羽は宇宙へ
「フッフッフッー。アリスさん。タイミングが丁度良かったです! 今の私ならば一瞬でその……ウィ……ウィーレ姉さんを簡単に探し出してあげようではないかー!」
「えっ……あっ、はい。その……宜しくお願いします!」
「まぁ、まぁ、そんな硬くならずに私の隣へ座りたまえー」
「で、では……お言葉に甘えて……」
アリスちゃんは私の隣へ座った。どう言った経緯で私の所まで来たのかは、少し疑問だけど、それでも今の私ならば、簡単にお姉さんを探しだせるのです! 何せ、今の私には……そう、人口衛星があるのだから! 人類の英知、最高ー!
「ささっ、それでは早速人工衛星のライブ映像を……はぁ!?」
私は驚愕を通り越して奇声を上げた。その奇声に隣で顔を覗いていたアリスちゃんもビックリ。でも、これは流石に奇声を上げるであろう。打ち上げもしていないのに、私が召喚したはやぶさは何と、宇宙へ羽ばたいてしまったのだ。
「何でしょうか? この光景は……」
「アハハハ……強いて言うなら……宇宙……かな?」
「ヴェ!? 宇宙!?」
「う、宇宙てっ本当ですか!?」
向こう側のベットに座っているシャールまで反応した。そうだよ、はやぶさは地球? を離れて、指示なしに宇宙へ行っちゃったよ。もしかしたら、そのまま小惑星の石とか採りに行くんじゃあないかな。「ちょっと小惑星に行って来る」てっ感覚で石を採取してくるんじゃあないかな。これ。
「し、仕方ないわね……こうなったらもうプレデターだけで捜索するわよ! もうヤケクソよ!」
「えっ、その、ヤケクソですか!?」
「安心してアリスちゃん。手荒な真似はしないわ」
……あれから実に二時間は経過した。既に午後の授業は終了し、少し空が赤くなって来た。あぁ、夕暮れが近いよぉ。結局、授業はどうなるんだろう……でも私はただひたすらプレデターとホルテンから送られてくる映像を見続けた。正直……もう、限界です。たまりません。
「おかしいな……もう森を軽く二週ぐらいしているような気がするのにな……何で一つもピンと来ないんだろう。アレかな。やっぱりもう亡くなっているのかな」
「棒読みで不謹慎な事を言わないで下さい」
「はい……すみません。……その、寝て良いですか?」
「状況はよく分かりませんけど……ダメです」
「鬼ですか……」
その後もひたすら画面と睨めっこし、シャールに起こされつつ、ついに人影らしい物を二番機が捕らえたのだ! ……一瞬だけだけど。よくやったぞ! 二番機! 永遠の二番手! お前は私の英雄だ!
私は急いでその動画を巻き戻し検証に入った。
「これ、死体だよね。どっかの誰かさんの死体だよね」
「何ですか、シエスカさん。間違えて生徒を殺っちゃったんですか?」
「殺ってない。殺ってない。私、そんな恐ろしい事出来ないよ」
「魔獣を一匹殺っているのに何ですか。その清々しい顔は。全く説得力が無いんですけど」
二番機が見つけたソレは、森の大体真ん中ぐらい。思いっきり横たわっていてピクピクと小刻みに動いている事が分かった。本当、私の無人機てっ優秀だわー。でも、これって相当危ない状態だよね。小刻みに震えていると言う事は道中にモンスターに襲われたか、それとも脱水症状か。何れも救急車を呼ばないと行けない事態ですね。でも残念。この世界。救急車が無いんです。
「召喚!」
「今度は何を召喚したんですか?」
「いや、何。そのね。これももしかしたら召喚できるかな? と言う感覚で試したのよ」
「で、召喚されたんですか?」
「まだ分からないわね」
一応、逐一様子が見れるように二番機にはその上空をクルクル回っている。私が試したのは、勿論、救急車。もしくは緊急搬送が出来そうな車両である。どうやら私の力てっその時の状況に合わせて召喚されているらしくて、もしかしたらと思ってやってみたんだけど……来ないわね。おかしいな。ちゃんと110番したんだけどな。病院は保健室ぐらいだけど。
「もしかして、その召喚した物てっこれですか? 何か真っ白で四角くて、それでもって何か上のところが赤い……」
「それよ! それはね。救急車てっ言うんだよ!」
「キュウキュウシャ?」
「そう。救急車!」
映像に映っていたのは紛れもなく救急車だった。よし、予想的中! 何か、無人で勝手に患者さんを軽く乱暴に扱っているけど、生きていたら問題ないよね! にしてもこの世界てっGPSとかも無いんでしょう? ひとたび道を踏み間違えたら行方不明になりかねないな……あぁ、冒険者になりたくない。確か日本では七年も行方不明のままだと死亡扱いになるんだったような。
「でも、本当にケケの森はこの人だけなのかな?」
「そうなのではないでしょうか。こんなに待って一人ですし……時には諦めも大事かと」
「そうねぇ……そろそろ潮時かしら……」
そんな時だった。森の外を捜索していた四番機が死に掛けている少女を見つけたのだ。勿論、私は救急車を手配して直ぐに学園の保健室へ向かわせたんだけど……。空気を読めなかったのか。神の悪戯か。召喚されたのは救急車ではなくて、何と。タクシーだったのだ。
「普通、此処は空気を呼んで救急車だよね?」