台風の目で
「目標! ストライトブルーに動きありッ! 敵は東を目指して逃走を図る模様!」
「……! 艦長! 台風の様子がおかしいです! まるで台風がストライトブルーの動きに合わせて移動しているかのようです!」
「そんな馬鹿な話、あるわけないでしょ!」
「しかし、艦長! 空を見てください!」
ストライトブルーが東を目指し舵を切った時、台風もまた、東を目指してゆっくりと動き始めていた。風向きも確かに僅かながら変わっていた。敵のフランス戦艦は天候をも自由自在に操れゆと言うのか、台風もゆっくりと東を目指して進み始めた。
「各艦はこのまま台風と共に前進! 必ず、敵高速戦艦を撃破せよ!」
大和は台風と共に進み、目の中で戦艦ストライトブルーの撃沈を目指した。台風の目の中は海面がまだ穏やかで戦闘に支障はない。だが、一度外に出れば先ほどのような大荒れの天気の中、不利な戦闘を行わなければならない。大和は今がチャンスだと確信した。
だが。
「後方より、閃光が走りました! 敵旧式戦艦からの砲撃です!」
「何ですって!?」
「着弾!」
その行く手を阻まんと沈黙していた旧式戦艦プロヴァンスが決死の砲撃を敢行した。甲板はその殆どが燃え上がり、消化は絶望的。何時、弾薬庫に引火するか分からない状況でプロヴァンスは大和目掛けて一番主砲を撃ちまくった。
「左舷、至近弾! 敵は僅かながら精度を上げています! このままでは危険です!」
目の前を最大速度で進むストライトブルーを見つめつつ大和は決断を迫られていた。台風を操っているかも知れないこの高速戦艦を果たして野放しにして良いのかと。
「黒潮被弾! 艦中央部中破!」
だが、大和に時間はなかった。
「これより、後方の旧式戦艦を仕留める! 駆逐艦は雷撃の用意を! 晴れている間に仕留めるわよ!」
ストライトブルーは速度を維持しつつ、大和と距離を取り次第に視界から消えた。だが、プロヴァンスはそれでも砲撃を止めない。プロヴァンスの速度は既に止まっている。機関室がやられているに違いないであろう。
「陽炎、萩風! それぞれ魚雷を投射しました!」
「敵艦、陽炎に向かって砲撃!」
「陽炎、至近弾! 損傷なし!」
二隻から放たれた計六本の魚雷は海中で速度を増して目標目掛け真っ直ぐ進んで行く。日本海軍の酸素魚雷は航跡があまり見えないと言う事で有名だ。今回の魚雷も航跡は目立っていない。
「六本とも命中しました! 敵旧式戦艦ゆっくりと右へ傾斜してゆきます!」
「風が強くなってきました。そろそろ引き上げた方がよろしいかと」
「分かった。これより本艦隊はL諸島へ向かう。進路を北へ向けよ!」
プロヴァンスはこうして沈没して行った。ストライトブルーを逃がすため、自ら殿を務め任務を全うした。ストライトブルーの姿はもう見えない。プロヴァンスは六本の魚雷を受けL諸島周辺海域にその姿を没し、此処に台風の戦いは終焉を迎えた。
日本側の損害は、黒潮中破のみであった。




