を信じてしまうと、本当に疲れる……
「では、とりあえず私たちから先生に言っておきますので、許可がでたら一緒に学校行きましょうね」
「あ、ああ、ありがとう……。そういえば、かえでちゃんは?」
「お?確かに」
かえでちゃんの姿が見えない。かえでちゃんはいつもマアカさんの家で泊まっている。俺たちと過ごすと何があるのか分からないからだ。
「ここに立ち寄らないで行ってしまったのでしょうか……」
「さ、さあ……」
二人とも辺りを見渡す。
すると、向こうから見たことがある子がやってきた。
その子を見たとき、始めは歩いていたが、こっちに気が付いたのか、急に走りだした。
「かえでちゃん!!!」
なんだか離れ離れになってしまった愛犬との感動の再会のような気分だった。
しかし、服装がどことなく違和感を覚える。
「か、かえでちゃん……その服装は……!」
「ああ、そうだった。今日からかえでちゃんは私たちと同じ学園に通うことになりまーす!」
「ええ!?」
俺とトムさんは驚いた。
「かえでさんは確か6年生でしたよね」
マアカさんが優しそうな顔でしゃべる。
「え、小学生なの!?」
「……海、そんなことも知らなかったの?」
シーアが俺を見ながら言った。
「うん」
マアカさんがこちらを向いてしゃべり続ける。
「ちなみに私たちは11年生です」
「えっと……高校二年生?」
「ええ、そうです」
この世界はすべて「年生」というので統一しているようだ。ここの6年生が日本の小学6年生に対応しているようだ。「高校生」という言葉も通じるようだ。
「海って何歳だっけ?」
シーアが俺に振ってきた。
「え、教えてなかったっけ?」
「うん。聞いてない」
何故か恥ずかしそうに言った。
「……17」
「え?」
「17歳!」
それを聞いたシーアは、突然マアカさんとコソコソ話し始めた。嫌な顔をして……。
「な、そんなにだめなのかよ17歳は」
「だって、同い年って関わり悪いじゃん!」
「お、同い年かよ!」
「そうだよ!悪い!?」
「いや、俺は悪くないけどお前がそんな嫌な顔するから」
「私はあなたに勉強を教えるなんかしません!」
シーアがそっぽを向く。
「えーなんでー!」
ここの世界についてろくに分かっていないのに、教えてくれないのは困る。
「同い年って聞いてから海のこと嫌になった。私は年下じゃないといやなの!」
「ショタコンか!?」
「ショタコンって何?」
「何でもない!」
「あっそ!」
「まあまあ、お二人とも、落ち着いて……」
マアカさんが止めてくれた。
かえでちゃんが小さな声で
「…………私は年上でもいい」
って言っていたような気がした。
俺はかえでちゃんの制服姿を始めてみた。つい直視してしまう。
「それにしても、制服姿似合っているね」
「え、私!?」
「シーアじゃないよ。かえでちゃん」
「ちっ」
(舌打ちした!?ねえ、舌打ちしたよね!?)
かえでちゃんが急に、真っ赤になって、
「……あ、……ありがとう」
と言った後、恥ずかしくなったのか下を向いた。
「あ、シーアさん、あまりゆっくりしている時間はありませんよ!さ、早くいきましょう!海さん、トムさん、失礼します!」
マアカさんがお辞儀をする。
「ふんだ。幼い女の子好きなんて気持ち悪い!関わりたくない!」
シーアがぷんすか歩いて行ってしまう。
その後ろをマアカさんとかえでちゃんが歩いて行った。
俺はその後ろ姿を見ながら肩を荷を落とした。
「……俺がロリコンだって言いたいのか、あいつは」
実は正解であることを、誰にも言わないようにと、俺は決意した。
「さ、俺たちは作業に戻ろう!まずはお金をどうすれば貰えるのかだ!」
トムさんははきはきしている。けじめがついているところが羨ましかった。
「は、は~い……」
俺はしぶしぶトムさんの後を追った。
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シイアたちが通う学校
『私立クラシカル学園』
創立50年を超える、まさに伝統校だ。
そこの「高等学校職員室」に、シーアとマアカがいた。二人の担任である「レベッカ先生」に相談をしている。当然、今朝のことについてだ。
「ダメです。許可しません。」
「えーなんですか?」
シーアが腕をブンブン振る。そんなシーアに向かってレベッカ先生は少しキツイ口調で話す。
「考えたらわかるでしょ!住む家が無い、保護者もいない、お金も無い、そんな人に許可が
降りるわけないでしょ!」
「で、でも、レベッカ先生、その子17歳ですよ。同い年ですよ~」
「17歳でも社会人はいます」
「でも、勉強しないと……」
「しないとなんですか?」
先生の質問にシーアはたじろぐ。続けて先生が話す。
「だいたい、あのうわさの『男』という者でしょ。そんな子をこの学園に入れたらどうなるのか分かっているの?」
「え、えっとー……。モテモテになるとか?」
「ちーがーいーまーすーーー!ここにはサーリ王国より外から来た人もいるのですよ。研究機関にかかわりがある先生もいるでしょ。私はそっとしておくけど、あの人たちが『男』という存在を聞いたらどんな行動をすると思う!?」
「そんなの、今も変わりませんよー!危険と隣り合わせなのはー!」
「だったら、なおさらここに入れさせるわけにはいけません!」
「で、でも……」
シーアは困ってしまった。先生に言えば簡単入れるのかと思っていた。しかし、今は何を言えば先生が許可してくれるのかで頭がいっぱいだった。隣にいるマアカが心配そうに見る。
「シーアさん……」
先生が立ち上がり、
「分かったらさっさと教室に戻って。もう授業が始まるでしょ」
と言いながら、次の授業で使うのであろう書類をまとめて始めた。
「シーアさん……、一旦引き上げましょ。チャイムが鳴りそうですし」
「う、……うん」
シイアはうつむいたまま、職員室から出て行った。その後ろ姿をレベッカ先生が見ていた。いや、見届けていた。悲しそうな顔をしながら。
先ほどの様子を、別の先生が見ていたようだった。レベッカ先生に近づき、事情を聞いてみる。
「レベッカ先生、何があったのですか?」
「ああ、あの子たちがね。ほら、うわさで聞かない?校区内に『男』がいるって」
「お、『男』というのは、オカルトの……」
「うん、あれ、本当らしいよ」
「へぇぇ」
「あ、これあまりしゃべらないで」
レベッカ先生は小声で話す。もう一人の先生は耳を傾ける。
「あ、はい。それで、その子がどうかされたのですか?」
「この学園に入れたいだって」
「へえ、それで?」
「私は反対した」
「な、なんでですか!?」
レベッカ先生の言葉を聞いた先生は、やや大げさに反応した。
「考えたらわかるでしょ。17歳としてもあれはただの『ホームレス』。そんな子をたとえ『男』であっても入れさせるわけにはいかない。特に校長先生は絶対許可しない」
「そ、そうですよね……」
ペコペコしながら、その先生は自分の職場に戻って行った。レベッカ先生はため息をつきながら、スケジュール表を見る。放課後に空きがあるのを確認する。
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「えー!?だめだって!?」
マアカさんとシーアから事情を聞いた俺はビックリした。
「そうかー!学費が必要なのかー!当分無理だなあ……」
トムさんがガックリしている。
「ごめんなさい。私たちにはどうにもならなくて……」
マアカさんが頭を下げる。
「いや、いいんだよ。責任はこっちにあるから」
トムさんが言う。
「そ、そうだよ。謝らなくてもいいんだよ。別に俺は通えなくたって平気だから!」
俺も心配しないさせないように言ったら、頭をあげたマアカさんが
「今後どうします?海さん?」
と聞いてきた。俺の代わりにトムさんが反応した。
「そうだなぁ……とりあえずお金を稼がないと」
「目処はたっているのですか?」
シーアの質問にトムさんが応える。
「ああ!こんなの考えた!」
と、言いながら、トムさんはポケットの中から、クシャクシャの紙を取り出した。紙に書いてある文字は「ひらがな」で彼女たちには読めない。
「……えっと、なんて書いてあるのですか?」
「第四部隊、働く、バイトくらいしかわかりません」
すると、マアカさんの後ろにいたかえでちゃんが口を開いた。
「……第四部隊といっしょに働くバイト」
「え、かえでちゃん読めるの?」
振り向きながら、シーアが目を丸くする。
「え、……だって、日本から来たから……」
「ああ、そうでした、そうでした」
マアカさんが深刻な顔をして話す。
「うーん、難しいと思いますよ」
「ど、どうしてだ?」
トムさんが必死になる。あまり見ない慌てぶりだった。
「第四部隊は主に木の加工などの技術職です。しかもあそこは、きちんと体制が整えられているのでそのような雇うようなことはしないと思います。」
「うう、そうか……」
シーアが頭の後ろで組む。
「あーあ、どうしよう…。このまま何にもできないのかなぁ」
「んー……どうしましょう」
二人とも悩む。
「お、俺は別にいいんだよ、学校に通えなくても」
というか、この世界に来て勉強をしたくないという思いがある。
「俺はサバイバル慣れているからなんとかなるし、俺みたいな老年はどうなってもいいから」
「トムさん何歳ですか?」
「31歳」
(思っているより若かった。)
「と、とにかく、俺はいいの!学校なんていいの!」
トムさんが腰に手を当てて言う。
「ダメだ。お前のような若い人は勉強する義務がある。たとえそれが嫌でも、異国だとしてもだ」
「そうですよ、海さんっ!私たちと学校に行きましょうよ!」
マアカさんも詰め寄る。
「それでも断られたんだろ!?な、ならそれで退くでいいじゃん。諦めていいじゃん!」
すると今度はシーアが近づいてきた。
「そこまで言う!?せっかくみんなが海を心配してやっているっていうのに!少しは有り難いと思えば!?」
「俺を学校に通わせたいみんなの気持ちには有り難いと思うよ!でも、俺は今は学校なんていいんだよ!それよりもいま大事なのはどうやって元の世界に戻るかだろ!?」
「それでもあんたは私と同い年でしょ!?若いうちは学校にいくほうが大切なの!」
「なんで元の世界に戻るより学校の方が大切なんだよ!」
「それでも大切なの!」
火花が散る二人。マアカさんとトムさんは呆れてしまっている。その後ろにいるかえでちゃんは慌てていた。
「いいかげんにしてよ!どうしてそんなに学校が嫌なの!?」
「いいかげんにするのはそっちのほうだ!頼んでもいないのに勝手に話を進めやがって!」
「なにをっ!!!」
「も、もう……………
うっとうしいだよ!
何から何までいちいち口出して!余計なお世話なんだよぉ!!!」
(はっ!)
熱くなってしまった……。今のは少し、言いすぎたのかもしれない。しかし、時すでに遅し、シイアは涙を浮かべていた。
「え、…いや………その……そんな、余計だなんて、思っていなくて……その……」
(ああ、だんだんと赤くなってきている)
バッ!
突然シーアは振り返って、住宅街の方へ走って行ってしまった。
「あ……」
呼びかけたが振り向きもせず、走り去ってしまった。マアカさんがにらみながら俺を向いた。
「海さん、さすがにさっきのはひどすぎます」
トムさんがうなづく。
「うん、俺もそう思う」
「……」
俺は何も言葉が浮かばなかった。マアカさんが話す。
「今回の件で一番楽しみにしていたのはシーアさんだったのですよ」
「えっ」
「シーアさん、前からずっと、海さんと一緒に学校で過ごしたいって仰っていました。一緒に勉強したいなんて」
「で、でも、シーアは、朝、俺に、勉強なんか、教えたくないって……」
「そんなのシーアさんの『照れ隠し』です。私たちは、今まで海さんとは違う学年かと思っていました。でも今日同い年だって知れて、凄く舞い上がっていましたよ。そして今回、担任の先生に思い切って、お願いしたのです」
(やめろ……!)
「シーアさん、食い下がってでも、先生にお願いしたんですよ。何度も頭を下げて。これもすべて海さんのためだって。海さん知りませんでしたか?シーアさんっていつも海さんのことで頭がいっぱいなんですよ。学校でも、家に帰っても…」
(やめろ……!)
「はっきり言って、シーアさんは、……彼女は、海さんのこと、す……―――」
「やめてくれぇぇぇ!!!!!」
俺は耐えきれず、自分のテントに向かって走り去ってしまった。いま、マアカさんが言おうとしたことが、信じられなくて、信じられなくて……。そして、そんなのシーアに向かって、自分が何をしてしまったのかを、思い出すと、苦しくなっていく。
テントの中で、俺は頭を抱えた。こんな感じで告白されるのは嫌だった。恥ずかしさと悔しさが入り混じっていた。頭を抱えながら、うずくまっていると、目の前に「マット」があった。そしてマアカさんが言っていたことを思い出した。
「二人で一生懸命選んだ甲斐がありましたね。海さんが喜びそうなのはどれかって」
「っ!ちょ、マアカちゃん!それは言わない約束でしょ!」
「俺は、俺は……!」
何という酷いことをしてしまったんだと激しい後悔に見合われた。そして、これからどうすればいいのかまったくわからなかった。
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クラシカル学園のとある場所。
とても上品な品物に赤いカーペット
高級机と椅子には髪型がまるでトッピング付きソフトクリームのような人と、シーアのクラスの担任の先生、レベッカ先生がいた。
「というわけでありまして……」
「ふーん。『男』ねぇ……」
すごい髪形の人は前日にマアカからもらった資料の書類を見ながら嫌そうにしゃべっていた。きつい言葉がこれからでるんだろうな、と思いながら、レベッカ先生は挑戦してみた。
「お願いします。この子はまだ17歳で勉強する年です。お願いします。この学園に入れさせていただけないでしょうか」
何度も頭をさげる。これでもかというほど。
「17歳は勉強する年なんて偏見よ。私だってこの年でもまだ勉強しているのだから。あと、この子は学費払えないんでしょ。一見すると、頭がよさそうには見えないわよね~……。奨学金なんて申請しても降ろしてくれないわよ」
「そこをなんとか、お願いします。お願いします」
無性に頭を下げるレベッカ先生
「そんなに頭を下げても無理なものは無理なの。どうしてそこまでするの~?」
ソフトクリームのおばさんがレベッカ先生に近づく。
「そ、それは……信頼しているからです」
「はっ、信頼?だれから?この件を頼んだあの学生さん?まさかそれだけの理由で?」
「ええ、そのまさかです。」
一度思考停止するソフトクリーム。
「ふーん…………。呆れた。まさかそんな先生がこの世に存在するとは!しかも、こんな身近に!」
「信頼するのはおかしいですか」
「だって、学生と教師の関係って教育を受ける者と教育させる者でしょ。そんなまだ社会の常識や建前を知らない子を信頼するなんてありえなーい。おかしすぎる!」
その言葉を聞いて、レベッカ先生は深く落胆する。
(……ああ、無理か。こんなの無茶なことだったのか)
レベッカ先生が諦めようとした、その時、
「校長先生、それこそ、『偏見』なのでは?」
「わ、り、理事長先生!」
ドアのところに豪華なおば様が立っていた。とても高そうなドレススーツに高いヒールを履いていた。
(あ、あれが、理事長先生………。初めて見た……。)
理事長先生は卒業式くらいしかお目にかかることはできない。何せ、別の事業で忙しいとのこと。レベッカ先生は今年度に就職したばかりで、一度も会う機会が無かった。ましてやこの距離でなんて滅多に怒らないことなのだろう。
コツコツと音を立てながら、歩んでくる理事長先生。
「り、理事長先生。どうしてこちらに?」
「ええ、ちょっと様子を見に来たのだけれども、何か話し声が聞こえると思って。そしたらご覧の様子」
「う、き、聞いていたのですか……」
校長先生の慌てる様子も、レベッカ先生にとって始めてだった。
「ちょっとあなた」
「え、私ですか!?」
いきなり指されたので、びっくりしてしまった。
「その子の資料、見してくれない?」
「は、はい」
レベッカ先生は校長先生の机の上にある書類の束を理事長先生に渡した。その中には「早元 海」とおもわしき人物像が描かれている。
「ふーん。久々だわ。『男』っていうのはこんな顔をしていたのかしら」
理事長先生は絵を見ながら、朗らかに笑った。「久々」というキーワードに少し引っかかったが、気にしないことにした。
「第七部隊の所属ねぇ……」
「あ、はい!その第七部隊の子から頼まれて……」
「……『シイア』ちゃんでしたっけ」
「え、あ、はい!そうです!」
何故か自分の生徒の名前を知っていたため、驚いた。
「フフ、その子の姉が何度も話していたから知っているわ」
「姉、ですか。『サラさん』でしたっけ……」
「そうね、あなたと同い年くらいだったような気がするわ」
「そ、そうなんですか……」
サラさんのことは、昔、優秀な学生の隊長と名が挙がっていたが、王国を危険にされしてしまった事件の後、姿を消していったということしか知らない。
緊張して、いつの間にか肩が上がっていた。
「ふーんおもしろいじゃない。いいわ。プランを立てくるわ」
その言葉に反応するように、不意に校長先生が立ち上がる。
「し、しかし、その子はお金がないのですよ!学費なんか払えません、そんな子を……」
「いいのよ。そのくらい。じゃ、あとで詳細な資料を送っといて」
「は、はいーっ!」
校長先生は理事長先生が部屋から出ていくまで頭を下げたままだった。頭を下げる校長先生も始めてみた。
理事長先生が出て行ったことを確認するとすぐに椅子に座り、服を整えたあと、不満な顔をて言った。
「ふん、そういうわけだから、その子に関する情報を集めてきて」
「は、はい!」
レベッカ先生は、失礼します、とお辞儀をしてからこの部屋から出て行った。
(あの理事長先生。易々と承認したけど、何か引っかかる……)
レベッカ先生は疑っていた。
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「海さん、海さん、海さんーーーっ!!!」
マアカさんがいつもとは違い、走ってきたので驚いている。
「ど、どうしたの?マアカちゃん?」
「これ、これ見てください!」
「これは……」
『花便リモ伝ワル今日コノ頃、ゴ家族ノ皆様ニハマスマスゴ健勝ノコトト存ジマス。サテ244年4月30日ニテ早元 海様ノ三者面談ヲ実施スルコトニナリマシタ。』
「さ、三者面談!?」
「ええ、今日担任の先生がこれを海さんに渡すようにって。もしかすると入学を認めてくれたのかと」
「ええええ!」
勉強での大変が浮かぶ半面、新たな学校生活に顔が笑ってしまう。
「お、どした?」
と言いながらトムさんが来た。マアカさんはその紙をトムさんに渡した。
「へー三者っていうことは保護者もいかないといけないのか」
「そういうことになりますね」
後ろから追いかけてきたかえでちゃんが若干、息を切らしながらつぶやくように言った。
「……海くん、よかったね」
「うん、本当によかった。」
すると、トムさんが肘で俺をつつく。
「おー、なんだよ!?お前、学校行くの嫌だったんじゃないのか!?んー!?」
「い、いいんですよ、過去のことは」
「海さん、もしかしてやましいことを考えているのではないんでしょうかー!?」
じとーっと見ながらマアカさんがしゃべる。
「そ、そんなこと言うなよ~!」
笑いが込みあがって止まらない自分がいた。
「とりあえず、面談の準備しないとな」
「あ、私、お洋服の用意しましょうか」
「俺も海の保護者代表として頑張らなくては!」
「え、トムさんが保護者代表?」
不思議そうな顔をしてトムさんが聞き返す。
「そ、そうだが、何か嫌か?」
「い、いやいやいやいやいや、そんなことありません!」
「そ、そうか……。よしまずは発声練習。次にメイクも……。あ゛~、あ゛た゛、あ゛た゛ち゛は~……。あ゛た゛ち゛ト゛ム゛た゛よ゛!」
「ト、トムさん……。別に女性のマネを無理にしなくてもいいのですよ」
「そ、そうか。」
(よーし学園生活始まるぞ~!!!)
胸が躍る思いでいっぱいだった。しかし、肝心な人がいなかった。
「ところで、シイアは?」
俺はマアカさんに聞いてみた。
「ん~……。たぶん先に帰ってしまったんでしょうか。シーアさん、このこと多分まだ知らないと思いますよ。」
「そうなんだ……」
「私、今からシーアさんに伝えてきますね!」
マアカさんが引き返そうとすると、ふと、お知らせの紙が目に映った。そして俺はいいアイデアが浮かんだ。
「ちょっとまって!マアカさん!」
「だから、『さん』はいらないですって、もう」
マアカさんが言いきる前に俺はテントに向かって走った。
俺はテントの中から紙と鉛筆を取り出した。そして急いで文字を書いた。
ひらがなを使わないように。
折りたたまれた紙をマアカさんに渡した。
「ごめん、マアカちゃん。これをシーアに」
マアカさんはその紙を見た。やや裏が透けて読めるようだった。
「フフフ、わかりました」
そう言ってからマアカさんとかえでちゃんは足早に住宅街へ向かっていった。
(これでシーアが許してくれればいいのだけれども……)
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シーアが住んでいるの家にて。玄関の音が鳴り、シーアがドアを開けたらそこにマアカがいた。
「え、マアカちゃん?どうしたの?」
「フフフ、聞いてください!海さんったら私を『ちゃん』付けしてくれましたよ!もう少しであなたみたいに呼び捨て同士になれそうです!」
「は、はあ……」
これを言うために来たのかと、シーアは思った。
「あ、そうです!これ!見てください!」
マアカはシーアに例のお知らせの紙を見せた。シーアは受け取ったらすぐに読んだ。短い文章なのにだいぶ時間がかかった。
そしてだんだんとシーアの顔が緩んでくるのを、マアカは分かった。
何も言わず、シーアはマアカに抱きついた。
「良かったですねぇ。シーアさんが頑張ったおかげですよ!」
「うん、うん……」
マアカの耳元で鼻をすする音が聞こえる。
「あ、そうそう、これ、海さんから」
「海から?」
「読んでみてください」
「あ、うん」
若干目元が赤くなっているシーアさんに、もう一つの紙を渡した。
シーアは紙を広げて読み始める。
『シーアヘ
昨日ハアンナコト言ッテゴメン。
僕ハ シーア ガ一生懸命、先生ニ説得シテクレタコトヲ嬉シク思イマス。
アリガトウゴザイマス。
p.s.
制服姿、似合ッテイルヨ。
海』
読み終えたとき、シーアは玄関先でうずくまっていた。マアカが見ている目の前で。
ふいに顔を上げる
「…………ねえ、なにか手伝えることはない?」
その顔のクシャクシャさを見た途端、若干マアカは退いてしまった。
「あら?シーアさん、海さんに会いたくなったのですか?」
「ち、違う!……そうだけど、そうじゃないの!」
「フフフ、たしか鍋の底に穴が開いてしまったって言っていました。あら?なぜでしょう。私ったら鍋を持っている?」
「……もう。分かっているのならさっさと行こ」
「はい。シーアさん。」
シーアは涙を拭いながら歩いた。目の前にちょうど夕陽が見える。
お日様が沈むときの空は、こんな住宅街でも、絶景に変わるのだった。
さて、夜がやって来た。 これから一体何が起こるのか。でも、それが分かってしまったら、つまらない生活を送ることになるだろう。
逆に言えば、分からないものこそ楽しいのかもしれない。
手紙が「ですます調」なのか違うのかよく分からなくなってしまった。
時候の挨拶がめんどくさかった。
校長先生や理事長先生のようなおば様キャラは書くのが難しいね!
「あ~ら、そうなの~…。困っちゃうわねぇ~。」




