波浪の雷撃戦
「目標、至近弾! 速力落ちていません!」
波間に見えたのは英重巡洋艦ヨークだった。全長175mのこの艦は波に埋もれながらも未だに日本海軍相手にもがき続けていた。海流に流されながらも、ヨークの砲声は止む事はない。初弾の至近弾は肉眼での目視射撃である。
「次! 装填急げ!」
ヨークの50口径20.3cm連装砲は駆逐艦よりも装填時間が長く常識的に見れば不利。更に相手はその後ろに三隻続いており、全ての撃滅は極めて困難である。だが、一隻でも多く沈め、日本艦隊の妨害を行うのもヨークの任務。危険な状況下、ヨークは白雲の撃沈を決意した。
「装填良し!」
「ファイヤ!」
20.3cm連装砲が白雲に向けて火を吹き、その殆どが虚しく海面に着弾してゆく。だが、白雲の前には行き先を阻むように巨大な水のカーテンが形成されていた。着弾の際に出来た大きな水柱である。その水しぶきを大量に浴びつつ、白雲も戦闘態勢に入り砲雷撃戦を開始する。
「目標、前方の敵重巡! 撃ち方始めッ!」
白雲の50口径12.7cm連装砲が火を吹き、バラバラに散っていった。威嚇のような物だったが、その内の一発が奇跡的にも取り舵を切っていたヨークの艦尾に命中。僅かながら速力を落としたヨークは次にレーダーによる精密射撃を敢行する。
「目標、捕らえました! 更に後方に続くもう一隻の駆逐艦も射程に押さえました!」
「ファイヤ! 奴らをこの渦潮の中に引きずり込ませろ!」
「艦長! 速力が僅かながら低下。このままだと海流に負け、我々が飲み込まれてしまいます!」
「面舵、機関一杯! 当海域の離脱を図るッ!」
取り舵から面舵へと舵を切ったヨークは主砲を右舷へ旋回させる。だが、この時間的ロスがヨークに最悪な末路へと導いてしまう。
「弾着! 一、二、三……どれも至近弾です! 旋回はまだか!?」
「やってます! 残り10秒!」
「遅いッ! もっと早く回さんか!」
ヨークのレーダー射撃が上手くいかない中、隙を付いた駆逐艦磯波が魚雷を三本投射。既にヨークは磯波の射程圏内に入っていた。旧海軍の酸素魚雷は航跡が良く見えず、気がついたら被雷すると言う恐ろしい兵器だった。海中の中は荒れておらず、一撃必殺の酸素魚雷は真っ直ぐヨークに向かって突き進んだ。
そして。
「な、何だ!?」
「か、艦尾に被雷ッ! 敵駆逐艦からの雷撃と思われます!」
「そ、そんなバカな!? 一体、何処から!?」
「続いて艦中央に被雷! 機関室浸水ッ!」
第二射は山雲から放たれた物で、これがヨークに取って致命傷となる。
「舵一杯! これ以上はききません! 舵損傷!」
「主砲、砲撃始めッ! 一歩たりとも奴らを通すな!」
「渦潮の中へ引きこまれていくぞ!」
速力を失い、舵も効かなくなった今。ヨークに抗う術はなく第四射を最後に巨大な渦潮の中へと飲み込まれて行った。数分後、渦潮の中から大きな爆発音が響き此処にヨーク沈没の報が山本長官の耳に届いた。渦潮の戦いはこうして終焉を告げる事になる。




